トイレの奇跡
「トイレの神様」の歌は少し前に流行ったが、
実は「トイレの奇跡」もあったのをご存じだろうか。
きっと、というか絶対知らないと思うので少しお付き合いいただきたい。
当時、私はカリフォルニアのサンノゼ州立大学でジャーナリズムを専攻していた。元々は心理学専攻でコミュニティーカレッジに入っていたが、4年制へ編入するタイミングでジャーナリズムに切り替えた。
きっかけはコミカレの英語の先生からの授業後に突然呼ばれて言われた一言。
「あなたの書き方、視点がいいね。ジャーナリズム向いていると思うから勉強してみたらいい。私も実は学校の先生だけでは食べていけなくて記事を書いてるの。ま、ジャーナリズムだけでもお金はそんなに稼げないけど」
普段は断定的に物事を言わず、相手へ直接的なアドバイスもしない先生だったので、逆にストンと入った。
※言いにくいがそこで「ちゃんとがめつい方」だったのを知ってしまった笑
サンノゼでジャーナリズムを専攻してみてまず気づいた。
当然周りにアジア人がほぼいない。
いるのはPhoto Journalism専攻の人のみだった。
ちなみにJournalismを専攻するとまず4つに振り分けられる。
1.News Magazine(雑誌から波及して広告まで)
2.Print Media(新聞、出版関係)
3.Broadcasting(TV、ラジオ)
4.Photo Journalism(報道写真)
もちろんさらりと全科目を学び、Political Science(政治科学)、ジャーナリズムの歴史など必須科目もあったが、
私は2のPrint Mediaで新聞をメインにした。
卒業までの長い道のりはここでは割愛するが、
卒業前に必ず通らなければいけないのが、
Spartan Dailyというキャンパス内外のDaily Newspaperを
Semester(学期)内で33記事以上書き上げることだった。
それをしないと単位がもらえない。
英語力不足も当然あっただろう、
ずっとフロントページに記事は来ることなく20記事くらいが過ぎた。
するとある日、大学の学長が変わるかもという情報が編集長に入り、
その担当を任された。
調べて重要性がわかったのだが、アメリカの大学は(日本もそうだが)額に開きはあるものの昔から卒業生たちの寄付で成り立っており、誰が学長になるかで各機関、組織、企業、団体からの寄付額が変わってくる。そこに宗教、政治、学歴などいろんなものが絡むので、学長が変わることは実は大学の経営に直結する。
なかなか核となる情報がつかめないまま、学長室のある建物周辺をウロチョロしていたら、ある日トイレの小に行きたくなり駆け込んだ。
そこに白髪のおじさんが入ってきて、横でし始めたので何気なく
「学長さん変わるみたいですね。どうなんですかね」
と質問してみた。あまりよくないクセだが、私は英語の勉強と知人作り(友人まで作ろうとは思わない)を兼ねて、トイレの隣で目が合うとついしゃべりかけていた。相手が逃げられないのをいいことに。。
するとそのおじさんが
「そうだよ。よく知ってたね。僕が次になるからね」
とポツリ。
きっとこの丸坊主のアジア人をまさか記者だとは思わず
ぽろっと言ったのだろう。
まだ(公で)言っちゃいけないことを言った『まずい』という顔から
『いや、ま、大丈夫でしょ』という顔への切り替えを私は見逃さなかった。
『しめた!!』と思い、目に焼き付けておいた顔を覚えて、
編集室に戻り、大学組織の関係者名簿から彼を見つけた。
副学長だ。
それを編集長に伝えるとすぐにどこかへ電話し始めて
しばらく席を外して息を切らして戻ってきた。
「でかした!裏とれた!Go Go!」
英語力ではなく、ネタの力だろうが、
その記事がフロントページを飾った。
新聞が印刷された翌日、みんなの前で編集長から言われた。
「これはトイレの奇跡だな」
私のキャラを知っている同僚たちも笑っていた。
この笑いは嬉しかった。
トイレで裏取り。
本当にどこにチャンスがあるかはわからないものだなとつくづく思う。