赤羽の横断歩道
「ぬちゃっ」
濡れた地面に人が不自然に倒れるとこんな音がする。
赤羽駅前の横断歩道を渡りきったところで左斜め後ろあたりからその独特な音が聞こえた。
とっさに駆けつけると、少し悲鳴を上げた40代くらいのお母さんと息子とみられる20代後半の男の子が二人とも倒れていた。
息子さんは自分の意思では立てない。
すでに起き上がっているお母さんは息子さんを起こせない。
汗をかいたお母さんの額には「体力の限界」とも書かれていた。
肩を組んでようやく着いた横断歩道の最後の一歩で転んだよう。
音に、様子に気づいた人たちが10人ほど集まった。観客は倍以上。
赤羽アピレというデパート前。
タイミング的に集まったチームは年配の女性が多かった。
思い返すと、すでに信号は青になっていたが、ハザードを出して車から降りて助けに出てきた方もいた。
「大丈夫ですか?」
私から声をかけても息子さんから返答はない。
でも、ケガはしていなさそう。
間違いなくこの場で一番体がデカく、おんぶして歩道から移動させられるのは私。
手足が硬直したままの息子さんを抱え、背負い、右肩によだれを浴びながら、デパート一階の小休憩できる椅子に運んだ。
私も自分の汗と雨となんやらでぐちょぐちょに😅
椅子に座っても息子さんの目線は定まっておらず、手足は固まったまま。
「じゃあね」
天井を見つめる息子さんの服とズボンについた土のような汚れを払って、その場を去った。
「ありがとうございました」とお母さんから背中で聞こえた。
一部始終を見ていた娘からエスカレーター上で言われた。
「すごいね」
「そうそう、障害を持った男の子を育てる母親はすごいよ!」
私の友達や元同僚にすごい母親たちがいるので、私の頭はすでにそのヒーローたちを思い出していた。
『本人も大変だろうし、サポートをしている親も毎日大変だろうな。。』
「違うよ、パパだよ」
ハッとした。
ふざけようとしたが、娘が本気のトーンだったので「あ、そお?」とだけ返した。
私からしたら目の前に倒れている人がいて体力のある自分が起こすのは普通のことで、何もしないチョイスはない。といってすごいとも全く思わない。
二人が怪我をしてなければいいなと思う。
いつもはパパ主導のギューを自分から私の腕にしてきたのでただただ受け止めた。
夕立後、暑くじめじめした赤羽の横断歩道での一コマ。
※この話はノンフィクションです。