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SS【ゲーム再開】
古いデパートの最上階にある小さなゲームコーナー。
今は取り壊され駐車場になっているはずのその場所に、なぜかぼくはやってきた。
閉店間際で客の消えた店内。
「どうしたの? 元気のない顔だね」
ゲームコーナーを一人で任されているおばちゃんだ。
メダルを預ける時くらいしか喋ったことがない。
おばちゃんは閉店の準備をしている。
ゲーム機の電源、そして照明を落とした。
辺りは暗くなり非常灯だけが不気味に辺りを照らす。
おばちゃんは店の奥のゲーム機を指さして言った。
「一回だけしてくかい? 私は今日でこの店最後でね。特別よ」
「え?」
一台だけ明かりの消えていないゲーム機がある。
確かあのゲーム機は襲いかかってくる敵を剣や魔法で倒しながら進んでいく横スクロールゲームだ。
ぼくはあまり得意ではない。
そもそもお金もない。
「いえ、また明日」
暗い階段を早足で降りていくぼくの目にとまったのは、階段に落ちている銀色の百円玉。
非常灯の光を反射して眩しいくらいに輝いて見えた。
ついさっきまで二度と戻らないと思っていた。
でも何かが引っかかった。
ぼくは二段飛ばしで階段を駆け上がった。
「あ、あの! やっぱり一回だけ」
おばちゃんはニヤッと優しく笑う。
「二人プレイできるから私も一緒にやっていい?」
おばちゃんはそう言って上着のポケットから百円玉を一枚取り出した。
ぼくとおばちゃんが百円玉を投入すると、一斉にゲームコーナーの照明が点灯し周囲は明るくなった。
ゲームは再開した。
襲いかかってくる困難を知恵と勇気で乗り越えながら進んでいく人生という名のゲーム。
それにしても変な夢を見た。中学生の頃によく行っていたゲームコーナーだ。
ぼくは大量の薬物によってもたらされた深い眠りから目覚めると、再びゆっくりと自分の足で歩き出した。
終
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