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SS【最後の不倫】1016文字


ぼくは半年くらい前から不倫している。

妻にバレたら大変なのだが、今のところ大丈夫そうだ。


おそらく世の中のどんな旦那より大胆な不倫をしている。

なぜなら不倫相手は週に三回くらい堂々と家にやってくる。


彼女は人間そっくりに造られた家事専門のアンドロイド。妻にはそう信じこませてある。

言葉はほとんど喋らない。なぜならボロが出るからだ。

彼女は元々アンドロイドの仕草を真似るのが得意だった。

そのスキルは一級品で、アンドロイドと言われれば誰もが信じるレベルにまで芸を磨き上げていた。

どこかぎこちないアンドロイド特有の仕草で、料理をするしメイクだってする。


妻は仕事が忙しく家を空けがちなので、妻が居ない時は人間に戻って二人の時間を満喫する。

妻が帰ってこれば演技を再開する。



そんなある日、事件は起こった。

たまたま妻がこぼした入れたてのコーヒーが彼女の手にかかってしまった。

一瞬の出来事だった。

彼女は平静を装っていたが、何かに勘づいてしまった妻は大鍋にお湯を沸かし始めた。

沸騰するとぼくにこう言った。


「私もあなたもこの鍋に手を入れたら火傷して悲鳴を上げるけど、アンドロイドなら平気よね?」


「いやいや、意味が分からない。そんなことをしたらアンドロイドが傷つくだろ!!」


ぼくは必死に阻止しようとした。


彼女は妻とぼくを交互に見つめながら、不思議そうな仕草を演じている。


「よし、うまいぞ」


ぼくは心の中でつぶやいた。


すると妻は思いもよらぬ行動に出た。

ファンヒーターに入れてある灯油タンクを取り出し、フタを開けると自分の頭にかけ始めたのだ。


「お、おい!! 何してるんだ!! やめろ!!」


妻はぼくの制止を無視して灯油まみれになった自分の頭にライターで火をつけた。

メラメラと燃え上がる妻の顔。


「キャァァァァーー!!」


彼女の悲鳴が家中に響き渡る。

顔の皮膚の一部は熱で溶け落ちていく。

ぼくはあまりのことに動揺し、すぐに助けることができなかった。


しかし、消火したあとに妻の頭を見たぼくと彼女はあることに気づいた。



妻はアンドロイドだった。

妻はずっと人間を演じ続けていたのだ。



それから一年後。ぼくと彼女は籍を入れた。

そして彼女は二度とアンドロイドの真似をしなくなった。


ぼくは今でも妻の気持ちが分からない。

予期せぬエラーが起きて暴走しただけなのか? あるいは自我に目覚め、ぼくと彼女に対しての怒りを止めるために自らを破壊したのか? いくら考えても答えは出ない。


もう不倫はこりごりだ。


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