SS【カミツキガメ】
公園にカミツキガメが出るらしい。
最近そんな噂を近所の悪ガキから聞いた。
小さな子どもの居る人は心配だろう。
ぼくは散歩がてら噂の公園に立ち寄った。
子供の頃はよく来た場所で、亀の棲息しそうな池は無い。
雑草はいつも綺麗に刈られていて亀の食べそうな葉もほとんど無い。
ぼくはベンチに座って駅前でテイクアウトしてきたハンバーガーに食らいついた。
じっとしているには肌寒い季節で、中は熱を逃さない素材のアウターを着ている。
ぼくはハンバーガーを包んでいた紙を紙袋に入れて、ギュギュっと丸めた。
ボールのように丸くなった紙袋を、右の手から左の手へ、また右へとキャッチボールしている。
後方から人の近づいてくる音が聞こえる。
その音が背後まで迫ってきた時、キャッチし損ねた紙袋がその人の前に飛んでいってしまった。
片足を引きずりながらゆっくりと歩くお婆さんだ。
「あ、すいません!」と言って拾いに行くぼくに、お婆さんは怒り気味に言った。
「ポイ捨てして、それを誰が拾うの?」
「あ、いえ、すいません。手が滑って」
「そんな言い訳聞くために私は九十年も生きてきたわけじゃない!!」
その後もお婆さんの説教は数分続いた。
ゴミは持ち帰るつもりだったので、心外ではあった。
しかしお婆さんから見れば、ポイ捨てしたようにしか見えなかったのだろう。
持ってたポーチにしまわなかったぼくも悪い。
聞けばお婆さんは公園のゴミ拾いを日課にしているらしい。
で、ポイ捨てする人を見つけたら説教してやるそうだ。
ぼくは後日、近所の悪ガキに教えてあげた。
あのカミツキガメは貴重だから大切にしないとねと。
終
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