きのこ
西のはずれのそのまたはずれにある小さな村に、一人のおじいさんが住んでいました。家の裏には大きな山があって、たくさんのきのこが取れました。働き者のおじいさんは毎日朝早く起きて山に入り、たくさんきのこを採りました。そして、半分は村にやってくる行商人に売り、少しばかりを自分の食事のために残し、さらに残りは同じ村の人たちに分けていました。おじいさんの採ってくるきのこはどれも食べ頃でおいしかったので、村の人たちにとても喜ばれていました。
ある日のこと、おじいさんが山に入ると、見たことのない赤いきのこが目の前にあらわれました。
「毒きのこかもしれん」
おじいさんは少し考えましたが、とても珍しい色なので、持って帰ることにしました。いつものように半分売ったあと、おじいさんはその赤いきのこを、行商人に見せました。
「そんな色のきのこは見たことがない。捨てたほうがよかろうよ」
毒かもしれんでと言い残し、行商人は帰っていきました。おじいさんは残った赤いきのこを小さなかごに入れ、土間の片隅にそっと置きました。
次の日の朝、まだ暗いうちに目を覚ましたおじいさんは、家の中がほのかに明るいことに気がつきました。不思議に思ったおじいさんがあたりを見まわすと、あの赤いきのこを置いた土間のあたりがよりいっそう明るく光っているのが見えました。おそるおそる近づいたおじいさんの目にうつったものは、光り輝く小判でした。赤いきのこのかたわらに一枚の小判が置いてあったのです。それからというもの、赤いきのこのかたわらに毎晩一枚ずつ、小判があらわれるようになりました。
おじいさんは途方にくれてしまいました。つつましく暮らしていたおじいさんにとって、小判はとんでもなく高価で、使い方のわからないものでした。しかし小判は増える一方です。増えて増えてとうとう土間は小判で埋まってしまいました。
おじいさんはついに心を決め、事の詳しいことを行商人に話しました。長い間おじいさんのきのこを買ってくれている行商人は、おじいさんにとって、一番信じられる人でもあったのです。
「おじいさん、それはきのこからのお礼だよ」 行商人は言いました。
「おじいさんはきのこをやたらと採っているわけじゃない。自分と村の人たちに必要な分だけ採って決してむだにすることがない。しかもきのこに感謝しながら採っているからのう」
行商人はそう言ったけれど、実はどういうわけなのかわかってはいないのでした。それでも、おじいさんは行商人の心使いに感謝しながら言いました。
「それではきのこのためにも大切に使わせていただくこととしよう」
おじいさんは行商人に小判を何枚か渡し、村の人たちのために都の珍しい物を買ってきてくれるよう頼みました。行商人は小判をふところ深くしまい、
「では何か見つくろってくるから、楽しみにしていなされ」
こういうことが何度となく続き、初めの頃はありがたく思っていた村の人たちも、だんだんと不思議に思うようになってきました。いくらおじいさんのきのこが上等で、都で高く売れるといっても、おじいさんがこんなにお金持ちになれるわけがないと思ったのでした。そして、おじいさんの家から都に向かう行商人をつかまえ、問いつめました。行商人は初めは黙っていましたが、村の人たちがあまりにしつこく聞くので、ついにおじいさんの家の赤いきのこのことを話してしまいました。
次の日、山へ入った一人の村人が行方知れずになりました。そして次の日も次の日も行方知れずになりました。皆誰にも言わずにこっそりと山へ入るので、一人減り二人減りしても、すぐには気付かれませんでした。
ある日、山へ入ったおじいさんは、あたり一面が赤いきのこで埋め尽くされているのを見ました。まるで燃えているような真っ赤な色でした。
その日からおじいさんの家の赤いきのこから小判があらわれることがなくなりました。おじいさんは安心しました。これで小判の使い道を考える苦労がなくなったのです。おじいさんにとって、まだまだたくさん残っている小判だけでも充分過ぎるくらいなのでした。そして、都からのお土産を分け与える村人の数もいつのまにかめっきり減ってしまっていたのでした。