『僕らは作り手』
僕は1年に一度、僕が住む町でお祭りを開いている。『光と音のモノガタリ』と題して、町で楽器ができる人を集めた野外コンサートと、ガラスのキャンドルホルダーをたくさん作り町中に飾る、というものだ。
僕は前回のお祭りが終わってから1年間準備を進めてきた。音楽隊は新しいメンバーも含めて30人も集まったので、今年は5人から8人の小さいチームを複数作りそれぞれ違う場所で小さなコンサートを開くことにした。それはささやかで繊細な音楽を至る所で楽しめるものになった。キャンドルホルダーも町人の協力のお陰で相当な数が集まりあともう一息で今年のお祭りは唯一無二の素晴らしい日になるぞ、と思えていた。
とある日僕は隣町の住民に向けてメッセージカードを書いていた。
『◯月◯日、僕の町で毎年恒例の“光と音のモノガタリ”を開催します。是非お越しください。』
大体はこのようなメッセージを書いたが、たった1人僕の特別な友達に対してはこのように書いた。
『親愛なるルーカス
◯月◯日、僕の町で毎年恒例の“光と音のモノガタリ”を開催します。今年は町人の皆さんがよく協力してくれたお陰で、今までにない形で開催できそうなんだよ。僕はとても心が躍っているんだ。
そして、ルーカス、キミもなにかお祭りを開催するそうじゃないか。続報を楽しみにしているよ。
ノア』
『僕の偉大なる友人ノア
お手紙をどうもありがとう。今年もキミが頑張ってる姿を見れる日が来るのが嬉しいよ。
その情報はどこから仕入れたんだい?まだキミには内緒にしておこうと思っていたが、こうなったら仕方がない。キミのお祭りの1週間後僕も僕の町でお祭りを開催するよ。キミの頑張りに背中を押され僕も挑戦してみることにしたよ。ぜひ来てくれ。
ルーカス』
しばらくしてルーカスから素晴らしい手紙が届いた。しかし僕はそれを読んでも前を向くことができず涙がぽろぽろとこぼれ、雫の溜まった僕の机には冷え切ったコーヒーがある。
昨晩のこと、僕が完成している分のキャンドルホルダーを町内に並べていた。まだ火が灯っていなくてもそれはそれは綺麗で僕はまた目を輝かせながらうちへ帰ったが、ベッドに横たわったその瞬間窓の向こうから嫌な物音がする。慌てて窓の外を見ると野良猫達が輝くそれに興味を示したのかひとつひとつ壊して歩いていた。僕はすぐさま外に出て猫達を追い払ったが、半分以上のキャンドルホルダーが壊されあたり一面ガラス片が散らばってしまっていた。
日が明け朝になると町人からの酷い文句を僕を浴びせられた。
「こんな町で子供達が怪我をしたらどうするのか」
「コンサートスペースもボロボロではないか」
「せっかく作ったものを壊しやがって」
僕はなに一つ言い返さず、謝り掃除を続けたのだが、到底当日までに間に合う気配もなく今年のお祭りは中止となった。
『親友のルーカス
僕は今年のお祭りを断念することにしたよ。僕が準備していたガラスのキャンドルホルダーを野良猫に襲われ町はめちゃくちゃだ。掃除がまだまだ終わらないので短文だが許してくれ。
ノア』
ようやく掃除が半分終わった頃は本来であればお祭り当日の日であった。相変わらず町人の僕を見る目は冷ややかである。
『キミもかい?ノア
僕も今年のお祭りを断念することにしたよ。僕が準備していたお菓子の家をネズミやら野良犬やらに綺麗さっぱり食われてしまって展示するものがなくなってしまったのさ。それにしても掃除がなかなかに終わらないほどの数のキャンドルホルダーを集めていたのかい?来年が楽しみだよ。
ルーカス』
『いつもユニークなルーカス
キミはお菓子の家を作っていたのかい?一度も料理をしたことのないようなキミが?思わず笑ってしまったよ。一体どのようなお菓子の家だったのだろうか。それこそ来年がとても楽しみだよ。僕らはまだまだ人を楽しませることができそうで安心したよ。ありがとう。
ノア』
僕が来る日も来る日も掃除を続けていると野良猫達が集まるようになってきた。
「申し訳ないと思っているのかい?」
野良猫達は手伝いはしないが僕が掃除をやめるまでじっとそばにいてくれるようになった。そしてその可愛らしい様子の野良猫達を見に町人が集まってくるようにもなった。
「こんなにたくさんのキャンドルホルダー。灯っていたらどれだけ綺麗だっただろうか」
「そのキャンドルと共にいくつもの音楽があったらどれだけ癒されただろうか」
すれ違う町人のその呟きに僕はまた心を踊らせていた。