『人形』
まるで狸のように丸々としていて小さいオヤジに、全員同じ顔をした男達5人と私は真っ白な会議室に連れられた。
「とりあえずここに荷物を置きたまえ」
狸オヤジはその部屋に入るや否や1番に、金色の眩しすぎてもはや下品なソファーに腰掛け横柄な態度でそう言った。男達はへこへこ頭を下げながら綺麗に荷物を並べたが、私は自分の荷物を手放さずにいた。
しばらくして
「かけたまえ」
と狸オヤジが言うと、また男達はへこへこ頭を下げて順に座ると、全員同じように両手を合わせ擦りながら、狸オヤジの至る所を次々と褒め始めた。
「あなたのおかげでどうちゃらこうちゃら」
「あなたのお姿がどうちゃらこうちゃら」
狸オヤジは大変満足そうであった。
次に私達はゴルフ場に連れられた。それはそれは自慢げにマイクラブの説明を長々とされたがほとんどを覚えていない。
最初のラウンドはパー3だった。少し高いところから打ち下ろすイメージでなんとなく攻略法も察しやすいコースではあったのだが、男達はあっちこっちに打ち、1人は右側のバンカー、もう1人に至っては何故だかピンフラッグを通り過ぎてどこか遠くまで飛ばしてしまった始末だ。打ち終わった後は全員ヘラヘラと笑い、狸オヤジも満足そうであった。私の順になり、落ち着いたプレーで私のボールはグリーンにしっかりと乗りカップから約1メートルのところで止まったのだが、歓声は無く場は鎮まり、周りの男達は自分の手をかじり足をがくがく震わせていた。そんな男達をかき分けるように狸オヤジが登場し鼻息荒くティーグラウンドに立つとブサイクなスウィングにも関わらずボールをグリーンにしっかりと乗せカップから約50センチまで近づけた。私は狸オヤジのドヤ顔を浴びせられ、そして男達は心底ほっとした様子で肩を抱き合っていた。
その後、私と狸オヤジの一騎討ちが続いていたのだが、最終ラウンドのパー5のコースで私がパー、狸オヤジはバーディー。狸オヤジの勝利となった。男達は大袈裟に狸オヤジの勝利を喜んでいた。
ゴルフも終わったことで私達は元の会議室に戻った。相変わらずの白い部屋で狸オヤジはソファーに、男達と私はその接待用の椅子に座り、狸オヤジのゴルフを褒め称える時間が始まった。
しばらくすると狸オヤジが
「ない…ない!」
と騒ぎ始めた。
「私の荷物が無いのだ。金も入っている!探せ!」
会議室は大騒ぎ。男達が、机の下を覗いたり、至る引き出しを開けては
「どこでしょうか」
「ありません」
と。狸オヤジはソファーに腰掛けたまま指示を出し、盗みを働いたと疑われたく無かった私は不本意ながらも探す手伝いをしていた。
「やはりありません」
「取られたのでは?」
「これは大変なことになった…」
男達が大袈裟に慌てふためくので、私はもうすっかり呆れてしまっていた時、会議室から直接繋がっているベランダから
「見つかりました!」
と大きな声が聞こえた。全員が慌てて外を覗くと、その声の主の男と共に狸オヤジの金色のカバンを持った煤だらけの汚い男がにへらと笑って立っていた。男達はこの汚い男を誰がシめるかで揉めていたのだが、
「なんだお前だったのか」
と狸オヤジは笑いながら汚い男の肩を持ってた。
「コイツは私のトモダチだよ。また盗人ごっこをしていたのか」
「ケッケッ」
狸オヤジはその汚い男の肩を抱いたままソファーにどっぷりと腰掛け、煤だらけの汚い男は楽しそうに会議室を走り回り、あの男達はまた全員同じようにへこへこ頭を下げながら
「あー、いやよかった」
「盗人の味方をするとはあなた様はなんちゃらかんちゃら」
とまた狸オヤジに媚を売り始めた。
「つまらねえな」
私が呟いた瞬間、夢から目が覚めた。