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[短編フィクション] 夜中のこと

きのう、仕事のかえり、うちの近くの狭い通りで、踊っている人をみました。顔色が悪く、ほとんど緑色で、ぼろぼろに裂けた、長い灰色のワンピースをきた、老女でした。腰まで届く白髪を、やんわりとゴムでしばり、くずれた型の、盆踊りともつかないおどりを、一心不乱に、踊っていました。

酔っぱらっていたのでしょうか。気が変な女性だったのでしょうか。

まわりに人はいず、ちょうど、街灯の下にいるので、まるで、スポットライトをあびているかのようでした。無言で、両手をあげて、とても集中した様子で、ずっと踊っています。

夜も遅く、通行人は、ほとんどないにしても、時には、帰宅途中の人がいて、道路の端、なるべく老女から離れたところを、急いで通り過ぎていました。中には、手前の道を、曲がって、他の道を行く者もいたようです。

私は、ずっと、老女を、しばらく離れたところから、見ていました。

ふと、どこかの若者が、「やめろ。」と、小石を投げつけました。小石は、老女に当たらず、コンと地面に音をたてて、落ちました。

老女は、ふと、動きをやめて、小石を一秒をほど、眺めていました。そして、もう一度、静かに、踊りだしたのです。

昨日のことでした。

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ともこ   (絵・コラージュ・詩)
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