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試用期間中に社内イベントでとんでもない目にあった話


社会人3年目の思い出


社会人3年目の時、小さなIT企業に転職したことがある。

同族経営で無借金経営を謳っており、当時の社長は2代目。まだ30代の、ちょっと目の吊り上がった小柄な男社長だった。

典型的な受託ビジネスを展開していて、"業務管理システム"の開発を主な事業とする会社だった。
当時は業績好調だったようで、海外に支社を作るため、社長はしょっちゅう出張に出かけていた。

そんなある日、社長が唐突に社内プレゼン大会をしようと言い出した。

社内プレゼン大会


「社員たるもの自社のソリューションを顧客に説明できないなどあり得ない。これを機会に自社のソリューションについて理解を深めてほしい。
ただプレゼンし合うだけでは面白くないので、優勝者には賞金10万円を贈呈する。だから本気でやってほしい。楽しませてくれたまえ。」

そう言い残し、社長はまた出張に出かけて行った。

10万円ごときで社員が本気になると思ってんのか、このお坊ちゃんめが!

などとは決して口にはできなかったが、とりあえず自社のパンフレットを手にプレゼンの練習をすることに。

当時、僕は試用期間中だったので、とにかくアピールする必要があった。

とにかく優勝狙い

である。
もし優勝すれば、セールスエンジニアとして使ってくれるかもしれない。

ちなみに当時の僕はエンジニアとしてキャリアを積むことにあまり前向きではなかった。

前職でエンジニア職として採用されたが嫌気が差し、1年ほどバイトをしながら隠居生活を送った。
警備員のバイトをしているときに、ずっと警備員の仕事をしていて正社員として社会復帰することが叶わなくなってしまった(というか、内心諦めてしまった)人を見て、
「あー、このままだとまずいな」と思い、渋々、IT業界への復帰を決めたのであった。

というわけで、ゴリゴリとコーティングをするよりは営業をしたかった。
だからこの社内プレゼン大会は、僕にとっては好都合だった。

そしてプレゼンだけはなぜか絶対の自信があった。学生時代に学生自治会に所属しており、人前に立つ活動を多くしていたからだ。

正直10万円はどうでもよくて、とにかく優勝を勝ち取りたかったのである。

1週間程度の練習期間の後、毎朝2人程度プレゼン発表を行う。
聞き手の社員全員がそれぞれ10点満点で採点をし、総合得点が一番高かった社員が優勝。

発表の日


そして僕の発表の日が来た。
スライドもきっちり用意した。ピッチコンテストのような(根拠のない)圧倒的な自信と、TEDの登壇者のようなオーバー気味の身振り手振り。
もちろんこんなに露骨に本気でプレゼンする奴など誰もいなかった。

僕が本気でプレゼンをしている理由など誰も知らないので、たぶん
10万円を獲ることに異常に必死になっている、かわいそうな試用期間中の人
と思われていたことだろう。


後日、社員全員の採点結果が出揃った。ついにNo.1が決まる。
朝礼にて社長直々に発表するようだ。


結果発表!




優勝は!!




主任のA氏

だった。



優勝できず。

A氏は僕の直属の上司だった。普段技術的な相談に親身になって乗ってくれる、頼りになる先輩だ。

A氏は社長から10万円を受け取り、自分の席に戻った。
そしてすぐ僕のところに来て「ごめん…」と謝った。

(まぁ、あれだけ露骨に優勝狙いのプレゼンしてたら、申し訳なく思っちゃうだろうな…)こっちこそすみませんでした…
と謝り返そうと思ったら、どうやら何か事情があるようだった。


衝撃の事実


「実は〇〇くん(僕)が圧倒的な点数で優勝だったんだよ。

でもそれを知った社長や役員の人たちに

『あの試用期間中のヤツに一番取られて恥ずかしくないのか!お前が優勝しなきゃダメなんだよ!』

って怒られたんだよね。

で、

『アイツに賞金を渡すわけにはいかん。なんか悔しい』

と言い出して、僕(A氏)が優勝ってことになってしまったんだよ。

ホントごめんね。いつかご飯でも奢らせてくれ」



で、でたーーーー!!
八百長-----!!




こんな身近に八百長を体験(?)できるとは。

まぁ10万円はどうでもいいんだけど、それなら最初から試用期間中の僕は選考対象外にしてほしかった。

何だよ、『なんか悔しい』って(笑)

このプレゼン大会に限らず、社長や役員の人たちの僕に対する態度を見ていると、とても人間扱いしているとは思えなかった。
なので、僕が優勝してどんな反応をするのかちょっと気になるところではあった。上司が優勝の世界線は想像していなかったけど。

試用期間中はくれぐれも出しゃばった真似をせず、大人しく、着実に結果を出すことにコミットすること。
正社員ではない、試されている身だということを自覚すること。
僕はこの経験を通じて、身をもって知ったのである。

数か月後、まだ試用期間中だったが、僕は出しゃばって退職した。

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