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「歯医者さんは、大切な人生のパートナー」 そう思えるまでの長い道のり
幼い頃から歯医者さんにはお世話になっていたにも関わらず、とても苦手。
ですが、そこまで避けている訳でなく、仕方ないと思って通っていました。
20年ほど前の私です。
ところが、ある日の診察を機に、歯医者さんとの信頼関係が崩れてしまいました。
当時通っていた歯医者さん。
とても若い男性の先生。
その先生に、右奥の「親知らず」の歯について
「こんな歪んで生えている親知らず、僕には抜けません。虫歯になっているから治療だけしておくので、痛くなったら抜いてくれる先生探して抜いてもらって下さい」と、言われました。
先生は何気なくおっしゃったと思うのですが、私には大きなショックでした。
「私の歯は、先生に見放された」と感じました。
「見放さずに診てくれる先生を、自分でどうやって探せばいいの?」と思ったし、その親知らずが時限爆弾で、
「私はいつかその時限爆弾にやられて、今まで経験したことのない痛みや抜歯手術を行なわなければならないのか・・・」
と、不安でたまらなくなりました。
そこで、「歯医者さんに一生、行かなくていい計画」というのを立てて、とにかく歯磨きなど、自己流で虫歯予防を頑張ることにしました。
虫歯が出来ないように、親知らずの虫歯が進行しないように。
気をつけて、気をつけて、歯を一生懸命磨いて。
それで月日が経って、17年。
その間、歯医者さんには全く近づきませんでした。
「歯医者さんは怖い」
「絶対に行きたくない」
この間に、このような心理状態になっていました。
自分なりの虫歯予防は、結果的には予防できていなかったんです。
今思えば、自己流では限界がありました。
それは、ある日のお昼休み。
いつものように、食後、私は丁寧に歯磨きをしていました。
すると、途中で何か奥歯の辺りで変な音がしたのです。
恐る恐る見てみると、奥歯の金属の詰め物が外れ、その下に大きな穴が・・・
あの時のショックは、忘れられません。
背筋が凍りつき、どうしようもなく絶望しました。
「あんなに頑張って予防していたのに、どうして??」
幸い痛みはありませんでしたが、穴だけでなく、横の歯が欠けていました。
17年間も歯医者さんに行かなかったツケは、そこから始まりました。
このような精神状態の中で、まずは歯医者さん探しからスタートです。
「見ず知らずの先生に、大きな治療をお願いすることになった」
そのときの不安、恐怖、どれだけ心細かったことか。
今になって分かるのですが、それは私たち患者だけじゃなく、先生にとっても大きな負担になるということ。
急な大きな治療は、先生だって準備がいるし、簡単なことじゃないはずです。
定期的に歯科医師や衛生士さんにクリーニングやチェックをしていただくことが、本当の予防に繋がるのだと、今ならはっきりとわかります。
小さいうちにこまめに治療しておけば、こんなに怖がる必要はなかったのです。
今では「早めのケア」が、どれほど負担を軽くするか実感しています。
治療の時間も短く、痛みもほとんどありません。
ですが、この人生最大級のショックな出来事により、私の運命は大きく変わることになるのです。
勇気を出して伺った歯医者さん。
とても素晴らしい先生でした。
今は口コミなども見れますが正直あまりよくわからなくて、遅い時間までやっている歯医者さんに予約を入れました。
土曜日も午後の診察があって、私の生活スタイルに合っていたという理由で選びました。
ですので、先生がどんな方かわからないという不安もありながらの受診でした。
初対面の際、先生に欠けた歯の状況を見て頂きながら、
「17年間、歯医者に行っていませんでした」と、正直に告白しました。
すると先生からは、とても意外なお言葉が。
「だから、歯医者は儲からないんやな〜」と、先生は笑いながら受け止めてくれました。
「みんな、すぐ歯医者のこと忘れるんや」と、笑って話して下さり、その言葉に、正直とても救われました。
また私の緊張がピークに達しているのを察して、
「ちょっと時間かかるから、明日、ゆっくりやろうか?」と提案して下さり、「その時間、他の患者さん入れんとって」と受付の方に調整を指示しているのが聞こえました。
「目の前が真っ暗になる」という言葉がありますが、17年ぶりの歯医者さんで、私は診察台にいる時、周囲が真っ暗になり、ライトが光っているのだけが見えて「プラネタリウムみたい⭐︎」と思っていました。
診察室を出てからも、待合室で会計を待っているわずかな時間、先生が出てきて話しかけてくれました。
「大丈夫、痛くないようにやるから。何も心配しなくていいよ。時間も調整したけれど、遅れてもかまへん。何も心配せんでいいからな。」と、ずっと笑顔で声を掛けて下さったことが、今でも心に焼き付いています。
先生のその言葉やお気持ちが、どれだけ私の心を軽くしてくれたか。
そして、先生に対する尊敬や信頼の気持ちが、自然と湧いてきました。
治療も上手くいって、他の歯も少しずつ綺麗にしてもらって、今ではどこも悪いところがありません。
歯のお手入れも問題ないということで、現在、定期検診は半年に一度のペースになっています。
そして、例の時限爆弾。右奥の、歪んで生えている親知らず。
これも、先生が抜いて下さいました。
「麻酔やら何やら色々されているな〜、いよいよこれから抜くんだな」と診察台の上で覚悟を決めたのですが、先生から
「もう、終わってるよ(笑)」と言われて、びっくりでした。
抜いた感覚が全くなく、あれだけ怖かった親知らずの抜歯がほんの数分で終わっていたのです。
17年間抱き続けていた恐怖は、何だったんでしょう・・・
今では先生は、私にとって良き相談相手でもあります。
たとえば、先生も私も京都が好きなので、定期検診に行くたびに先生からおすすめのお店などを教えていただきます。
そして次の検診の際には、教えていただいたお店に行った感想をお話しし、また新しいお店を教えていただく。
このやり取りが、定期検診の楽しみの一つになっています。
また、自分の父親には言えないような悩みも、なぜか父と同年代の先生に話せてしまいます。
先生がくださる言葉でのアドバイスは様々ですが、いつも
「心の中の愛を忘れてはいけないよ」
というエネルギーが伝わってくるのです。
それは言葉では説明しきれない感覚ですが、いつも温かい気持ちになります。
きっと治療の際にも同じように、愛をもってお仕事をされ、患者さんに向き合っていらっしゃるのでしょう。
そして、先生は歯医者という仕事を楽しんでやっていて、私たち患者とも楽しそうにコミュニケーションを取られています。
「歯医者のこと、忘れてたやろ?正直に言ってみ。みんな歯が良くなったら、歯医者のこと忘れるんや」と、相変わらずのセリフもよく耳にします。
患者さん達もリラックスされているのか、よく予約の日時を間違えたり、遅れたりしているようです。
それでも先生は、嫌な顔しないで「みんなええ加減やから、気にしなくていいよ〜。みんな、しょっちゅう日や時間、間違えるんや」と、器の大きさを感じさせる対応。
先生と衛生士さん達スタッフの方との間に感じられる信頼関係にも、それは現れています。
院内は衛生士さんや受付の女性陣がしっかりサポートしていて、診療がスムーズに進むようにコントロールされています。
先生が大らかだからこそ、衛生士さんたちものびのびと仕切り、良いバランスで医院全体が運営されているように感じます。
元気で明るくて、のびのびとお仕事されている衛生士さん達が、同じ女性として「素敵なお仕事をされているなぁ」と羨ましく感じます。
いつも元気に指導して下さるので、安心感とともに明るい気持ちになって帰ってきます。
半年に一度の定期検診が、今では私の楽しみのひとつになりました。
歯の健康を守るだけでなく、先生やスタッフの皆さんとお話しすることで元気をもらえるのです。
歯の健康を保つ方法はたくさんありますが、私にとって最も大切なのは、信頼できる歯医者さんに出会い、安心して通い続けられることだと感じています。
また暑中見舞いや、クリスマスカードという季節のお便りを先生に送ることも、楽しみの一つになっています。
こういう歯医者さんとの関係を結べるというのは、昔の私には想像ができませんでした。
人生で最悪だと思った出来事は、素晴らしい縁を連れてきてくれたのです。
だから、伝えたい。
あの頃、17年も歯医者さんを避けていた自分にも、この記事を読んで下さっている誰かにも。
日頃からかかりつけの歯医者さんと信頼関係を築いて、小さなうちに治療をしておくことの大切さを。
そして、歯の健康だけでなく、歯茎の健康も大切。
これも最近知ったことです。
歯医者さんや衛生士さんからの細やかな指導があってこそ、虫歯予防を本当にしっかり取り組むことが出来る。
私はこれに気がつくのに、とても長い年月を要してしまいました。
歯の健康は、私たちの生活全体を支える大切な要素です。
「歯医者さんは、大切な人生のパートナー」
素敵な歯医者さんに巡り合えたとき、その一歩が、人生の大きな財産になることに気づくはずです。