【かみさまみならい ヒミツのここたま】願いはたまごになって

心は願いを生み出し続ける。
今に満足していなければ、現状を変えたいと欲する。
幸福ならば、このままであることを望む。

強すぎる願望は、ときに本人も意図しない形で周囲を巻きこんで、思いもよらない結末を迎える。
『かみさまみならい ヒミツのここたま』における桜井のぞみとビビットの間にも、そのような気持ちが根深く存在していた。

放送が終わると、『ここたま』の名前はばったりと聞かれなくなった。
だが、当初はわずか半年で、玩具の売り上げランキング上位に入ったとんでもない作品であった。
テレビ東京系六局ネットでは、ちょうど『アイカツ!』シリーズの前の時間帯の番組となっていた。
そのついでに録画したり、視聴していたりした人もあったかもしれない。

ここたまは、人間に大切に扱われた物から生まれる神様である。
イメージとしては、付喪神に近い。
彼らを見つけた人間は、秘密の契約を結ぶことができる。
もし契約を結ばなければ、そのここたまは本来の物に戻ってしまう。
原則として、彼らは人に見られてはいけないのだ。

二人の間で取り交わす契約書の裏には、人間の望みを一つ記す。
それは、ここたまが見習いから一人前になったときに、叶うという。

のぞみはこころが自分以外にはじめて出会った契約者だ。
小学校にのぞみが転校してくる。
彼女達は同じクラスになった。

こころは、ここたま達にかなり自由な行動を許している。
学校や街中で発見されそうになることもしばしばである。
ハンバーガーショップで、彼らをのぞみに紹介しようとさえする。
もちろん、契約者でない誰かに目撃されれば、その魂は物に帰っていってしまう。

しかも、らきたま達からは、一人前になろうとする意欲が見受けられない。
そうするためには、人間が幸せを感じたときに出現するハッピースターを集める必要がある。
のぞみは悩んでいる人の素性や背景を調べ上げ、ビビットの魔法でその原因を解決してまわっていた。
二人のここたまに対する接し方は真逆だった。

こころはのぞみと友達になりたいと考えている。
しかし、そのようなものに興味はないと、のぞみは冷たく言い放つ。

とはいえ、同じ契約者として、少しずつ二人の距離は縮まっていた。
遊園地にいった後、一緒にここたま達のための「ここたまランド」を完成させる。
それから、ついにこころとのぞみはお互いを名前で呼び合う仲になる。

のぞみがこころの家に泊まりにくる。
その夜、のぞみは自身の願いをこころに語る。

のぞみは、早く大人になりたかった。
そして、冒険家の父親とともに秘境アマゾアナをめぐりたかった。
元々その地は父の目標だった。
幼い彼女は父の話を聞いて、いつしか自分も同じく憧れるようになった。

けれども、本当のところは冒険などではなく、父のそばにいたかったのだ。
各地を旅しなければ、冒険家は仕事にならない。
のぞみの身勝手な希望で、彼を困らせるわけにはいかない。
それは彼女なりの気遣いだった。

ところが、実現はできなさそうになっていく。
父からのエアメールには、まもなくアマゾアナ行きが決まりそうだと書いてあった。
のぞみは落胆する。

ビビットはロケットペンダントの神様だ。
これは、父親と会えずに寂しがるのぞみに、母親があげたものだった。
中には、のぞみと父との写真が入れられている。
肌身離さず彼女は持ち歩き、中身をながめては遠く離れた父をしのんだ。

ビビットは知っていた。
のぞみは、勉強もスポーツもそつなくこなす。
こころと違って手先も器用だ。
両親にわがままで迷惑をかけることもない。
そののぞみが手にすることのできないたった一つの光こそ、父との冒険にほかならなかった。
ビビットは、そこに自身の存在する理由を見出していた。

独りビビットは夜遅くまでハッピースターを探しまわる。
日中に彼女がよく居眠りすることを、のぞみは不安に思う。
むりをしないようにたしなめるが、ビビットは聞き入れない。
どちらも譲ることなく、とうとう二人は絶交してしまう。

のぞみはビビットの身を案じている。
ビビットはのぞみの願いをなんとしてでも成就させようと決めている。
相手のことを優先して考えすぎたあまりに彼女達はすれ違っていく。

こころ達は二人を仲直りさせようとする。
色々と試した末、こころはのぞみに、手紙で正直な想いをビビットに伝えるように勧める。
のぞみはいつわりのない本心をペンに込めた。
こころはビビットにそれを渡す。

内容を見て、ビビットはのぞみのもとに引き返す。
その感情はまったくビビットも同じだった。
彼女達はお互いに謝り合う。

子供向けのアニメでは、複雑な表現は控えなければならない。
本来の視聴者が理解できなければ、本末転倒だからだ。
よりシンプルに、分かりやすいことが求められる。
子供騙しとは別物だ。それは単なる手抜きにすぎない。

のぞみの気持ちは、わずかに平仮名四文字だった。
「だいすき」——これほどストレートに、心に響く言葉はなかなかない。
もったいぶった修飾も、難解な理屈も、回りくどい説明もいらない。
二人の話の中で、もっとも私が感動したのは、実はビビットの目覚めよりもこの場面だった。
まさしくここに、深夜帯のものではなく、あえて子供向けの作品を観る意味の一つがある。

無情にも、いよいよ父のアマゾアナ行きの日程が確定してしまう。
ビビットは、あとどのぐらいで一人前になれるかを、たませんにんに質問する。
だが、回答をはぐらかされる。

のぞみは悲しみながらも仕方がないとこころにしゃべる。
彼女の近くには、父親がいなくても、ビビットも親友のこころも、他のここたま達もいた。
この一年で徐々にのぞみの考え方は変わっていった。

焦ったのはビビットのほうだ。
はかなく夢がついえれば、自分のいる価値がなくなってしまう。
同時に、のぞみとのつながりも薄れていく気がした。

ビビットは以前に聞いた禁断の魔法のことを思い出す。
それは修行を積まずに、一足飛びで一人前になるというものである。
禁じられていたのは、試みて失敗したここたま達が例外なく、とてつもなく悲惨な目に遭うからなのだった。

ビビットはたませんにんの書物を盗み見て、その方法を知る。
そして、ドアノブを紐でベッドに結びつけ、誰にも邪魔されないようにした。
実行している途中で、同居しているピンコとレンジ達が部屋に入れないことに気づく。
ちょうどのぞみもこころを連れて帰ってくる。
千回の呪文で魔力の満たされたたまご(正式には「かくれたま」と呼ぶ)にビビットが飛びこんだ瞬間、それごと粉々に砕け散った。
駆けつけたたませんにんの能力でドアが開く。
のぞみ達は、光り輝くビビットのたまごから勢いよく魔力があふれ出すのを目にする。
すべてが出きった後、身体の透き通ったビビットが床の上に横たわっていた。

ビビットはのぞみの呼びかけにも反応しない。
子供向けだから、再び目を覚ますことは分かっているが、それでも、そこはかとなく死の予感がただよう。

さて、今回も忘れていた箇所をおぎなうために、Pixiv大百科の該当記事を参考にした。

でもその精神があるんなら何で他の方法を考えられなかったのか?

上記のようにあるが、それは無茶な指摘だと思う。
追い詰められれば誰でも、ほかに何も見えなくなる。
ビビットには考えている時間などなかった。
仮に同じ状況に陥ったとしたら、私でもそうしかねない。

たくさんのここたま達が協力して、消えかかったビビットを助け出す。
手の上にビビットをのせて、この上なくのぞみは喜んだ。
ビビットの存在それ自体が、のぞみにとってはかけがえのないものであった。

思いきってのぞみは、自身の感じていた淋しさを、準備のために帰国していた父に打ち明ける。
彼は反省し、アメリカの大学から受けた研究職の誘いに応じることを決意する。
そうすれば、家族三人で暮らせるようになる。

桜井一家の引っ越しが決まった。
こころの部屋で、らきたま達とともにお別れパーティをおこなう。
らきたまが魔法を使って、記念撮影を楽しく盛り上げる。

夢の中で、のぞみとこころが顔を合わせる。
今になって、らきたまの魔法の効果が現れてきたのだ。

二人はお互いに泣き出してしまう。
抱き合いながら、離れたくない、別れたくないと言い交わす。
偶然にも一緒になった遊園地、演劇、ハロウィンパーティ、パジャマパーティ、バレンタインデーのチョコ作りなど、数えきれない出来事があった。
落ち着いてから、彼女達はにこやかな顔つきでさようならを口にする。

印象深い見事な演出だ。
のぞみもこころも、実際には相手のことを思いやって、つらさを我慢するにちがいない。
夢だからこそ、二人とも胸のうちを正直に明かすことができた。

このときにつつましく流れるキャラクターソングもひじょうによい。
タイトルは「こころとのぞみ」で、当たり前ともいえるが、雰囲気にぴったりだ。

のぞみが最初に登場したのは第二六話、アメリカに旅立つ回は第七六話にあたる。
ちょうど五〇話、週に換算すれば一年分である。
毎週必ず出たわけではないにしろ、それだけの期間視聴すれば、多少なりとも親しみが湧いてくる。
深夜帯で、ほぼ四クール分にわたって続くものはめったにないだろう。
またこれも、子供向けの作品に宿る価値の一つである。

のぞみ達が日本を発つ当日になった。
こころとらきたま達が、空港へと見送りにやってくる。
ここたま同士のやりとりは、とてもにぎやかだ。
最後までしめっぽいままでは、二人のせっかくのさよならがむだになってしまうから、これでいいのである。

搭乗口に向かうのぞみが、あのロケットペンダントを開く。
そこには、父親との写真に代わり、こころとらきたま達との写真がおさめられているのだった。

最近はずっとなのかもしれないが、女児向けのアニメで、こういったシーンはあまり見られなくなった気がする。
同時期の『アイカツスターズ!』は第二期が決定していたし、『プリパラ』の主要キャラクターは大半が『アイドルタイム』へと引き継がれた。
ただし、その抜群の完成度の高さで、シリーズ史上どころか子供向けの中ですら指折りのラストとなった『魔法つかいプリキュア!』は、まさにこの年の一月に放送されていた。

なんやかんやで、けっきょくのぞみとビビットのあまりにも強すぎる願望に、いつの間にか視聴者の私も巻きこまれてしまっていた。
それは、制作スタッフはともかく、本人達は確実に想像もしなかったことである。
ただ、私は契約者ではないので、観ていたときに、ハッピースターが現れ出たのかどうかは、定かでない。

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