【ラブライブ!サンシャイン!! The School Idol Movie Over the Rainbow】あこがれのその先に…
物事を始めるきっかけは、様々である。
誰かに勧められたり、ほんの突然の気まぐれだったりする。
よくあるのは、先行する人や物にあこがれて、というものだ。
最初はひたすらにそこに向かって進む。
しかし、目標にも等しくまぶしい存在になろうとすれば、いつかどこかで、必ず別の道を選ばなければならない。
ただ後を追うだけでは、どれほど経っても、先頭の二番煎じでしかない。
すでに引退していようが、常に比較されてしかも負け続ける。
千歌はμ’sに魅了された。
そして、曜や梨子とスクールアイドルとしての一歩を踏み出した。
アニメ第一期の一二話で、Aqoursは自分達だけの方向を探りはじめていた。
第二期の六話にて、それはほぼ実現する。
とうとう九人は、念願だったラブライブでの優勝を果たした。
三年生が卒業する。
浦の星女学院の校門が固く閉ざされる。
残された一年生と二年生とは、市街の高校へと通うことになる。
Aqoursは、存続することに決まる。
鞠莉の助言を受けて、千歌がそれを決定した。
やがて、新学期から浦の星の生徒は本校と離れた校舎で授業を受けると判明する。
本校の保護者の一部が、部活動へのよくない影響を主張したのだ。
人数の少ない浦の星では、兼部が当たり前だった。
時間も場所も限られている中で、優秀な成績をおさめた部はただ一つの例外を除きなかった。
その唯一こそ、スクールアイドル部である。
本校の体育館で、千歌達はパフォーマンスを披露する。
想像よりも広い会場に、ぽつんと自分達が立っているように感じられた。
途中、信じられないほどに初歩的なミスをしてしまう。
結果は散々だった。
卒業旅行にきていたSaint Snowにも、練習を見てもらう。
聖良は率直に指摘する。
ラブライブの決勝のときを一〇〇点満点だとすれば、今はほんの二〇点にすぎない。
三年生の存在は、とても、あまりにも大きかった。
彼女達がいなくなって、Aqoursの持ち味は大幅に失われていた。
元々、Aqoursの目的は廃校を阻止することにあった。
むなしくも入学希望者は集まらず、秋の終わり頃には今年度限りとすることが確定してしまった。
第二期の第七話だ。
同級生の勧めで、千歌達はラブライブの歴史の中に、浦の星女学院の名を刻むことを誓う。
優勝は全スクールアイドルの夢である。
この上ない名誉と栄光とにいろどられ、女の子達の理想として永遠に生きるのだ。
願いは叶った。
まさしくAqoursは浦の星の代表となった。
当然ながらできるうちは、現実にもとどめておきたい。
学校はスクールアイドルとともに、逆にスクールアイドルは学校とともにあり続ける。
つまり、活動している以上、浦の星も一緒にこの瞬間に存在する。
たとえ建物が取り壊されても、である。
Aqoursは一種の形見だ。
そうならば、自分達の身近に置いておきたいのも、ごく自然なことだろう。
グループの魅力を低減させていたのは、喪失の不安にほかならなかった。
μ’sは最上級生の卒業にともなって解散した。
A-RISEはプロになった。
優勝を勝ち取ったグループが、メンバーの卒業後になおも”スクール”アイドルを継続した例は、ほとんど聞かれない。
千歌達には、手本や参考とする相手がいなかった。
すべて自分で考えて、予想もしなかった問題の解決を求められていた。
三年生が卒業旅行中に失踪する。
鞠莉の母から捜索を頼まれ、千歌達はイタリアに渡る。
曜の親戚の月もついてくる。
ついに三年生を見つけるが、ちょうど鞠莉の母がその場に乗りこんでくる。
母娘げんかの末、Aqoursはイタリアでライブをおこなうことになる。
会場として、一年生はスペイン広場を選定した。
見事にそれは成功する。
改めて九人で歌い踊ってみて、メンバーは気づく。
これまで積み重ねてきた思い出は、決して消えることがない。
彼女達の胸の中に、いつもたしかにある。
浦の星と何も変わらなかった。
一〇〇がゼロに戻るわけではない。
むしろ、これから一〇一がスタートするのだ。
もう六人に気がかりはない。
千歌は新規にライブを企画する。
ある日、三年生のもとに聖良から連絡が来る。
妹の理亞をAqoursに加入させられないかとの相談だった。
理亞は、Saint Snowに区切りをつけて、新しいメンバーとの活動を決意していた。
それは誰よりも尊敬する姉に少しでも近づくためだ。
けれども、理亞の熱意に他人が追いつけない。
せっかく集まったメンバーも全員辞めた。
聖良は心配する。
妹が孤立して、スクールアイドル自体もできなくなってしまうのではないか。
それで、内緒でAqoursに話した。
去年のクリスマスには、理亞も含むSaint Snowと合同でイベントに参加したこともある。
千歌達に断る理由は見当たらない。
ところが、ルビィだけは、はっきりと反対する。
そのようなことを理亞が望むはずはない。
ルビィは理亞の心情を見抜いていた。
姉を、Saint Snowを想うあまりに、他が何も見えなくなっている。
理亞は、過去のまぼろしにとらわれている。
大会での、Saint Snowの最後はあっけなかった。
北海道の地区予選、本番で理亞が転倒し、つられて聖良も転んでしまう。
本戦へは出場できなかった。
第二期の第八話である。
ルビィ達とクリスマスイベントを立ち上げるうち、徐々に理亞は立ち直っていった。
理亞は痛感する。
姉に頼りっぱなしでは、再び地区予選のような失敗を繰り返す。
姉のように立派に、強くならなければならない。
だから、Saint Snowを作り上げた姉の輝きを、自分でたどろうと決めたのだ。
『サンシャイン!!』で一番の成長を遂げたのは、まちがえなくルビィだ。
それまでは、理亞と同じくずっと姉の背中を追いかけてきた。
第一期の第四話で、親友の花丸の助けを借り、はじめて姉ではなく自分の意志で選択した。
第二期の第八話での経験は、ルビィを大きく成長させた。
そして、イタリアのときの提案につながった。
千歌達は思いつく。
もしかしたらありえたかもしれない、ラブライブの決勝を自分達の手で再現するのだ。
まだ日が昇りきらない頃、走りこみをしていた理亞を、制服姿の聖良が先回りして待つ。
不思議がる理亞に、聖良が衣裳を手渡す。
それはラブライブの決勝で着るつもりのものだった。
聖良は告げる。
ここで、決勝で見せる予定だった曲を歌い踊り、その後で本来優勝したときに伝えたかった言葉を教えるという。
二人は全力でパフォーマンスをする。
理亞にも分かった。
今のこの時は消えない。
聖良と理亞の、観客の記憶の中にSaint Snowはしっかりとある。
Aqoursの順番になる。
本当に、九人揃ってのライブはこれがラストだ。
ビデオを構えていた月は、スクールアイドル達の本気を目の当たりにして激しく感動する。
すぐさま、六人でのライブの日が迫ってくる。
前日、早めに練習を切り上げた千歌達は、三年生と合流して浦の星女学院を訪れる。
校門はちょっとだけ開いていた。
しかし、誰も入ろうとはしない。
千歌がゆっくりと門を閉める。
立ち入る必要は、もうどこにもない。
いよいよ当日だ。
六人でも、戸惑ったりためらったりはしない。
最高の光を放ちながら、『Next Sparkling!!』を披露する。
この曲には、三年生の担当パートがある。
ライブでも彼女達のダンスが見られる。
だが、そこにいるわけではない。
先日の”決勝”で、果南はこれが最後だと口にしている。
直前には、確実に六人だけだった。
今、三年生は過ぎ去った日々からステージ上の千歌達を支えている。
三人が抜けたとしても、九人のときに劣ることはいっさいない。
そのあかしにほかならなかった。
Aqoursのその先に、待ち受けていたものは何だったのか。
三人の少女が、砂浜で会話している。
彼女達は、Aqoursのきらめきを追って、ここをたずねた。
そして、高校生になったら、スクールアイドルになると宣言する。
劇場で、私と一緒に本作を観た友人は、この場面で急に感情が冷めたらしい。
”聖地巡礼”という言葉まで持ち出して、露骨に媚びすぎているというのが理由だ。
そのような意図もあるとは思う。
けれども、ここは、Aqoursがμ’sにも匹敵する高みにのぼり詰めたことをも暗示している。
千歌はμ’sの動画を観てスクールアイドル部を作ろうとした。
同じように、少女達もAqoursに魅せられて、ラブライブの歴史に加わろうとしている。
多少でも『ラブライブ!』シリーズに触れているならば、楽曲やライブイベントなどの展開も、おのおので若干異なっていることを感じないだろうか。
別に、どれがすぐれているという話ではない。
『サンシャイン!!』は、『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』とも『スーパースター!!』ともやっぱり違う。
千歌達の走ってきた道は、まごうかたなくAqoursだけのものだった。
その軌跡は、流星の尾のように、それぞれの出来事が、三年生や浦の星の生徒や、私達まで巻きこんで、きらきらと現在も輝いているのである。
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