葛藤の中で見つけた光/26歳を迎えた春香さんのLife Story
「25年間かけて身に着けてきた、鎧が溶けはじめました。」人生の節目である誕生日。1年を振り返った春香さんは、一言一言、自分の気持ちを確認するようにゆっくりと話してくれました。
誰かに頼ることが苦手で、自分一人で頑張ることが多かった。そんな彼女が、人との心地よい距離感を知り、仲間と一緒に幸せをつくっていきたいと思えたこの1年。どんな経験をし、何を想い、誕生日を迎えたのでしょうか。
その大切な記憶を、見える軌跡として綴るため、お話を伺いました。
※文中では、普段通り”はるちゃん”と呼ばせて頂きます。
「ありがとう」と、素直に受け止められなくて
━━25歳、はじまりの日。去年のお誕生日はどんな時間を過ごしていましたか?
去年は、シェアハウスのメンバーにお祝いしてもらっていました。住み始めたのが誕生日から2週間くらい前だったのに、日付変わった瞬間にお花とかケーキとか、盛大にお祝いしてくれたんです。”知り合ったばっかりなのに、こんなことしてくれるんだ!”っていう驚きと、くすぐったいような嬉しさがあって。
私、人の誕生日をお祝いするのは好きなんですけど、自分がお祝いされるのは得意ではないというか…嬉しいんですけど!社会人になってからは特に、誕生日が特別って感覚もなくなってたから。だから、周りにお祝いしてもらえて嬉しかった気持ちと”こんな私に、ありがとうございます”っていう気持ちだった、かな。この嬉しさを、どう返していこうかなって思ってました。
━━温かいシェアハウスのみんなとの出会いから、25歳のはるちゃんの物語は始まったんだね。
沢山の人との出会いの中から、大切にしたい”私”と出会う
━━この1年は、はるちゃんにとってどんな年でしたか?
すごく、葛藤の中にいた1年だったような気がしています。社会人になって1番人との出会いが多かった分、人付き合いに対して悩んだり、苦しかった時とか、仕事に対して悩んだ時期もあって。
━━葛藤するくらい、向き合う何かが常にあった状態だったんだね。具体的に言うと、何があったんだろう…?印象に残っていることは?
特に印象に残っていることが2つあって。その1つはやっぱり、100人が住めるシェアハウスに住んだことでした。人とどのくらいの距離感でいることが、自分も相手も幸せでいられるのかなとか、自分が何をやりたいのか、どんな繋がりを求めているんだろうとか。沢山考えさせられた1年だったなって思っていて。
私は結構、人の些細な気持ちとか様子がすごく気になっちゃうタイプなんです。一人でいたり、馴染めていない子を見かけると”楽しめてないのかな?”って気になってしまうし、そういうのを日常的によく感じていて。それ自体は悪いことじゃないと思うんですけど、私の場合、自分を大切にするっていう優先順位を低くしてしまうんですよね。それが無意識にやってしまっていることに、シェアハウスに住んでから気付いて。
すごく素敵な子ばかりいる、出会いに恵まれた環境なのに、いつの間にかしんどくなっていったんです。「私って何がやりたいんだろう?」って自分を見失ってしまう時間が増えたなって感じて。これからもみんなと関わっていきたいからこそ、今年2月にシェアハウスを離れる選択をしました。
━━その場にいるみんなの幸せを考えるあまり、自分をないがしろににしてしまう。自分のことを大切にできない自分に苦しんでいたんだね。その考え方は、もともとあったの?
幼い頃は、今よりもっと「相手が喜んでくれたら良い」とか、それが自分にとっての安心に繋がってしまうタイプだったかなって思います。でも、”誰かを置き去りにしたくない”っていうのは、学生の頃にいじめられた寂しさとか、孤独を経験したからだと思ってて。
「こんな気持ちになるのは、この世界には私だけなんだ」と思うあの感情を全員が持っているとは全く思わないけど、同じ気持ちになる人がいなくなればいいなって。そうじゃなくても、生きていて抱える寂しさとか、一人で頑張ってる孤独な感覚を持ってる人はいるのかなと思うから、そういう人のために何かできる自分で在りたいなって思ってるんです。
…でも、今のままじゃだめだなって。誰かのために、自分を大切にできないのは。もらった嬉しさをちゃんと還元できる自分でいるために、シェアハウスを離れる選択をしたかもしれないです。
━━自分や、これからも一緒にいたい大切な人との、心からの幸せを守るために。自分のことも、もっとちゃんと大事にしたいと思えるようになったんだね。
店長からの一言で、180度変わった幸せのつくり方
━━印象に残ってる、もう1つのお話についても聞きたいな。
もう1つは、仕事に対しての考え方が変わったことです。前までは、自分の成長とかスキルアップが、お客さんを幸せにする手段だと思っていて。誰かに頼るのも苦手で、一人で頑張っちゃうタイプだったんです。それは、前職のパティシエ時代が競争社会だったこともあって、自分の努力が結果に繋がる環境で働いてたことも影響してたと思うんですけど。
━━パティシエって、そんなに厳しい世界だったんだ…。
場所によるかもしれないです。私の職場は、実力主義だったというか。その環境にいたから、自分が上手くなれば、やれば認められると思ってた。でも、バリスタを始めて2年、後輩も増えてきた11月頃に、店長から「自分だけじゃなくて、周りのことも考えていくのも大事。その方がもっと良いお店になっていくんだよ」って話をされて。それをきっかけに、自分以外の誰かのことを考える機会が増えたように感じます。
━━それって、これまでのはるちゃんを180度変える考え方だったと思うんだけど、言われた時、驚いたでしょう…?
めちゃめちゃショックでした!(笑)”私って、自分のことしか考えられてなかったんだ”みたいな。これだけお客さんのためにって、人との関わりを大切にしたいって言ってきてたのに、実現できてなかった。自分のことが可愛いだけなのかなって悲しかったし、悔しかったし、すごく衝撃的で。
でも、核心を突かれた感覚もあって。私は、その店長のおかげで沢山成長させてもらったし、仕事に対してもっとやりがいを感じられるようになって。そんな尊敬している方からの言葉だったから「自分に足りないのはそこだったんだな」って受け入れられたんですよね。自分の力だけでは、お客さんを幸せにするには限界があると気付かせてもらえました。
━━”みんなと一緒に幸せをつくる”。その喜びを経験していったんだね。
そうだと思います。自分の成長だけじゃなく、みんなでやりがいを見つけていくとか、一緒により良い幸せの循環をつくり出していくために考えられるようになって。前よりもっと仕事が楽しくて、頑張ろうって思えてます。
━━シェアハウスのメンバーと一緒に活動している、月1のものがたり喫茶も、まさに”一緒につくる”だよね。
最初は、慣れないことばかりで辛かったんですけど(笑)でも、続けたからこそ新しい繋がりが生まれたり、みんなが同じエネルギーで一緒に頑張れてる心地よい空間がつくれていて。みんなでやると何倍も良くなるってことを実際に気付かせてもらえる、めちゃくちゃ大切な経験だったかもしれないです。
堂々と、好きなものを好きって言いたい。言える私になった後に待っていた世界。
━━私、はるちゃんは”素直な人だな”って印象を持っていて。今日、この1年のお話を聞いて、他者だけでなく、自分自身に対してももっと素直に生きようとしているように感じたよ。
確かに…、うん。確かに!自分に嘘はつきたくないなって。前は、この選択合ってたのかなって不安になったり、人と比べて「この人すごい良いな」って思うこともあったりしたんですけど。ICOREとかコーチングとか、DANROで自己理解を深めていくと、これまでの選択に全部、意味があるものなんだってちゃんと繋げられていたことに気付いて。だから、後悔はないし、間違っていないと思うし、そう思い続けたいから、今起こった出来事を意味付けしている気がします。
━━その一方で、感情を伝えることが苦手な一面があったり、誕生日の時に「こんな私に」って言葉が出てたり。自信がないのってなんでだろう?
それは…。過去、批判されたり、自分のことを認めてくれる人はいないんだって思う瞬間が多かったからかも。
私にはダウン症のお姉ちゃんがいて。大好きな存在なんですけど、一般的に言う”普通”と、ちょっと違うってだけで否定される経験とか、批判される声を幼い頃に聞くことが多くって。
私にとって姉は、人を笑顔にするパワーを持っているし、自分の感情を正直に表現するし「こんな人になりたいな」って思うくらい、すごく魅力的な人。なのに、その大切な人を否定され続けたことがつらかったし、そのことで大好きなお姉ちゃんの存在を周りに隠してきた自分が嫌いで、コンプレックスを持ってしまっていて。だから、勝手な思い込みで壁を作ってたんです。「これ以上入ってこないで。私も入らないから」って。
そんな自分だから、誕生日を祝ってもらえることが不思議だったんだと思います。「壁を作っているのに、なんでこんなに祝ってもらえるんだろう?」って。不思議に思ったり、謙遜したりする気持ちは、そこから生まれてたんだと思います。
━━去年、はるちゃんがインスタに投稿したお姉さんへの想い。私、すごく感動して。投稿する時、すごく怖かったでしょう…?
めちゃめちゃ勇気のいる投稿でした。それまで、ずっとしんどかった。寂しかった。孤独だなって思う気持ちが拭えなくて。でも、そこを開示しないと、自分はずっとこの気持ちを抱えたまま過ごしてくんだろうなって思ったし、今出会ってくれている人達には、伝えてもきっと大丈夫なんだろうなって安心感が生まれたからできたんだと思います。自分の中で希望を持てたから、投稿できたのかもしれない。
投稿をした後「春香の家族が大好き!」とか「春香がお姉ちゃんに対して思う気持ちが素敵だし、感動した!」って、沢山の人からの声が届いて、嬉しかった。「あ。自分はこの25年間、こんな言葉を掛けてくれる人が沢山いたのに、ずっと言えなかったんだ」って気付けて。悩んだからこそ、見えた世界ではあったと思うんですけど。私が伝えたかったことを、こんなに受け止めてくれる人がいるんだってことが希望になったというか、すごく勇気になりましたね。
自分の過去や今の気持ちを伝えても、温かく受け止めてくれる人が沢山出会えた。このままでいいんだって思わせてくれた1年だったなって思います。
━━その時の言葉が、人が、はるちゃんの人生を照らしてくれたような感覚だったんだね。
そうなんです。今でも、私の背中を押してくれる存在になっています。私は、違いとかも当たり前で、それが個性になっていて、個性を可能性としてみんなが輝いていける社会になったら良いなって思うので。それを叶えるための、私の後押しになってくれてるなって、今でも見返す度に思ってます。スクショして大事にしてます!
━━その言葉がはるちゃんのもとに届いたのは、今までのはるちゃんの積み重ねだと思う。自分のことを伝えてくれたことも、悩んだことも、何も間違ってなくて。今のはるちゃんでいてくれてすごく良かったって、私もみんなも思ってるよ。
後悔しないためのマイルール
━━今日の話から、はるちゃんが自分の気持ちに、すごく真っ直ぐに向き合ってきたんだなって改めて感じたなぁ。
私、すごくめんどくさいタイプだと自分で思うんですけど(笑)迷った時とかに「どっちが素敵か?」っていう判断基準で選んでいて。
━━それはどういう意味?
例えば、バリスタの仕事で軽量工程の時、1g違うだけでも許せなくって(笑)クオリティ的には美味しいものは作れるんだけど、「それをきっちりやらない自分は素敵か?」みたいな。出会った人に対して誇れる自分でいたいから、ちっちゃなことも考えちゃうし、良くも悪くも、出来事全部に意味があるって受け止めて、自分の成長にどう繋げられるかって考えるタイプなんです。
考えすぎてしんどくなることもあるんですけど(笑)今話してて「間違ってないのかな」って。その積み重ねで、なりたい自分に、誇れる自分に近づいて行ってるんだろうなって感じました。
26歳「自分にも相手にも栄養を」
━━この1年、自分に鎧を着せて、一生懸命一人で戦っていた生き方から、好きな服を着て、沢山の仲間と世界を創っていく生き方に変化した姿が想い浮かんだよ。
そうです、そうです!自分で1年を振り返った時に、葛藤の中で光を見つけるって言葉が出てきて。諦めなかったからこそ見えてきたものとか、鎧を溶かしていく時間になりました。
━━そのうち、翼が生えて飛んでいきそうだよね(笑)持っているものは変わらないけど、受け入れられなかった自分も全部受け入れて。背負ってたものが軽くなったんじゃないかな?
軽くなりましたね…。葛藤とか、しんどいとか。そういうワードが沢山出てきたけど、今、改めて意味のある事だらけだったんだなって安心したし、自分のことをよしよししてあげたくなりました(笑)
━━これからのはるちゃんは、もう一人じゃないことを知っている。今の自分をちゃんと受け入れられている。26歳、これからがますます楽しみだね。
ありがとうございます!26歳は、大きなテーマで「自分にも相手にも栄養を渡せる人で在りたい」って思ってて。迷った時には、それを1番大事にした行動をしていこうって思います。
あと、今年はもっともっと人と温かい繋がりとか、関係性を築ける人になりたくて。対話が学べるDANROに入ったのも、人と深い部分で繋がりたくなったからなので。「出会えてよかった」って、自分も相手も同じくらいの気持ちで想い合える繋がりをつくっていきたいなって思ってます。
あとがき/はるちゃんへ
去年の春。それまで、ほぼ毎日投稿していたはるちゃんのInstagramのストーリーが、ぷつりと止まった。夏が来る頃、久しぶりに目にした投稿には、その空白の間ずっと葛藤していた想いが綴られていた。「よかった」素直にそう思った。
この公共の場に自分の気持ちをつぶやくことは、すごく勇気がいるはず。でも、その勇気を出して話してくれた、伝えてくれたことが、すごく嬉しかった。話せるようになるまで向き合っていたその様が、かっこよかった。
今回のインタビューで、はるちゃんの紡ぐ言葉ひとつひとつがすごく繊細で。不完全な、まだ言葉にしたことがない気持ちを遺そうとしている。そう感じて、泣きそうになったんです。
この1年、これまで戦ってきた世の中の「普通」とか価値観に対する認識が変わっていく瞬間を沢山経験して、自分のことを受け入れられるようになったはるちゃん。自分の好きなものを好きって、堂々と言えるって当たり前じゃないと知っている彼女だから、きっとこの先も人の心に寄り添える存在で在り続けるのだと思う。自分のことを大切にしながら。26歳、お誕生日おめでとう!
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- corelight interview -
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