酷評の嵐、映画『打ち上げ花火〜』を擁護する
8/18公開された映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』に対するレビューとして酷評が集まっている。
打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか - Yahoo!映画より
僕も観たところ、これは批判されるだろうな…と残念な気持ちになりました。とはいえ観てもいない人も批判している様子を目にしてなんだかちょっと悔しかったので、ざっと酷評に対する擁護を書きます。
なぜこんなことになってしまったのか。
『打ち上げ花火〜』は『君の名は。』的な物語を期待されすぎていた
今回の酷評は『君の名は。』の大ヒットが大きく影響している。まず『打ち上げ花火〜』も『君の名は。』と同じく時間を巻き戻して失ったものを取り戻そうとする、という物語の構造が似ている。
その上、プロモーションでは「あの『君の名は。』をつくった川村元気が!」とか、『君の名は。』を意識してつくったんだろうなと思わせるようなCMが公開されている。特に後半の男キャラと女キャラのセリフが交互に畳み掛けるところ。(これは僕の気にしすぎかもしれない)
『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』予告 (1:05〜)
『君の名は。』予告(1:10〜)
制作側からすれば、「大ヒット作を生み出したプロデューサーが企画した」というのはぜひプロモーションに使いたいことなので仕方ないのだが...。
こうしたプロモーションによって「『君の名は。』みたいな作品なら観たい!」という岩井俊二監督の原作ドラマを知らないミーハー層が興味を持つ。しかし『君の名は。』のような劇的な展開は用意されていないため、ミーハー層にとっては裏切られた感が強くなってしまう。
実際、批判の中には「『君の名は。』的なものをつくろうとして失敗した感じ」なんてものも見かける。が、この批判は的外れ。なぜなら『君の名は。』より前に企画されたものだから。
『SWITCH』の8月号に載っている、大根仁(脚本)×川村元気(プロデューサー)のインタビューによると
大根:そう、実は三年くらい前から動いていた企画で。『君の名は。』ブームに便乗したようなかたちになっていますけど、もっと前からやってました。ここは太字で書いていただきたいです。(笑)
川村:『君の名は。』より『打ち上げ花火〜』の方が企画がスタートしたのは先なんです。オリジナルへの愛情がある大根さんに脚本おを願いしたいというのと、新房監督に新しい劇場用映画にチャレンジしてもらいたいというのが当初の考えで
僕は岩井俊二監督の映画は7割くらい観ていて、直前に原作をチェックしてからアニメ版を観ました。「『君の名は。』とはまったく違う作品だ!」と知っていた僕でさえなんとなくがっかりしてしまったのだから、原作など知らない人にとってはよっぽどだったでしょう。
岩井俊二監督がつくった作品で、死んでしまったヒロインを別の世界線で助け奇跡的に再会して声をかけるような”泣ける”展開が起きるわけない。むしろ何も大きな事件は起きないけれどつい見返してしまう、というような印象。
原作ファンにとっては物足りなさと違和感。なずなのプールのシーンが...
『君の名は。』的作品への期待のほかにも、この作品が超えなければならなかったのが原作の存在。原作の完成度が高すぎるんですよね。
これについても作り手が知らないわけがありません。
大根:でも最初に『打ち上げ花火〜』をリメイクしたいという話を聞いた時は、「そんなの無理に決まってるじゃん!」と思いましたね。あれは手を付けちゃいけない作品でしょう、と。そもそもオリジナルの完成度が高すぎる。
川村:大根さんとは「どれだけ好きでもやっちゃいけない原作ってあるよね」という話をよくしていたんですよね。だから僕も『打ち上げ花火〜』は好きだけど、手を付けないでおこうと思っていたんです。岩井さんが撮った、奥菜恵さんのあの瞬間を再現することは不可能だし。
原作ファンからすれば、「こんな改変許せない!」だとか「原作のいいところが消えている」なんてことを言いたくなるかもしれない。でも作り手だってその難易度は認識した上での挑戦だったわけです。
確かに原作との比較でいうと、なずなの魅力が損なわれてしまっているように思えました。たとえば伝説のプールサイドのシーン。原作ではアリが奥菜恵さんの胸元を這っていて、それを「とって」というところがとてもエロかった。
けれどおそらくアニメ表現の限界で、アニメ版ではトンボに。アリじゃないとあのシーンの良さは出ないな…と残念な気持ちになるとともに、原作ファンであった制作側も頭を抱えていただろうなと思ってしまった。
原作と変わっていたのは、なずなについてだけではない。後半ではアニメであることを活かして思いっきり振り切ったアニメ的表現をふんだんに盛り込んでいました。
岩井俊二ファンからするとこのアニメ的表現があまり受け入れられなかったのではないかと思う。まだ観ていいない人のために詳細の描写は省くが、いわゆる岩井俊二的作品ではあり得ないような描写が繰り広げられ、僕もぽかんとしてしまった。(馬車のとこ)
主人公の声優、菅田将暉がハマっていなかった
それに主人公の声優、菅田将暉があまりはまり役ではなかった。アニメ化するにあたって設定が小学生から中学生へと改変されたが、菅田将暉の声は中学生というには大人すぎた。声優初挑戦ということもあってかはじめのシーンから違和感が強く、結局最後まで抜けなかった。
実写でしかできないことはあるし、アニメでしかできないこともある。だからアニメ化するなら原作をそのままなぞってはいけない。オリジナルに対する敬意が強かっただけあって、大きく変えないといけないという意識があったのでしょう。
川村:でもそこで、『まどか☆マギカ』と『化物語』をやった直後の新房監督がアニメーションにして、渡辺明夫さんがキャラクターを描いて、シャフトが映像を作ったら、ミラクルが起きちゃうんじゃないかと思ったんです。ブレイクスルーが見えた気がして、急に企画として具体性が出てきた。僕としては、これで結果的に映画監督が三人も集まったわけで、最初の打ち合わせから面白くて幸せでした。
つまり『打ち上げ花火〜』は『君の名は。』的な大ヒットを狙った作品ではなく、これまで手がつけられなかった伝説的な実写作品をアニメでリメイクしたら面白くなるのでは、という無謀に挑戦した作品なんです。不運なことに、物語の構造に類似が見られる『君の名は。』が1年前に大大大ヒットしてしまったため、不当な二番煎じ感が出てしまった。これが観客の強い失望の要因ではないでしょうか。
それでは全くいいところがなかったかというと、そうではないと思います。僕が好きだった部分に関しても感想を。
現実を超えた打ち上げ花火の表現は素晴らしかった
さすがシャフト。映像表現ではハッとさせられる瞬間がいくつかありました。中でも記憶に残っているのは花火の表現。オープニングでは黒い文字が夜空に隠れているところに花火があがることでスタッフの名前が見えるような演出になっていてはじめの印象がとても良かった。
加えて、一番最後の海から見る花火は発明だと思いました。これはぜひ映画館で見てほしい。原作では地上から見る花火がタイトルでいう「下から見る」にあたりますが、アニメ版ではさらに下、海中から見た花火を描いている。おそらく現実では見られない、とても美しい表現でした。
曲も好き
満足できなかった人は、原作見てみれば?
アニメ版を見た人も見てない人も、原作のドラマ版も見ることをオススメします。Huluなどで見られるので、実写でしかできない岩井俊二作品の良さを味わってみてください。
『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』- Hulu
※決して『君の名は。』的ではありません。
※1993年に放送された『if もしも』というオムニバス形式のドラマの1つであるため、なぜ同じ時間を繰り返しているのかという説明はありません。