Netflix版『デビルマン』のスタッフに拍手を
1/5から公開となったNetflixオリジナルアニメ『Devilman Crybaby』が控えめに言ってサイコーだった。
原作である永井豪のマンガは『週刊少年マガジン』で1982年〜1983年に連載されていた。『エヴァンゲリオン』『東京喰種』『進撃の巨人』といった人気作品への影響も語られる名作だ。
僕が生まれる10年以上も前なのだから当時に読んでいるわけがないのだが、マンガの歴史を遡っていくなかで出会った講談社コミックス版『デビルマン』に衝撃を受けた。
ネットでマンガが公開されるようになって、現代のマンガ誌で連載できないようなセクシャルで残酷な表現が見られるようになってきたが、それに負けない、読むのをやめたくなるような残忍な描写をあの週刊少年マガジンで連載していたという事実にも驚く。
そして井戸の底のような暗い物語を好む僕としては、これほどの名作だったとは…と何度も読み返した。
デビルマンには原作であるマンガにもいくつものバージョンがある上に、テレビアニメの放映もおこなわれている。しかしそのアニメは原作の”鬱展開”や”衝撃のラスト”と称される要素を捨てた健全なヒーローものだ。(正確にはマンガの連載と並行で製作されたため、異なる作品になったらしい)
Netflixが新たに公開した『Devilman Crybaby』は、デビルマンの大元であるマンガ版デビルマンのアニメ化を実現している。揚げ足取りが頻繁に行われる現代において、マンガ版の本質をきちんと残したテレビアニメ化はぜっっっっっっったいに無理なので、ネットでこれだけ力を入れて製作が行われたことに感謝だ。
とはいえ、マンガ版の展開を”そのまま”動画に起こしたところで、連載当時と時代背景が違いすぎるし、展開も動画にすると映えない部分がある。この課題をNetflixのプロデューサーはスタッフの組み合わせによって、ものすごく巧みに解決した。
ポイント① 湯浅監督のポップな表現によって暗い物語のまま、ギリギリ大衆受けするラインに
監督を任されたのは湯浅政明。文化庁メディア芸術祭で大賞を受賞した『四畳半神話体系』、”松本大洋の絵がそのままアニメになっている”と衝撃を与えた『ピンポン THE ANIMATION』などを手がけた名監督である。
彼の大きな特徴は、細い線と淡い色を大胆に使い、ポップな表現へと仕立て上げることだろう。たとえばこの、悪魔が悪魔を捕食している絵。
(引用元:https://www.youtube.com/watch?v=Qg0i0nm35TE)
グロテスクに描こうと思えば、もっと描き込みを増やしトーンを暗くすれば、視聴者に不快感を与えることが容易にできるが、あえてそれをしていない。こうしたポップな絵の表現が、暗い物語を暗い物語のまま、ギリギリ大衆受けするラインへと引き上げることに一役買っている。
ポイント② レトロで暗い作品と牛尾憲輔のテクノポップの掛け算が”イケてる”
Netflix版のリメイクが優れているのは、絵だけではない。音楽も素晴らしい。担当は映画『聲の形』や湯浅監督の『ピンポン THE ANIMATION』の音楽も手がけた牛尾憲輔(agraph)。
おどろおどろしい物語にテクノポップが組み合わさることで、見事に現代的で”イケてる”印象に仕上がっている。
↓このPVの音楽を聴いてみてください。とてもかっこいい。
主題歌も電気グルーヴ。「マン マン マン マン マンマン ヒューマン」という狂気を感じさせるフレーズは耳から離れない。
加えて、現代的な音楽の利用で斬新だと感じたのは、ラップによるあらすじ紹介だ。物語の序盤で主人公へ敵対するラッパーたちが披露するラップが状況説明になっている。たとえばこんな風に。
なあ聞いたか いるらしいぜ悪魔が
それもそこらじゅう いるみたいだ悪魔が
だけど実際 悪魔ってどんな見かけ
姿形振る舞いまで なんも俺は知らねえ
そりゃ当然悪いさ なんせ悪魔だしな
見た目もきっとおぞましい なんせ悪魔だしな
盗む犯す奪う殺す きっと全部あり
誰も知らねえとこで汚ねえ手口使いメイクマネー
(7話の冒頭より引用)
1980年代の世界と現代できな表現の掛け合わせに惹かれた。
ポイント③ 物語の舞台を現代へと翻案することで、視聴者が入り込みやすくなっている
脚本は、僕の大好きなアニメ『コードギアス 反逆のルルーシュ』を手がけた大河内一楼。原作のマンガとの大きな違いを挙げると、音楽だけではなく時代背景も1980年代から2010年代へと進めているところにある。
かつてはこんなイメージであった悪役は
(引用元:『デビルマン』2巻 P.12)
アニメではこうなる。
(引用元:https://www.youtube.com/watch?v=gM2FFMU0wkY)
タブレット端末も使うし、
(引用元:https://www.youtube.com/watch?v=Qg0i0nm35TE)
どこかで見たことのあるこんな光景も!(フォントも再現しているなあ)
(引用元:https://www.youtube.com/watch?v=Qg0i0nm35TE)
もちろん『デビルマン』がトラウマ作品としてあげられる理由である、衝撃的な”あのシーン”や最後の”あのシーン”もきちんと含まれている。
原作のドス黒さを残しながらも、より多くの人に受け入れられるようリメイクしたNetflixのプロデューサー、そしてスタッフのみなさんに賛辞を送りたい。素晴らしいアニメをありがとうございます。
Netflix版デビルマン『Devilman Crybaby』を、ダークファンタジー好きにぜひ見て欲しい。
→公式サイトはこちら
もしマンガ版を読みたい方は、岡田斗司夫もオススメしているように、講談社コミックス版、完全復刻版が良い。愛蔵版や改訂版は加筆修正がされており、ネタバレが途中で挟まっていたりする。ただし、講談社コミックス版、完全復刻版も絶版であまり売っていないので探すのが大変かも。(Amazonでも5巻で8000円以上するみたいです…!)
→Amazon『デビルマン』
東映アニメーションの公式チャンネルで見られる、1972年〜1973年に放映されていたアニメ『デビルマン』との違いを見比べるのもいいだろう。
余談だが、もし僕がNetflixで日本市場向けにアニメの製作を担当できるとしたら、スーパードメスティックな『さくらの唄』なんかはエッジが効いていておもしろいのでは、なんて妄想をしてしまった。