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記憶を消して再プレイしたいゲーム

人生をやり直したいなんて思ったことがない。ということは、それなりに充実した生活を送れてきたという証拠だろう。そりゃ贅沢をいえば、もっと頭がよく、スポーツができて、人気者かつ女の子にモテモテなら文句ないだろうけれどそれはあまりに多くを望みすぎだ。それにいかにも少女マンガの世界に現れそうな「理想的」な男性にも、きっと彼らなりの苦労があるのだろう。

人生をやり直したいと思ったことはないが、記憶を消してもう一度体験したいと思っていることはいくつかある。そのうちのひとつは『Ever17』というノベルゲームだ。このゲームはなにも知らない状態で改めてプレイしたいと強く願っている。

はじめて発売されたのはいまから15年も前、2002年。人気ゆえに何度もリメイクされている。ゲームの主人公たちは深海に建設されたテーマパークに閉じ込められてしまい、なんとかして脱出しようと試みる。ヒロインのシナリオをクリアしていくと謎が解決されるばかりか、むしろ謎が増えていく。

そして最後のヒロインのシナリオをクリアすると張り巡らされていた伏線が回収されて、プレイヤーはかつてない恍惚を得られるというゲームである。(あらすじはWikipediaですらネタバレしているので、未プレイの方は何も見ないことをおすすめします)

はじめて『Ever17』をプレイしたのはまだ僕が中学生の頃。アニメやノベルゲームに対して嫌悪感というか違和感を抱いていたところに、いわゆるオタクの友だちに強く勧められて、半ば強制的にやってみることになった。

当時入り浸っていたその友だちの部屋には中学生らしからぬ大きなテレビが置いてあり、はじめはそこでポチポチとシナリオを進めていた。けれど人の前で女の子といちゃつく要素のあるゲームをするのが恥ずかしいということで自分で買ってプレイした。なんにも知らない上にとても素直であった僕は、こんな世界があるのかと驚き、それ以降アニメやノベルゲームの世界にどっぷりのめり込むようになった。

新しい世界に足を踏み入れるきっかけとなった『Ever17』に対する思い入れは強く、いまでも半年に1回くらいは触れたくなる。それも決まって予定のない週末。夕方ごろになるとぼんやりと、深海のしんとした雰囲気に浸りたいという欲がふつふつと湧いてくるのだ。

2017年ゴールデンウィークの最終日。エバ欲(はじめて使った)が湧いて適当な所からゲームを再開する。そうそうこの雰囲気なんだよ。と懐かしさに胸を躍らせていると現れた日付の表示。2017年5月7日。あれ、今日じゃないか。ゲームの世界で流れている時間と、いま自分がパソコンの前で座っているこの時間とが渋谷のスクランブル交差点を渡る人たちの波のように交わっている瞬間に出会ったのだ。これはなかなか不思議な感覚である。いまここに生きている自分と、もしかすると別の世界があるのかもしれないという空想を強く感じた。

『Ever17』

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