自分のおじいちゃんに人と関わる機会を増やしたい【須賀川ワガママLabアプリ開発ストーリー】
福島県須賀川市では2023年6月から10月にかけて、中学生・高校生を対象にまちづくりDX人材育成プロジェクト「須賀川ワガママLab」を行ってきました。
須賀川ワガママLabでは、須賀川市で暮らす中高生の皆さんと一緒に4ヶ月間活動し、地域のことを知り、さらに地域で暮らす人たちの困りごとを解決するアプリをつくる挑戦を行ってきました。
活動の成果を発表するために2023年10月22日に開催したWagamama Awards(ワガママ・アワード)にて、学生たちが発表したアプリをご紹介します。
▼Wagamama Awards全体をレポートした記事はこちら
今回ご紹介するのは須賀川市で生まれ育った中学生と高校生たちのチームです。身近な家族の困りごとを解決したいと考えた結果、みんなが共通して心配していたことがありました。
それは、自分のおじいちゃんやおばあちゃんが人と関わる機会が少ないということです。
高齢者の社会的孤独は日本全国で起きている課題のひとつです。須賀川ワガママLabチームは身近な家族のことからこのテーマに対してどのように考え、どのようなアプリをつくったのでしょうか。
発表の内容をぜひご覧ください。
私たちは須賀川ワガママLabを通じて、誰のどんな課題を解決するのかを考えてきました。
普段そういったことを考える機会がないので悩みましたが、私たちは新しく友達をつくりたいと思っているおじいちゃんとおばあちゃんのためのアプリをつくろうと思いました。
私は、将来は医療系の仕事に就きたいと思っています。
医療について調べていくなかで、須賀川市の病院で働いている方にお話を伺う機会がありました。そこで、須賀川市は高齢化で今後さらに地域医療が必要になっていくのに、お医者さんが少ないといった状況を知りました。
須賀川市の高齢者が、健康で幸せに暮らし続けるには
今後、須賀川市では高齢者だけで暮らす世帯がどんどん増えていって、単身者世帯の増加も予想されています。単身者が増えることで課題となるのが、社会とのつながりがないひとが増えるということです。
孤独と病気の関係性を調べたデータを見つけました。ここでは社会参加に進んで参加していないひと人は、参加している人に比べて、自立した日常生活が送れないリスクが高まるということが言われています。
私の祖父母の住む地域の包括支援センターで行ったイベントのボランティアに参加したときに、たくさんの元気なおじいちゃんおばあちゃんに出会うことができました。
でも、私のおじいちゃんはこうした場に参加しません。友達もいなそうです。
こういうイベントに参加できる方は少数であり、移動手段がないことや参加するハードルが高いという問題があることを知りました。人との会話が減ることが高齢者の認知症や健康問題につながるので、自分のおじいちゃんにも交流する機会が増えてほしいと思いました。
須賀川市で開催されているイベントを調べてみると、高齢者も参加できるものがたくさん出てきました。
地域で人のつながりがあったほうが楽しく暮らせると思うし、健康でい続けられるということがわかったので、私たちは自分のおじいちゃんおばあちゃんには人との交流の場に参加してほしいと思いました。
でもなぜ、私たちのおじいちゃんやおばあちゃんはそういう場に行かないのでしょうか。実際に本人たちに聞いてみました。
Sさんのおじいちゃんの場合
私のおじいちゃんは77歳です。温泉が行くのが好きで、よく車で近くの温泉に行っています。外出はよくしているのですが、地域のコミュニティには参加していなくて友達もいません。
参加していない理由を聞くと「この歳から入るのはめんどくさいから」とのことです。
Aさんのおばあちゃんの場合
私のおばあちゃんは66歳です。私たち孫の習い事の送迎をやってくれていたり、風邪をひいたときに面倒を見てくれたり、ひいおばあちゃんのデイサービスのお世話もしていたり、家族の分の買い物も行ったり、忙しそうです。友達がいるという話も聞いたことがありません。
だからこそ、人と関わって自由な時間を過ごしてほしいと思いました。
どうして地域コミュニティに参加しないのかを聞いてみたら「自分に合ったものがないから行かない」と言っていました。
私たちのおじいちゃんおばあちゃんはそれぞれ違った背景をもっていることがわかりました。
最初は1つのアプリをつくろうと思っていたのですが、それぞれのおじいちゃんおばあちゃんのための専用アプリを1つずつつくることにしました。
Sさんのおじいちゃんのためのアプリ「まごのて」
私のおじいちゃんのためにつくったアプリの名前は「まごのて」です。
機能は2つです。おじいちゃんが興味のあるイベントを知ることができることと、バスで行くことができるように調べられる機能をつけました。
アプリのアイコンは、私のおじいちゃんの笑顔の写真を使いました。最初の画面には「イベント」と「バスの時刻表」のボタンがあります。
機能1:おじいちゃんが興味のあるイベントを表示する
「イベント」を押すと、「大東地区のイベントを紹介します」と音声が出ておすすめのイベントが表示されます。表示されるイベント情報は、おじいちゃんが住んでいる地区で開催されているイベントを中心に自分で選びました。
このページはGoogleスライドに紐づいていて、私が定期的に更新しておじいちゃんにおすすめのイベントを表示できるようになっています。(②)
イベントの名前と、日時と場所、おすすめポイントを書いていきます。
機能2:バスを使う習慣をつけてもらう
「バスの時刻表」を押すと「バスの時刻表を紹介します」と音声が出て、おじいちゃんの家から近い停留所から、須賀川駅までのバスの時刻表が表示されます。
バスの時刻表を入れることにしたのは、免許を返納した後の移動が心配だったからです。
実際に普段使えそうなバスの路線を調べてみました。須賀川市内は循環バスが通っているのでこれに乗ればいいと思ったのですが、おじいちゃんの家から1番近い循環バスのバス停でも歩いていける距離ではありませんでした。
いったん須賀川駅までバスで行き、循環バスに乗り換えて目的地まで行かないといけないことがわかりました(②)。車を運転できれば20分で行けるところでも、バスだと1時間20分もかかるということがわかりました。
調べてみてバスに乗るのは、確かに不便だと思いました。でもどうやったら乗るのかを考えてみて、まずはおじいちゃんの好きな温泉にバスで行ってもらおうと思いました。
ゆくゆくは地域のイベントにもバスで行く習慣がつけばいいなと思いました。そんな期待のもと、おじいちゃんがよく行く市民温泉への行き方もいれました
次に、「市民温泉に行く」や、須賀川市交流センターの「テッテ(tette)に行く」のボタンを押すと、須賀川駅から市民温泉、テッテまでのバスの時刻表が表示されます。(③、④)
そして、全体的に文字や画像を大きめに設定しました。時刻表は文字が小さくて見にくいため、おじいちゃんが必要なところだけを入れた時刻表をつくって、写真で表示しました。
Aさんのおばあちゃんのための「イベントがわかるアプリ」
私はおばあちゃんのためのアプリを考えました。
おばあちゃんは、人と話をしたり、健康に気をつかっていたり、美味しいものをべたり、料理をすることが好きなのでそういうイベントがあると行くのではないかと思いました。
須賀川市で行われているイベントを調べたときに、須賀川市交流センターのtetteでたくさんのイベントを行っていることがわかりました。
そこで、忙しいおばあちゃんのために、tetteのイベントをまとめて、tetteに行けば人と交流ができるというアプリにしたいと考えました。
機能1:tetteについて知る
TOP画面がこちらです(①)。まずは「tetteについて」のボタンを押すと、tetteの利用情報のサイトが表示されるようにしました(②)。
文字が小さくて見づらいところもあるので、「第3火曜日と年末年始は休みです」と休館日を案内する音声機能もつけました。
機能2:イベントを紹介する
次に、「ウルトラ長寿体操」ボタンを押すと、ウルトラ長寿体操のイベント情報と「毎週水曜日の10時から11時に行っています。会場はでんぜんホールです。健康のために行ってみてはどうですか」という音声が出ます(①)
これはもともとイベントをやっているのを知っていて、健康に気を遣っているおばあちゃんに、ぜひ行ってほしいと思ったことから入れました。
次に、「木曜サロン」ボタンを押すと、木曜サロンのイベント情報が表示されます。これはtetteで開催されているイベントを調べているなかで、グループワークをしている様子の写真があったため、木曜サロンのイベントは人との交流ができそうだということで入れました。(②)
継続的にイベントに行ってほしいという想いから「休まずに毎回来た人には皆勤賞!皆勤賞になったら賞状と景品がもらえます」という音声も出るようにしました。
最後の「今月のイベント」ボタンを押すと、tette以外の場所でも今月行われているイベントをのせました。これはGoogleスライドに紐づいていて、私がおすすめのイベントを毎月更新していく予定です。
こだわったポイントは、文字を大きくしてボタンを読みやすくしたことです。色をつけて目立つようにしました。
読み上げ機能の速度は聞き取りやすいものになるように、何度も速度を変えて調整しました。ちょうど聞き取りやすい、ゆっくりめで音声が出るようになっています。
おばあちゃんが好きそうな健康や料理のイベントや、地域の行事、高齢者向けのイベントを選びました。
アプリを通じてつくりたい未来
私たちはそれぞれ自分のおじいちゃんやおばあちゃんへの取材をしてみて、みんな好きなことや事情が違うことがわかったので、それぞれが1番使いやすい形になるようにアプリをつくりました。
孫だからこそ知っている情報を詰め込めたので良かったと思います。
今後は、さらにアプリのつくり方や須賀川市の困り事を学んで、より多くの人たちの困りごとを解決できるアプリをつくってみたいです。
また、今回のアプリを発展させて、あまり地域のイベントの行かない人が自分が好きなイベントに行けるようになって地域で繋がりをつくる機会をもてたらいいなと思います。
もっと勉強して、自分の趣味を入力すればそれに合った場所やそこにあった移動手段が表示できるようにしたいです。
たった1人のことを想い、こだわりをもって向き合う
以上がチームからの発表でした。
たった1人の自分のおじいちゃんおばあちゃんのために、それぞれのアプリをこだわりをもってつくっていました。
例えば、Sさんはおじいちゃんの免許返納後の暮らしが心配なので、公共交通機関で移動してもらうことにこだわりました。Aさんはスマートフォンアプリを使い慣れていないおばあちゃんのために、読みやすく、わかりやすいように文字のサイズや、音声を読み上げるスピードを0.1単位で調整しています。
自分の家族がもっと楽しく、元気に暮らし続けてほしいという真っ直ぐな想いがアプリとして形になり、日本全体の課題となる高齢者の社会的な孤独への解決策にもつながっていく。そんな未来が見える時間となりました。
▼Wagamama Awards全体をレポートした記事はこちら