お母さんの駅までの送り迎えの負担を軽くしたい【ほこたワガママLab/アプリ開発ストーリー#02】
茨城県鉾田市で取り組んでいる「ほこたワガママLab」。鉾田市出身の高校生・大学生・大学院生が”地元で暮らす人たちのワガママを叶えるアプリをつくる挑戦”を通じて、地域に関わり続ける仕組みをつくるプログラムです。
2ヶ月間の活動の成果を発表するために2023年3月14日に開催したWagamama Awards(ワガママ・アワード)にて、学生たちが発表したアプリをご紹介します。
▼Wagamama Awards全体をレポートした記事はこちら
今回ご紹介するチームの3人は、地元で暮らしていたとき全員が共通した原体験がありました。解決に取り組もうとしたのは、どの地域でも大きな課題となっているテーマでした。
悩みながらも「絶対になんとかしたいんだ」という強い気持ちで、地元の人たちに協力を仰ぎ、自分たちだからこそできることを探してアプリをつくりました。
そんなチームの発表の内容をぜひご覧ください。
同じ中高に通い、地元を出て暮らす3人が共通して感じていたこと
皆さんこんばんは。私たちは全員、地元を離れて東京で暮らす大学生です。全員が同じ中学校と高校を卒業していたという共通点があります。
地元で暮らしていたとき、みんな共通していたのが、駅や高校までの送り迎えで家族に負担をかけていると感じていたという原体験でした。
そんな経験から、私たちは親の送り迎えの負担を軽減するためにはどうしたら良いか、を考えてアプリをつくりました。
私がこのテーマに取り組んだ理由は、母の力になりたかったからです。私と妹は中学校から高校までの6年間、学校や駅までの送迎をほぼ毎日親に頼んでいました。私の祖母は70代ということもあり、辺りが暗くなる時間帯は送迎を頼むことができませんでした。
家族の誰も私たち姉妹の送迎ができないとわかった時点で、母は周辺に住む私たちの友達の親に一緒に乗せて行ってもらえるか連絡を取ってくれました。都合が合う人が見つかるまで探してくれる姿を見ていて、非常に申し訳ない気持ちになったのを覚えています。
また、妹が水戸の高校に通っていたため送迎する時刻表をよく見ていたのですが、サイトによっては母にとって見づらいものもあり、たまに妹と送迎時間の情報の行き違いがありました。
自分たちのために動いてくれた母に、何かできることはあったのではないかと思って今回このテーマでのアプリ作成に挑みました。
僕の家から駅までは徒歩50分で、歩いていくのは難しい距離なので、親に送迎を毎回頼んでいました。でもやはり送迎の負担は大きいものがあると自覚していました。
現在は自分で車を運転して駅に行けるんですけど、父親が目が悪くなっていて通勤する際に自分の親とかが駅まで送迎しています。その送迎の負担を減らしたいと思って取り組みました。
今回のアプリは「誰のために」「どんな課題を解決する」ものなのか、このように設定しました。
地元を通る「鹿島臨海鉄道」を利用している子どもを持つ親のためのアプリをつくることに決めました。
鹿島臨海鉄道を利用する際、鉾田市はバスの本数が少なかったり、バス停の場所が駅から遠かったりするので親に送迎を頼んでいる学生が多くいます。そうなると親の負担が大きいため、自分の親に毎回送迎を頼んでいる学生は好きな時間に帰れなかったり、親に申し訳ないと感じることが多いです。
鹿島臨海鉄道を利用している子どもを持つ親のためのアプリを作れば、親も子どももどちらも幸せになるのでは、と考えました。
鹿島臨海鉄道を利用するときの交通手段についてのアンケート結果
私たち3人が共通で感じていたことなので、他にも同じように感じている人がいるのでは?と思い、まずは地元の人たちの駅までの交通手段についてのアンケートを実施することにしました。
Googleフォームを使って、15名の皆さんに回答していただけました。
鹿島臨海鉄道の利用目的を聞いてみると、通勤通学が約7割を占めていました。日常的に使っている人が多いことがわかります。
駅までの交通手段も約6割が車。自転車が2割です。
また、最寄り駅までの行き来で困っていることを聞くと、家族に送迎を頼んでいることに関わる回答が11件中6件もありました。
半分以上の方が家族の負担に対して罪悪感を覚えていたり、不便を感じているということがわかりました。
また、鹿島臨海鉄道の駅は鉾田市内に3つあります。主要駅は鹿島旭駅、新鉾田駅、徳宿駅の3つ。時間帯にもよりますが本数は1時間に1本ほどです。
だったら、みんな同じ時間帯に駅に向かって、同じ時間の電車に乗っているのでは?と考えて、朝どの電車に乗っているかも伺ってみました。
やはり、全員が6時から7時台のどれかの電車に乗っていました。
送り迎えの課題を解決する一歩目は、地域で助け合う文化をつくること
アンケート結果で、他の皆さんも駅までの送り迎えは課題だと感じていることがわかりました。とはいえ、私たちがすぐにバスを増やしたりすることもできず、どうすればいいのか非常に悩みました。
私たちが今できることを考えた結果、鉾田市で生まれ育ったからこそ、地元のつながりを活かして駅までの送り迎えを近所の人たちで助け合えるアプリをつくれるのでは?と感じました。
もし、自分の家族が送迎できなくても、代わりに送迎ができる人を探す手間も罪悪感もなく子どもの送迎を頼むことができるようにすればどうかと。
家族内で悩みを解決しようとせず、送り迎えを助け合う文化からつくっていきたいという思いからこの機能をつけました。
地域で送迎を助け合う文化をつくるアプリ「ホコのってぃ」
私たちは「ホコのってぃ」という名前のアプリをつくりました。
ホコのってぃは、送り迎えを助け合おうと目線合わせができていて且つ、信頼できる家族同士で使っていきます。
まずは、トップ画面はこちらです。各ボタンを作成した理由をお話ししたいと思います。
機能1:時刻表
まず時刻表のボタンのご紹介です(①)。時刻表は送迎する側の目線で、誰にとっても見やすくすることを意識して作成しました。
それぞれ鉾田市内で主要な駅となる鹿島旭駅、新鉾田駅、徳宿駅の3つのボタンを用意しました。自分の家からの最寄り駅を選びます(②)。
そして知りたい時刻は上り方面なのか、下り方面なのかを選択すると(③)、選んだ最寄り駅と大洗駅、水戸駅の発着時間がひと目でわかるようになっています(④)。
見間違いをしないように、必要最低限の情報を掲載しました。大洗駅を掲載したのは、迎えの目安時間にもなるからです。
機能2:送迎管理
また、「送迎管理」というボタンについて紹介します(①)。自分が利用する駅を選びます(②)。すると「調整さん」という無料のスケジュール調整サービスに遷移します。
あらかじめ信頼できる近隣同士で利用し、各親が送迎できる時間帯に送迎可能かどうかを、自分の名前と「〇」「△」「×」で投稿します。もし、自分の家族が送迎できなくても、他のおうちの人が「〇」になっていたら送迎を頼ることができます。
「送迎を助け合おう」と事前にすり合わせをしていて、付き合いが長い家族間なら、罪悪感も少なく頼り合えるのではないでしょうか。家族内で解決しようとせず、こうして小さな一歩目から送り迎えを助け合う文化からつくっていきたいという思いからこの機能をつけました。
機能3:ほこまる号
「ほこまる号」というのは、鉾田市がやっているデマンド型タクシーです。アプリにボタンをつくったのは鉾田の移動手段の1つとして広めたいと思ったからです(①)。
2022年11月の広報ほこたによると、1日に最大97人の利用者がいると記載されていました。しかし、知らないという人もまだまだいることも事実です。
なので、デマンド型タクシーを広めつつ、もし送迎のためにアプリを入れた方の同居人に、車の運転がしづらいけれど、出かけたいと思っている方がいれば、すぐに利用してもらえるのではないかと思い鉾田市の紹介ページに遷移するボタンをつくりました(②)。
「ホコのってぃ」をきっかけに、つくりたい未来
このアプリがあれば駅を家族の複数人で利用している家庭や、学校の送迎をする人、遊びに行く際にも応用して使うことができるのではないかと思います。
また、デマンド型タクシー「ほこまる号」を知らない人々にも移動手段として認知してもらい、同居する高齢者と何かしら病気を抱えていて車が運転しづらい人運転に不安を抱えている人の手段としてくる可能になるのではないかというふうに思います。
今回交通手段という難題に挑戦してアンケート調査も行いました。しかし今すぐにバスや列車の本数を増やせるわけでもないので、地元で暮らしていたからこそ身近な人を巻き込みながら今取り組める課題解決につながるよう頑張れたと思います。
またプログラムを実際にアプリに実装する点にあたっては最初からなかなかうまくはいかなかったけど、トライ&エラーを繰り返しながら最終的に自分の今できる知識で、アプリに実装したい機能をなるべく落とし込むことができたんじゃないかなと思いました。
ただアプリの中に機能を詰め込むだけというのはもったいないなと思ったので、デザインをなるべく工夫して自分なりに見やさを意識しました。
今後はMIT APP Inventorの機能をさらにもっと深く知って、地元の問題解決にさらに取り組んでいきつつ、鉾田の良いところを他の人たちにも広められるようなアプリをつくっていきたいと思います。
たった一人の誰かのために考え抜いたアプリをつくる
以上がチームからの発表でした。
講座のなかで「デザイン思考」という考え方を学ぶ時間がありました。一番大事なのは、問題を抱えてる人の苦しみや悩み、痛みなどに想いを寄せるところから課題解決が始まるという考え方です。
まさにこのチームがつくったのが、自分の高校時代の家族の苦労を思い「こういうものがあったらいいな」という発想から生まれたアプリでした。
たった一人の誰かのために役に立つってことって、企業だと「そんなの売れない」と言われてしまうかも知れません。けれどやはり、地域課題解決するためにはたった一人の誰かのためにという発想が、実は大事なのではないでしょうか。
そのためには、課題を解決したい人と思う人の生活におけるシーンを具体的にイメージすることが必要です。
また、ホコのってぃは既存のサービスを組み合わせながらアプリにしているのが特徴です。最初は全て自分たちでつくろうとしていたものの、壁にぶち当たりながらも自分たちが今できることをスマートフォンアプリにしてたというチームでした。
それぞれのご家族の方が楽になるアプリになるんじゃないかな、という希望が持てる未来を見せていただきました。
▼ほこたワガママLabの活動レポートはこちら