下鴨車窓『漂着(kitchen)』終演
下鴨車窓『漂着(kitchen)』、全5公演を終え無事に終演いたしました。205号室同居人(マイ)役の加藤彩です。
ご来場いただきましたみなさま、また遠くから応援してくださったみなさま、本当にありがとうございました。
京都への3ヶ月の滞在も含め、とても特別で、贅沢で、ご褒美のような時間でした。
帰りの電車にゆられながら、ぼちぼち振り返りたいと思います。
『漂着(kitchen)』とは?
海辺のアパートの三部屋が、入り交じったり混ざらなかったりしながら、19人で繰り広げられる下鴨車窓初の群像劇。
三部屋のエピソードはほとんど時系列順に並べられるため、舞台上に設営された「部屋」の主人や来訪者が次々に入れ替わりながら展開される。(一部、同じ時間軸にあるエピソードもある。)
同じアパートに住んでいながら、住人同士の交流はほとんどなく、それぞれがそれぞれに、ただただ生きていることを実感させられる作品。
私はこの作品の中で、205号室の住人・由香(にさわまほさん)の同居人を演じました。
描写の細やかさに挑戦。
明確に台詞で示される訳ではないのですが、由香とマイはどうやら友達以上の関係のようです。(読み取ってくださったみなさまありがとうございます。ほかの解釈もうれしいです。)
マイは由香のアパートに転がり込みますが、どうやら世話好きの大家に見つかり、ふたりの関係性を勘づかれないよう互いに配慮しているようです。
その配慮の度合いが由香とマイで異なるということが、台詞だけでなく所作でも見せられるよう工夫しました。
たとえば香水。
こちらは同じ205号室の別シーンで、由香のバイト仲間のノゾミ(藤島えり子さん)が「由香のものではない香水の匂いに気づく」という描写があり、こちらのシーンでも「マイが香水をつける」という動作を取り入れました。
マイにとっては日常の作業ですが、「由香の部屋で由香のものとは別の匂いがする」というのは他者にマイの存在を気づかれる行為で、かつ205号室で開かれる飲み会がもうすぐ始まる中でやるため、由香は怒って香水を捨てます。(しかもマイは、窓辺など風の通るところではなく部屋の真ん中で香水をふりよる。)
台詞上のやりとりより、登場人物にとっての日常の作業の量が今まで出てきた舞台のなかでダントツに多く、かつ稽古の度にそれらは更新され、相手のささいな仕草がきっかけになっているものもあって、それを逃すと抜けてしまう作業もありました。
中身はそこそこに。
描写については細かくこだわりましたが、私はマイという人物についてはあえて深く掘り下げないという選択をしました。
普段の私はいただいた役の一番の理解者になることを目指して取り組みますが、今回は役と思考回路が全然違うので「マイは加藤彩とは完全に異なる他人である」という距離感の方がより彼女に近づけると思ったためです。
どんなにうれしかったことも、悲しかったことも、日々「以前感じた大きな感情」を大きく出すことってよっぽどのことがないとない。
意図的な役の中身の表出や、過去の掘り下げなどよりも、マイの日常の作業を淡々とやること、全体の台詞のリズムをくずさないこと。このふたつを大切にしてみました。
最後まで固まらないシーン
一方、終盤の海岸のシーンは最終稽古で田辺さんのオーダーにより、稽古である程度できていた型を崩すことになり、私としては色々とあやふやなまま劇場入りをしました。
私の普段の作り方は、「型」をきっちり作って同じように繰り返すことで遊ぶ余裕ができる、というものなので、結構ハラハラしておりました。
そんな中で、由香役のにさわさんがどっしり構えていたので、気持ち的に便乗させてもらいました。
この海岸のシーンでは由香とマイの別れが示唆されます。
205号室の物語のシメに当たる重要なシーン、かつこの舞台の終盤に集められた素敵な俳優陣と渡り合えるお芝居を、と思うと恐ろしくもあり、また身に余るプレゼントでもありました。
型はもたなくとも、稽古で積み重ねてきた「核」のようなものを外すことはないだろうと、腹を決めて舞台に立ちました。
なんとか回を重ねるごとに徐々に手応えをつかむことができ、千秋楽でマイの一番自然体なところがでてきたのかなと思っています。
固めないことで、その場その場の空気感をより繊細に扱うことができました。
新しい切り口の発見
今回は、いつも私が取る手法とはかなり異なるものを選び、そしてそれもきちんと芝居上ではたらくという結果を手に入れることが出来ました。
動作でいっぱいいっぱいになることでその場にいることに夢中になれること、お芝居を固めないで舞台に立つことで瞬間瞬間を大事にできること。
今回、かなり大きなものを得たのではないかと思っています。
そんなことを言っている間になんだかんだ家にも着いたし、なんならお昼ごはんも食べました。
年齢も経歴も多種多様なみなさまとご一緒できたこと、非常にいい経験となりました。稽古も本番も全部楽しかったです。ありがとうございました。
楽しく、学びの多い日々であったことをここに記して、筆を置きたいと思います。
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