【漫画原作】『SYNTHETIC LOVEーシンセティック・ラヴ』【BL】
読切用の漫画原作です。
複製、自作発言、無断転載、許可なき作画はNGです。
人によっては胸クソ展開やバッドエンドがあります。苦手な方はご注意ください。
ジャンル
BL風味のおはなし。
あらすじ
都内でバーを営む青年・ウィリアムには「キョウスケ」と言う恋人が居る。キョウスケはアマチュアのカメラマンで、ウィリアムはたくさんの人に見て欲しいと、彼の写真をバーに飾っている。また、ウィリアムは常連客に「おはなし」を聞かせてもいる。自分と「キョウスケ」にまつわる、甘く切なく、時には苦々しいお話を。
登場人物
・久慈ウィリアム:三十代前半の男性、175センチ位で華奢な体型、北欧系のハーフで中性的な顔立ち、白銀の髪と碧眼が特徴。都内でバーを経営している。「キョウスケ」と言う恋人が居るらしい…
・キョウスケ:ウィリアムと同い年の男性。180センチ越え、がっしりした体型。坊主頭。アマチュアのカメラマンで、ウィリアムの恋人らしい…
本編
〇都内・雑居ビル(春頃・夜)
ダイニングバー。店名〈SYNTHETIC LOVE〉。
扉に〈reserved〉(貸切)の札。
店内。落ち着いた雰囲気の内装。店長一人で運営しており、それ程広くは無い。カウンター隅に卓上カレンダー、日付は〈2022年5月〉。
テーブル席。二十代の女性客四、五人。女子会中でほろ酔い気分(一人が新客、他は常連)。
黒いワイシャツ、スラックスを着たウィリアム。人数分に切り分けたケーキをテーブルに置く。
ウィル「どうぞ。食後のデザート。ボクからのサービス」
常連 「ありがとうございま~す!」
「久慈さ~ん、イイんですかぁ? 女子会だからってぇ、安くしてもらってるのにぃ」
ウィル「感謝するのはコッチ。常連さんのお陰で、やっていけるんだから。どう? 今なら何でもするよ」
常連 「じゃぁ、コレに合うドリンク!」
「私もぉ」
「私はいつものアレ~」
新客 「いつもの? もしかして裏メニュー?」
ウィル「おはなしだね。キョウスケ君の」
新客 「お友達ですか?」
常連 「違う違う。恋人、カメラマンの。此処に有る写真、全部撮ってるの」
店内の壁、大小様々な額入りの写真が数点。東京の名所や田舎の風景、ウィリアムが作った料理(スイーツ)などで、三~八万円の値が付いている。
写真に目を向ける客達。
カウンターに立ち、ドリンクを用意するウィリアム。客用のグラスにアルコール、マイグラスにソフトドリンクを注ぐ。
新客 「プロですか?」
ウィル「アマチュア。趣味で撮ってるんだ。でもイイ写真でしょ? だからみんなに見て欲しくて。幾つかは販売してるよ。でも中々居なくてさ、手に取ってくれる人」
店内の隅に本棚。旅行やカメラの雑誌、自家製の写真集(風景・スイーツ・ウィリアムの三種類。同人誌の様に印刷所に依頼したもので、価格は五~六千円程)。クリアファイルに入ったチェキ(花やネコ、スイーツ等、可愛い系の写真。こちらは一律五百円)。
〈ウィリアム〉の写真集を見る女性達。ウィリアムの寝起きや半裸、口元のアップ等、ややエロ気味の写真。大声ではしゃぐ女性達。
常連 「ヤバッ! ハダカじゃん!」
「どっかの雑誌の特集みたい」
新客 「なんか隠し撮りっぽい…。大丈夫ですか? 恋人なのに」
ウィル「好きだからね、被写体になるの。考えた事無いよ、恥ずかしいなんて」
トレーを手にしたウィリアム、テーブルにグラスやアロマキャンドルを並べる。他のテーブル席から椅子を持って来る。
常連 「小学校の同級生で、一緒に上京して、二人暮らしする仲ですもんね~」
「えっ? 山村留学でお世話になった地元の大学生、じゃなくて?」
「スカウトマンでしょ? 芸能事務所の」
新客 「えっ? 何でみんな違うの?」
ウィル「お酒のせい。ごっちゃになるんだ、酔っちゃうと。しょうがないよね。写真の数だけおはなしが有るんだから」
本棚から一冊手に取るウィリアム。中綴じのコピー本。パラパラと捲る。高校時代の写真が印刷されている。
ウィル「何を話そうかな。初めて聞く子も居るから…」
一瞬、ウィリアムの目が鋭くなる。
パジャマ姿で海辺に立ち、満面の笑みを浮かべるウィリアムの写真。
ウィル「ボク達が出会った時のおはなし、なんてどう? 十五年くらい前かな。高校生になったばかりの頃でね―――」
*****
※回想シーンについて。
ウィリアムのセリフと、それに応じた絵で構成。絵は〈シーン〉で指定した風景やアイテム、キャラの動作等を元に描く。キョウスケは基本的に電子機器(デジカメ・アイフォン・アイパッド)で撮影。ストーリーの都合上、カメラの種類を指定している。
【回想(2006年頃)】
◆シーン
〈ウィリアムと家族の紹介〉
◇語り
ウィル『先ずはボクのコト。知ってる人は復習のつもりで。久慈ウィリアム。父は日本人、母は欧州人。兄弟は居ない。生まれてすぐに来日、中学までは東京に、そして親の都合で田舎へ。その後、色々あって今に至る』
◆シーン
〈高校生活。目立つ(人気者になる)。噂する女子生徒、ハサミやカッターを持っている〉
◇語り
ウィル『高校はめちゃくちゃフツー。生徒も教師も校則もみ~んな。だから目立つんだ、ボクみたいな人間は。入学早々、注目の的。田舎のビョルン・アンドレセンって言われてさ。追っかけられたよ、髪の毛が欲しいって。何に使うと思う? おまじない、両想いになれるって。自慢になるけど、あの頃はモテたんだ、人生で一番』
◆シーン
〈キョウスケの紹介。坊主頭、運動部系のがっちりした体型、無口な印象。カメラ(キャノン EOS R2)で、自然や鳥等を撮影/放課後、校門でアイフォンを手に詰め寄る女子達。無視するキョウスケ。その様子を教室の窓から眺めるウィリアム〉
◇語り
ウィル『モテると言えば彼もね。二個上の先輩。成績優秀、運動神経抜群、高身長で男前、寡黙な一匹オオカミ。スゴかったよ、特に放課後は。彼を囲んで撮影会。他校の女子も来てさ。こんな風にアイフォン持って。でも彼は無言でスルー。実は恥ずかしがり屋とか? 違う、人嫌いなだけ。カメラが趣味って言うとさ、お願いされるんだ、上手に撮ってくれって。ちゃんと撮ったつもりでも、可愛くない、カッコよくないって文句付けられて。そのせいでイヤになったんだ、誰かを撮るのも、誰かと一緒に居るのも』
◆シーン
〈写真のカット(セリフを参考に)/登下校。三脚を担いで歩くキョウスケ、ふと立ち止まる。田圃や空に向けてカメラをセットし、撮影。遠目に様子を伺うウィリアム。カメラが自分に向いている気がする〉
◇語り
ウィル『そうそう、カメラを始めた切っ掛けね。残したいからさ、お気に入りの世界を。桜に紅葉、通学路の鉄塔、空を飛ぶ鳥たち。今風に言うと、〈エモい〉とか〈尊い〉。そう感じたモノなら何でも撮ってた。子供の頃からそうだったな。…ゴメン、ちょっと脱線したね。彼を見掛けるのは、登下校が多かったな。三脚担いで歩いててさ、急に立ち止まってカメラを向けて。撮ったら歩いて、歩いたら撮って。その繰り返し。ヘンだよね、傍から見ると。でもやってる本人はガチ。逃したく無いんだ、〈推し〉の一瞬を』
◆シーン
〈授業中。ウィリアムは窓側の席。窓から校庭を見る。体育中(サッカー)の三年生。ゴールを決めるキョウスケ。盛り上がるチームメイト。無反応のキョウスケ、ふと校舎を見る。目が合う二人。急いで目を反らすウィリアム、ほんのりと頬が赤い〉
◇語り
ウィル『好きになる瞬間って、人それぞれだよね。笑顔にキュンとした、仕草にビビっと来た。ボクの場合は〈気が付いたら好きになってた〉。有ったんだよね、言葉では説明出来無い何かが。メンヘラっぽい? ロマンチストって言って欲しいな。大好きなんだ、夢物語や空想が。まぁ、そんな話は置いといて。悪いコトじゃ無いよ、誰かを好きになるって。でも好きになっちゃいけない相手も居る。だから自分に言い聞かせた。願い続けても、絶対叶わないからって』
◆シーン
〈小学生のウィリアム。都内(近所)を歩く。路地裏で野良猫を見掛けたり、公園で弁当を食べる等/高校生のウィリアム。自転車やバスで田舎を回る。他の町(ショッピングモール、観光施設、無人駅等)へ行く。リングノートに記録(日記のようなもの)を書く〉
◇語り
ウィル『そう言えば話したっけ? 〈ウィリアム・クエスト〉のコト。ちょっと、笑わないでよ、子供のボクが本気で考えたんだから。要は一人旅。お弁当持って近所を歩いて、面白いモノを見つけて記録に残す。自転車やバスに乗って、ちょっと遠出したりね。今でもやってるよ、臨時休業ってお店休んでさ』
◆シーン
〈高校一年生の夏頃。路線バスで牧場へ。ベンチに座りソフトクリームを食べる。ふと視線に気付く。カメラを首から下げ、佇むキョウスケ。二人の視線が合う。驚いて、ソフトを落とすウィリアム〉
◇語り
ウィル『あれは夏休みだったかな、否、文化祭の日だ。具合悪いって休んでさ、牧場に行ったんだ、限定のソフトクリームを食べに。昔のコトだから、味なんて覚えてない。本当に食べたのかも記憶に無くて。だって、それよりもステキなコトが起こったんだ。彼だよ。ボクと同じようにサボって来てた。勿論偶然さ、でもロマンチストはこう考える、必然的な運命だって』
◆シーン
〈上記続き。牧場。ヤギのエリア。柵の外から見る二人。エサの紙コップを手にしたウィリアム。動物にカメラを向けるキョウスケ。ウィリアムに近付くヤギ達、エサの取り合いに。慌てるウィリアム。その様子を写真に撮るキョウスケ〉
◇語り
ウィル『好きになる切っ掛けって、人それぞれだよね。家が近所だから、趣味が同じだから。彼の場合は〈撮りたいって気持ちになったから〉。感じたんだって、言葉では説明出来無い何かを。決まってるよ、そんなの。ボクが魅力的だったんだ、思わず写真に残したくなる程、ね』
◆シーン
〈上記続き。夕方。牧場近くのバス停。バスを待つウィリアム。普通二輪(バイク)の傍に立つキョウスケ。バスが到着。バスに乗ろうとするウィリアム。視線を交わす二人。躊躇いが見えるウィリアム、真剣な様子のキョウスケ。バスが発車。乗らなかったウィリアム。優しく微笑むキョウスケ、ウィリアムにヘルメットを渡す〉
◇語り
ウィル『あの頃は今よりも閉鎖的だった、男の子同士の恋愛って。だからお互い分かってた、〈好き〉って想いがあっても、ボク達が望む形はならないって。でも彼は言うんだ。歳の離れた友達、先輩と後輩、カメラマンとモデル。例え〈恋人〉になれなくても、一緒に居られる形はあるって。それでも構わない、だから付き合って欲しいって。返事? 勿論OK。だって断る理由が無いから』
◆シーン
〈キョウスケ卒業まで(夏~冬)。学校では互いにスルー。休日は森の中の神社で過ごす。菓子を食べる、勉強を教わる。人気の無い場所(森や滝等)で撮影。小型の扇風機を使って風を起こしたり、小さな脚立に乗ってポーズを取るウィリアム。アイパッドで撮影するキョウスケ。写真を確認。お気に入りの一枚。満足そうな二人〉
◇語り
ウィル『ドキドキしたよ、学校に居る時は。みんなには内緒だから、バレないように気を付けてさ。土日はデート。部室って呼んでる古びた神社で、お菓子食べたり、勉強教わったり。撮影もしたよ、勿論田舎で。カメラマンって知ってるんだ。景色が良くて、過ごしやすくて、誰にも会わない場所。プロを真似て照明や小道具を使ったりね。大変だよ、同じポーズで何十枚も撮るんだから。でも慣れると楽しい。それに達成感もある、お気に入りの一枚が撮れた時とかね』
◆シーン
〈卒業後。電車で東京に向かうウィリアム。〈クエスト〉の記録帳を元に東京を案内。隠れ家的なカフェ、スカイツリーの展望台に登る、縁結びの神社で共通のお守りを買う等、満喫する。互いに嬉しそうな様子〉
◇語り
ウィル『卒業した彼は東京の大学へ進んだ。勿論会いに行ったよ、電車に乗って。おカネ無いから、三ヶ月に一回とかだったけど。観光名所に穴場スポット、色々案内してあげた、元々こっちの人だからね。隠れ家的なカフェで寛いだり、スカイツリーの展望台に登ったり、縁結びの神社でお願いしてさ。色々したよ、フツーのカップルみたいに。みんなが想像したいコトだってね』
◆シーン
〈上記続き。アパート。キョウスケの部屋。落ち着いた内装。煙草と灰皿。壁に額入りの写真(田舎の風景やウィリアム)が飾られている。ベッドに座る二人。アルバムを見ながら談笑。和んだ空気が少し変わる。顔を合わせる二人、互いに緊張気味。ウィリアムの頬に手を当てるキョウスケ、ゆっくりと顔を近づける〉
※セリフは無し。脱ぎ散らかした服やコンドーム等、セックスに纏わる描写は避ける。〈何をする・した〉のかを読者に想像させる描写で。
◆シーン
〈田舎、夜。ウィリアムの部屋。ベッドに寝転び、アルバムを見る。東京で撮影した写真。観光名所でポーズを取る・自然体のウィリアム。一枚一枚を嬉しそうに見返す〉
◇語り
ウィル『シアワセだった。この時間が永遠に続けばって願ったよ。でも、思うようにいかないんだよね、人生ってさ』
◆シーン
〈三年生に進級。休み時間。自席で本を読むウィリアム。BL漫画を読んで談笑する女子のグループ。爆弾発言。以降、同級生の視線(態度)が変わる。ウィリアムを揶揄う、避ける、アダルト玩具を下駄箱や引き出しに仕込む等典型的ないじめ(殴る蹴る、性的暴行等、接触型の暴力は無い)〉
◇語り
ウィル『三年生になった頃かな、〈腐女子〉ブームがあってね。学校にそう言うマンガ持って来て、身内で語り合ってさ。ココが萌える、受けの表情が最高とか。段々盛り上がって来てさ、自分達の妄想も披露し始めた。役者にアイドル、塾の先生まで。男性なら誰でもイイらしいね。勿論、ボクも対象。こんなコトさせて楽しんでるって、嬉しそうに話してた。当然彼女達の作り話、でも学校のみんなが信じちゃって。揶揄われたよ、ハーフゲイって。無視された、触るとうつるって。下駄箱にアレなおもちゃが入ってたりしてね。驚くコト無いよ。みんなもあるでしょ? イヤなモノは徹底的に避けるって』
◆シーン
〈両親に詰め寄られる。部屋に引き籠るウィリアム。出て行く両親。独りになるウィリアム。キョウスケからのライン(体調を気遣う、勉強や学校生活について等)。嬉しそうに返事をしていたウィリアム、次第にストレスを感じ(鬱気味になり)、返さなくなる。部屋に散らばる破れた写真。リストカット用のカミソリやカッターも。パジャマ姿でベッドの上に座るウィリアム、目が死んでいる〉
◇語り
ウィル『ウワサは当然、親の耳に入る。父は怒った、そんな風に育てて無いって。母は泣いた、普通で居られないのって。出てったよ、二人共。それからは連絡取ってない。東京の友達にも知られてね、疎遠になった。キツイよね、身近な人が味方になってくれないの。でもボクには彼が居た。毎日ラインで連絡しあってね。調子どう? 勉強難しい? 夏休みに帰るから会おうね。他愛のない遣り取りだけど、気が晴れるんだ。彼のコトを考えてると、イヤなコトは全部忘れられるからね。イジメのコトは言わなかった。迷惑掛かけたく無くてさ。ボクみたいな思い、させたかったし。そうやって自分一人で抱え込んじゃうとさ、段々悪くなってくるんだ。身体が重たくなって、不安ばかりを感じて、彼の言葉も嬉しくなくなって。所謂、負の状態だね。無意識に悪いコトを考えちゃったり、知らない間に行っちゃいけない方へ向かってたりね。…イヤになったんだ、生きるのがね』
◆シーン
〈一応夏頃。裸足で歩くパジャマ姿のウィリアム、無表情で目元が虚ろ。畦道、田圃、高架橋等、周囲の景色(背景)に色が無く、不気味〉
◇語り
ウィル『人によって違うんだろうね、最期に見る景色って。ボクのは不思議な世界。色が無くてさ。朝か夜かも分からない。音は聞こえない。ニオイも無い。暑さや寒さも感じなかった。怖い、苦しい、痛い。そんな気持ちも湧かなかった』
◆シーン
〈上記続き。神社に到着。生い茂った草、薄気味悪い木々。禍々しく聳える大木。枝に掛かるロープ、傍に脚立。共に撮影で使った小道具。ウィリアムの曇った目に一瞬光が。脚立に乗る、ロープを首に絡める。静かに目を閉じる。脚立を蹴る〉
※セリフは無し。
◆シーン
〈白いページにセリフのみ〉
◇語り
ウィル『これでお終い。ボクと言う存在は、世界から消えて失くなった。その証拠にお迎えが来た。何かがボクの身体を包むんだ。ほんのりと煙草の匂いがしてさ、バリトン歌手みたいな低い声で言うんだ。〈俺を置いて逝くな〉って』
◆シーン
〈目を覚ますウィリアム。抱きしめるキョウスケ。キョウスケの想いを察し、抱き返すウィリアム〉
◇語り
ウィル『彼だよ。胸騒ぎがして部室に来たら、ボクが丁度するとこだったって。怒ってた、俺を頼れって。悲しんでた、ボクを失いたく無いって。そして言った、〈何があっても俺が守る〉って。嬉しかったよ。この世界には、ボクを拒絶する人しか居ないと思ってたけど、ボクを心の底から愛してくれる人も居るんだって』
◆シーン
〈上記続き。高速道路を走るジープ。運転席にキョウスケ。助手席にウィリアム。海岸。撮影の準備をするキョウスケ。海辺に立つウィリアム。視線を交わす二人、お互いに嬉しそう〉
※セリフ無し。
◆シーン
〈上記続き。夕方。堤防に立つ(若しくは座る)。恋人繋ぎ、沈む夕日を見つめる〉
◇語り
ウィル『約束した。ずっと一緒に居よう。どんな困難も二人で乗り越えよう。永遠に愛し続けよう、って』
【回想終わり】
*****
ゆらゆらと炎が揺れるアロマキャンドル。
テーブルに置かれた写真集やチェキ。
空になった女性客らのグラス。ハンカチで涙を拭ったり、感慨深げに頬杖をつく女性達。
コピー本を閉じるウィリアム、満足そうな様子。
客 「ちょっと、ヤバいんですけど…」
「そのヘンの映画より感動しちゃう…」
ウィル「有難う。嬉しいよ、そう言ってくれると。話した甲斐があった」
壁を指さす女性。海が写る風景。
客 「あの写真、頂戴。聞いてたら、欲しくなっちゃった」
ウィル「平気? 結構するよ、額とか拘ってるから」
客 「全然。いっつもサービスしてもらってるし」
「私は写真集。あとチェキも!」
「私も~」
ウィル「まいどあり」
意味ありげに微笑むウィリアム。
閉店。扉に〈closed〉(閉店)の札。
片付け終わった店内。
テーブル席に座るウィリアム。テーブルに酒瓶、マイグラス、夜食(おつまみや賄い飯)、予約リスト。
感慨深げに壁の写真を見るウィリアム。
ウィル「キョウスケ君。強くて、賢くて、優しくて、誰もが惚れるステキな男性。オレだってトキめいちゃうね、こんな男が現実に居たら」
ウィリアムから優しさや温厚な雰囲気が消える。顔には狡猾そうな笑みが浮かぶ。
ウィル「ぜぇ~んぶ、ニ、セ、モ、ン。デートも、イジメも、自殺未遂も、キョウスケ絡みは、みぃ~んな作り話。何でウソ吐くのって? そりゃ売り付ける為よ、オレが撮った写真を。女子って好きじゃん、恋バナ。だからすんの。胸キュンするおはなしなら、マンガだろうが、ゴシップだろうが、何にだってカネ出すからさ。しっかし良く思い付いたよなぁ。自撮り売るのに、架空彼氏作っちゃうって。ウィルちゃん天才すぎ、ハハハッ!」
◆シーン
〈現実。高校生のウィリアム。高速バスに乗る。海岸の町。人気は無い。バックパックからパジャマを取り出し着替える、カメラや三脚を準備。海岸を歩くウィリアム。タイマーで動くカメラ。所謂自撮り〉
電子タバコ(アイコス)を取り出し、喫う。はー、と息を吐き、予約リストを捲る。
ウィル「えっと、次の予約は~。来週金曜の昼、大学生グループのランチ会。うわっ、未成年居ンじゃん、ならアルコールNGか。さぁ、どうすっかな。次のおはなし」
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◎補足
回想シーンに登場するアイテムは、作中の時代設定と異なっている。
・キョウスケが使うキャノン製のカメラは2020年に発売されたもの。
・アイフォンの日本発売開始は2008年。作中時期に近いが、当時はガラケー(折り畳み式の携帯電話)が主流で、スマホ(タッチパネル式の携帯電話)は普及していなかった。
・スカイツリーの建設開始は2008年。完成は2012年。
・ライン(LINE)のサービス開始は2011年から。
いずれも調べれば簡単に分かるもので、ウィリアムの話がウソだとすぐに見抜ける。またタイトルの「SYNTHETIC(シンセティック)」は「本物ではない」「作り物」という意味で、「作り物の愛」=キョウスケは存在しない事を暗示している。
「SYNTHETIC LOVEーシンセティック・ラヴ」終