2021年2月 青にまつわる嘘をつく
羊と豚を飼った話をすると、彼女は「スープをつくる」と送ってきた。命令でも懇願でも啓示でも義務でもない。人生にそっと現れた偶然の出会い。私はスープをつくることにした。
2021年の1月、私はスープをつくった。スープと言われ、頭に浮かんだのがセロリのスープだった。迷うことはなかったのだが、元旦は雑煮をつくった。日本の自然の流れである。二日も雑煮をつくった。三日も雑煮をつくった。そして四日、満を持してセロリを買い込み細かく刻んだ。鶏ひき肉、ジャガイモ、トマトを入れ、チキンブイヨンと塩コショウで味をつけた。小まめに味見をすれば、家庭料理に失敗はない。我ながら美味。冬の寒さとセロリの細かい香味のベストマッチを喜んだが、セロリの季節は冬ではなかった。
何度もセロリのスープをつくった。我が家では、透明なスープであるコンソメスープしか作れなかった。不透明なスープであるポタージュを作るために必要なブレンダーなるものを持っていない。煮込むル・クルーゼもなく、気取るスープボウルもなかった。迷って悩んで、セロリを刻む。セロリのスープ。美味。
変わったスープをつくりたかった。オレンジスープという言葉を思いついたが、思いついただけで、味も色も想像できなかった。白紫色のスープや白桃色のスープを紫芋やビーツでつくりたかったが、ブレンダーなしでは無理だった。せめてと入浴剤を乳白色にした。考えすぎて、閃いて、汁なしスープをつくった。汁なしでもセロリのスープだった。
五十肩のリハビリは続いている。痛みが鋭さから鈍さに変わった。注射を打った。回復の兆しはないらしく、「久しぶりに手強い肩です」と担当に言われた。1月が終わった。2月に入ると「青にまつわる嘘をつく」が送られてきた。