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2024年下半期自選十句鑑賞 その5

ギルさん
大試験前夜の御句にはっと胸を突かれました。「サクラサク」の知らせが届きますように、とスプレーする桜の香の消臭剤。ご本人ではなくご家族の小さな気遣いでしょう。
花蘇鉄の御句はユーモアもありつつの写生が素晴らしいですね。太い蘇鉄の幹のうねりがちょっと怪獣みたいだから。見立てが楽しい!
ギルさんの視点、詠みぶりに俳諧味を感じます。オリジナリティとリアリティ、そのどちらも苦も無く手にしておいでのようで羨ましく思いました。

岸来夢さん
さくらんぼの御句はなんと可愛い入籍なのでしょう。朱色の印が二つ並んでいる様子の微笑ましさ。嬉しいご結婚の記念となる一句。
独楽の回るさまを「澄む」はよくある表現ですが、それを「小さき星」としたところにまず素晴らしさがありますし、「軸生まる」で完璧な景を獲得していると感じました。
みんみん、夏休の蛇口、星月夜も写生が活きていると感じます。

有村自懐さん
不器男忌の御句が特に素晴らしいですね。「無二の罅」という詩語がとても魅力的で的確だし、飯茶碗という日常的な事物に普遍性を託せる、実に繊細な感覚です。この飯茶碗は自懐さんご自身のものと思いますが、不器男が生前使っていたものとも読めます。取り合わせが抜群に佳き!
玻璃の瓶を煮沸しているのはジャムを煮て詰めるためでしょうか。この作業から秋が透き通るという感覚を掴み出すところが素晴らしいなと思います。

まるにの子さん
心太の御句は幼い頃の経験からでしょうか?駄菓子屋などへ硬貨を握って走って行く子供の姿が見えるようです。心太1杯50円という時代の匂いが感じられますね。
朝顔の実の御句は「かしゆかしゆ」のオノマトペがとても佳いと思います。揉めば零れる小さな種。二つの動詞の選択も的確!
星月夜の御句はにのさんのユーモアセンスが光りますね。こういうところって勉強して獲得できるものではなく、その人のこれまでの体験・軌跡が表出するものと思います。お人柄がにじみます。

池之端モルトさん
天目は曜変天目のことでしょうか?私、この景を一度詠んでみたいと思っていて、未だに詠めておりません。こう詠めばよかったのか!と感動してます。そうだ宇宙が広がっていると素直に言えばよかったんだ!梅の匂いとの取り合わせ佳いですね。茶碗の内側の小さな斑点が梅の花にも似ていると感じます。
馬の尾のはらと・・・かっこいいですね!身近に馬が存在しないとこうは詠めません。さすがモルトさん!

井納蒼求さん
星月夜の御句が、なんと切ない景だろうかと・・・。ご家族の体調不良、はた目には判らないご苦労もおありだったことでしょう。お辛い体験でしたね。蜜柑の御句にもお父様に対する愛情が感じられます。
星条旗の御句に犠牲者を悼むお気持ちを強く感じました。哀しい出来事でも俳句に詠むことでさまざまな想いが昇華されていくと思います。

ぐさん
「夏至近し」からの「緻密に」!!!この展開が抜群に素敵です。海は、晴れている日ならばほぼ年中照り返してますが、「緻密に」の一語でまさに夏至の近い時期の海だと納得。ぐさんならではの表現かと。
セーターの御句には強い憧れを感じました。「追熟」で脳天射貫かれるくらいの衝撃。
ぐさんのような表現力が欲しい、切実にそう思う十句です。

西田月旦さん
「黒き運河に」からの「名月のひらきけり」!驚愕の名句!こんな凄い発想と描写、見たことありません。名月に動詞「ひらく」を持ってこられる力!凄すぎます。
案山子の御句は地方の名士の話かと思いきや、という展開。諧謔ってこういうことでしょう。おそれいりました。
石榴の御句も月旦さんならではの語り口がありますね。

万里の森さん
街の灯をくずして・・・は川面の波を詠まれたのだと解しました。秋めく波、この表現の手触りがとても好きです。
牛の息の御句はユーモラス。「ぼふんと」ってオノマトペとても佳いし、「月を」の「を」が佳いうえに句末を「裏葉色」で締める、素敵です。

西村棗さん
八月の乗客の御句はホラー!怖いけど、なんだか「半透明」の措辞にうなずいてしまいました。自分以外が霊かもしれないという想像。
ひまはりってそういう感じの花なんですね?「笑い死ぬ」って凄い把握です。しかも「かほ」!台風が過ぎた後の描写なのでしょうか?他の人には絶対思いつかない表現!


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