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2024年下半期自選十句鑑賞 その9

葉村直さん
緑雨の御句「骨まで」に力と願いがこもっていますね。胸を締め付けられる表現です。
天の川の御句は「発つ」の意味合いを考えさせられました。星になったあの人この人の最期を思いつつ見上げる銀河なのでしょう。
直さんは比喩の達人ですね!直喩も隠喩も景をくっきりと表現されて凄いと感じました。

月岡方円さん
実柘榴の御句、「油絵具の闇」という措辞が一瞬で画の全体像を見せていて素晴らしいですね。赤い実の鮮やかなさまを想像します。
無月のリフレインは作者の内面を象徴しているように感じます。今は暗くとも雲の向こうに月はあると信じたい気持ち。寒昴の御句につながっていくような心理か、と。
ペリドットの薄緑くらいの嚏、可愛いですね。小さい感じも伝わります。

秋野白露さん
小鳥の図鑑をポケットに入れてバードウォッチングでしょうか。「秋に入る」との取り合わせは近いけれども佳いと思います。小鳥たちの姿をたくさん見られる秋を楽しみにしていた作者の気持ちが伝わってきます。
向日葵の御句は先に青空を見せてから向日葵の背部を描く語順に工夫があって佳いですね。

細葉海蘭さん
ぱっと目を引くのは聖樹の御句。飾り付けられる前の、伐り倒された樅の木が運ばれていく様子を描写するのはかなり珍しいと思います。年輪に言及するのはけっこうな太さだからでしょうか。どこへ運ばれて、どんな聖樹に仕立てられるのか、その先を想像する楽しさ。
野葡萄付借家というだけで立地がわかって面白いですね。最後の〼もいかにも宣伝文句で。
ユニークな御句が多い印象です。

梵庸子さん
背後からお母様を描写なさった夏帽の御句は、上五の入り方がとても巧み。ユーモラスに仕上がっています。
兄妹の校歌の記憶はけっこう違っていたと読みました。人の記憶は都合よく書き換えられていくものです。ここに季語「栗ご飯」を取り合わせることで、楽しい里帰りのご様子が完成しましたね。
お父様の豚汁と林檎、精一杯の心遣いが愛おしい一句。

音羽凛さん
助詞の飛距離!さすが俳句甲子園に縁の深い方、この措辞はなかなか出てきません。素晴らしい俳句甲子園応援句です。
霜夜の御句は心理を反映する語の選択ですね。震えるほどの寒さではあるけれど、夜空に星がひとつ見えているだけで、かすかに希望が持てる出奔と思えます。句末の「かな」効いてます。

青居舞さん
少年院に農作業を学ぶための畑があるのですね?そこに茄子が植えられていて、花が咲いている。「親の教えと茄子の花は万に一つも無駄がない」と言います。ここにいる少年達の親御さんはどうなさっておいでだろうか、この子らの将来は…などと思いめぐらせる一句です。茄子のようにつやつやと美味しい実を少年達も実らせてくれますようにと願わずにはいられません。
三月の海は恋ですねぇ。可愛いなぁ。うまく伝えられたかしら?

四條たんしさん
目高の御句に見える決意!将来の夢や希望を考えると、志望校どうするかって切実ですよね。目高の動きがきっかけになった、その瞬間の切り取り方が佳いと思います。
ネクタイの御句にはちょっと大人になった作者の姿を垣間見る気がします。スーツにネクタイは就活でしょうか?成人式?冬の解け方と展開したのが佳かったですね。詩のある十七音。

平良嘉列乙さん
貝塚に骨製の釣り針があったことと流星を取り合わせる、背後に時間の意識がありますね。釣り針の持ち主の生涯、それはきっと流れ星が消えるまでの時間くらいに短い。長い地球の歴史の中での刹那。
星月夜の御句は対比が効いてますね。世界の人口じゃなくアジアと限定したのが上手いと思います。

空流峰山さん
蟷螂の御句にすごい臨場感があります。卵嚢から子蟷螂がそれこそウジャウジャ生まれてくる様子はまさに「開栓」。語の選択がバッチリ!
茅花は田畑があった場所ですか?更地になり茅花が咲くくらい放置され、そのうち住宅地としてどんどん家が建つ、近い将来の予測は嬉しいものであればいいのですが。


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