2024年下半期自選十句鑑賞 その6
桃園ユキチさん
原爆忌の気づき「そうかも」と共感。戦争を考える日であるはずなのに。平和はあたりまえじゃないのに。
チルド室みたいなオフィスというフレーズがものすごく気になります。室温の問題じゃなくて人間関係が?蘭の花みたいに美しいけどよそよそしい?
相変わらずユキチさんは発想モンスター、とんでもないところから取り合わせを思いつかれるので驚かされます。そういえば、その後お膝はいかがです?あし俳2024では痛むのに我慢してたくさん歩いてくださってありがとうございました。
大黒とむとむさん
飛花の御句がロマンティックでとても惹かれます。転勤による引っ越しでも、こういう去り方、素敵ですね。葉桜の新しい街に着任!
八月の雨と回送電車の取り合わせが意味深です。もしかして乗り過ごしてしまって車庫へ向かってるところなのでしょうか?その後が気になりすぎます。
とむとむさんの御句はどれも楽しい気分になるなぁと思いました。読後にあたたかな気持ちが残る、そこがイイ!
古田秀さん
母の日の御句「まばらな画素として」という表現がぎこちなさをバチっと形容していて凄いです。お母様との関係性に何かその原因があるのかなぁと感じます。
爆心地の御句、聴覚情報との取り合わせで川のある街を描写されたところが素晴らしいですね。広島の街の現在の姿を思います。あの日、原爆の熱線に焼かれた大勢の人が、水を求めて川へ歩み寄り、そこで力尽きて亡くなった、と聞いています。ギターの音に御霊は慰められていることでしょう。
横縞さん
木通の御句にハッとしました。あの分厚い皮の内側に隠された甘い実のような「新月の一夜」なのかしら、と。秘め事を決して明かさない、そんな美しい人を思います。
眠ろうとして目を閉じていても、閃く稲妻は薄い瞼を通して知覚されてしまう、光と言わずに光を表現できるんですね。感動!
鳩の死の問いかけは答えに詰まります。過剰な感情を排除した一編の詩。
碧西里さん
啄木忌の口笛が胸に染み入りますね。寂しさがひゅう~と私にも伝染しそう。啄木は口笛を上手に吹ける人だったかしら?
渡り鳥の御句の「肺」=「虚空」の把握が独特で秀逸で大好きです。渡り鳥が飛んでいく空、人の躰にもそれとよく似た空間があるのだよと、教えてもらったみたいに感じます。「人体に」から語り始める語順もこれしかない!と思いました。
桜井教人さん
八月の海をどう感じるか、人それぞれなのでしょうね。戦争反対とシュプレヒコールをあげるのか、押し黙って反戦のプラカードを掲げるのか、まったく行動を起こすことなく胸のうちに押し殺すのか・・・。想いをすべて飲み込んで、静かに波を寄せてはかえす、八月の海を私は思いました。命を産み、育む、海だからこそ、人間の愚かな行いを黙って見ているだけなのかも。
山名凌霄(やまなりょうしょう)さん
桜鯛の御句は鯛茶漬けの描写が美味しそうで!あつあつの出汁をかけたら鯛の皮が縮みますね。新鮮な鯛なんだなぁ、と。
百日紅の御句の語順が佳いなぁと感じました。花びらのフリルが真夏の強い日差しでもっともっと強くちぢれていく、実感があります。
白露の花かつをも好きです。厨事の中にも句材がたくさんありますね。
小野更紗さん
桜の花には不思議な霊力があると言います。更紗さんのさくらの御句から死者の魂を鎮める力もあるのだと解しました。亡者のひとみを閉じさせ、安らかな眠りにつかせる力。
雁の御句には深い嘆きが感じられます。この国の荒廃を雁の目が上空から見下ろしているのですね。水が澱めば生き物たちの命も危うくなります。自然災害だけではない、滅亡への足音が近づいているような。
柊琴乃さん
何から何まで新しい!と感じる十句ですね。
噴水の飛沫が微粒子に風にと変化していくことを十七音で表現されてるのがとても素敵。絶えず吹き上げられる水が風へと変化し続ける、そこに普遍を見出せます。
蛇、金魚、ピーナッツ、琴乃さんの感性で、新しい意味を付け加えられた言葉たちの見せてくれる世界はとても楽しくて残酷で興味深い、です。
霧賀内蔵さん
瓶のコーラがなまめかしい、という把握は強く共感します。宵宮だからいっそう。祭の高揚がその思いを強くさせるのでしょう。
秋の野と廃線の取り合わせは他にもあるかもしれませんが、「鐵の饐え」とおさめた下五が佳いですね!具体的な描写によって句の景が確立しています。