2024年下半期自選十句鑑賞 その10
濃厚エッグタルト/江口足人さん
「潮風は春訛り」痺れますね!素晴らしい!上五で作者が今どこにいて何をしようとしているかが見えます。もうすぐ春の海が…と思うとわくわくします。
黙祷と黙祷の間、原爆忌と9.11米国同時多発テロでしょうか。黙祷を捧げる事が多すぎるこの世界にあって、季節が移ろうことをしみじみと感じる一句。
花星壱和さん
春の蝶、亡くなった叔母様がどんな方だったかを思わせる季語です。かろやかで美しくてお話の面白い女性だったのでしょう。追悼句として秀逸。
コスモスは青空に最も似合う花。ホスピスで過ごす方々は空が近い人たちとも言えます。青空の明るさが、やがて来る別れの日をも明るくしてくれているみたい。
人が避けようのない死を しっかりと前向きに捉えていらっしゃる姿勢の見える十句ですね。叔父様の夏帽もゆかしくて好きな一句です。
朱鷺9条湯八さん
町中の銭湯はずいぶん減ってしまいました。ゆったり広い湯舟につかる嬉しさ、天井の扇風機が回る音、マッサージチェアの茶色い合皮の感触、腰に手をあてて飲む瓶牛乳の冷たさ、昭和の光景が懐かしく蘇ります。あれこれ言いたくなるところを積まれる籠の音だけに絞って描写する手腕が素晴らしい。銃声・汽笛・ラジオ・桃売り・楽器 音にまつわる御句のバリエーションが多彩でどの御句も佳いなぁと感じました。
夏埜さゆり女さん
豆腐屋いいですね!経木で包んでくれるんですか?納豆かしら?豆腐を出す時の水音や経木の感触がもう涼しいです。
庭球の御句はオノマトペが独特で面白いですね。「夏旺ん」との取り合わせでテニスをしている人たちの活発な様子がわかります。避暑地でのテニスかも?と感じました。
充子さん
頭や眼鼻の無いマネキンが増えていますが、こちらはしっかり眼鼻も作られているマネキンで、しかもその瞳に鰯雲が映り込んでいるんですね。「なだれ込む」で素敵な秋の句になりました。
風信子の御句はお父様へのお母様のお気持ちが伝わります。大切な人を亡くなった後も身近に感じて生きるって素敵。愛ですね、愛。
玉野文(たまのねこ)さん
折り紙は千羽鶴のための?他のものを折ろうとしてくしゃくしゃに?元の箱に戻して帰っていく子を思いました。八月は夏休みの期間でもあります。子供の中に鬱屈があったのかもしれないと感じました。
三つ目の首の骨あたりはハイネックを着ていても外気にさらされます。そこに冬を感じる感性が佳き。
生田久孫子さん
画像で見る山鉾の真松はずいぶん高いところにあるようで。山鉾の巡業について回った実感ですか?空を「浄し」と形容されたところに感慨がうかがえます。
石山寺の龍穴は昼なお暗き池。龍が現れたと伝わる場所であることが「昏し」につながったのでしょう。「日の盛」が暗さをいっそう協調しています。
星月夜の御句は再発ですか。ご心配でしょう。月はなくても明るい星の夜、希望をつなぎたいですね。
山姥和さん
コスモスの御句は風の描き方がとても素敵。色で言えば銀、浅間の朝の空気を想像します。「●●風」のリフレインで情景をおさえていくのもすがすがしく。
じゃがバター美味しそう!オリオンが大きく見える澄んだ空気の広い場所、北海道でっかいどうですね。「はほはほ」にも実感があります。
白猫のあくびさん
夜食の御句に災害で避難されている方々を思います。食べて寝て遊んで学んで…普通に暮らすことが困難な事態に陥っていてさえ「生きているってすばらしい」と言いたい。熱々のうどんとかラーメンとか啜って、今日も頑張った!生きた!と言いたい。
明易しの御句はネオンサインが切れそうな明滅と読みました。重ねて「明」を使う効果。飲み過ぎて朝帰り?(笑)それもまたよし。
有野安津さん
街中華がいいですね。手動のドアが昭和を思わせます。冷やし中華食べたいな。夏深しだから、大蒜たっぷりのスタミナ定食とか。
月さやか、の御句も好きです。夜の海、波が荒くて、月光の琥珀色に染まっている様子が綺麗です。
色鳥が去ると色彩が急に寂しくなります。木の緑が濃くなりますね。