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『Multilingual Subject』 (C.Kramsh)③

ここから、記号としての言語が、語学学習者にとってなぜ「象徴」として関わってくるのかについての説明となります。

Introduction

2 Language as symbolic form (P25-26) 

象徴には2つの側面がある。一方では、記号は本質的に慣習的なものであり、スピーチコミュニティの社会的・心理的現実を指し示し、表現するものである。社会的共同体が共有する記号として、象徴は社会的慣習の力からその意味を導き出す。外国語の学習者は、学習している記号体系の文法的・語彙的慣例と、その使用に関する社会的慣例に従わなければならない。これらの慣習に従うことで、彼らは歴史的なスピーチコミュニティに入り込み、そのコミュニティの一員として受け入れられる象徴的な力を与えられる。しかし、このようなメンバーシップには代償が伴う:文法性、社会的受容性、文化的妥当性が、個人の発言や文章に制限を加えるのである。

一方、象徴の使用は、使用者と受信者の双方に主観的な共鳴を引き起こす。それは話し手の自己意識を再生産し、スピーチコミュニティの象徴的秩序に基づいて行動することを可能にする。話し手の経験はそれぞれ異なるため、話し手は従来の象徴形式に個人的な、しばしば特異な意味を持たせる。非ネイティブスピーカーにとって、他の誰かのように聞こえること、あるいは他の誰かになりすますこと、自分の経験を他の誰かの言葉に置き換えること、英語を話しながらペルシア語を感じたり、アメリカ人の感覚でドイツ語を話したりすることから生まれる力は、学習者が慣習を破り、他の象徴的現実をもたらすことを可能にする新しい象徴的力関係を生み出す。あるスピーチコミュニティが出来事に与える社会的・文化的な意味は、そのコミュニティに属していないスピーカーに新しい自己意識を生み出すことがある。

Multilingual Subject (by C. Kramsh), P25-26

自分なりにまとめてみます

記号としての言語が持つ2つの側面
1、外国語学習者が目標言語を学びながら、その言語のスピーチコミュニティのメンバーとして受け入れられる際に、メンバーとしての「象徴的な力」を得られるが、その代償としてそのコミュニティが有する言語的な制約を受けることにもなる。つまり、目標言語の持つ「正しさ」を守らなければならないということか。

2、こうした目標言語の持つ「正しさ」を「象徴的秩序」と言い換えたうえで、学習者が「正しさ」や「秩序」にとらわれない言語行動をとった場合、学習者がいるスピーチコミュニティに何らかのインパクトを与える。その言語行動がコミュニティで受け入れられていく過程において学習者自身がそのコミュニティにおいて新たな自己意識を得ていくということか??

この論文のタイトルとなっている「象徴的な」という語の説明について
さらに解説が続きます。

このような新しい主体的立場は、単なる社会的・心理的現実ではなく、むしろ象徴的なものである。つまり、母音や子音、名詞や動詞、音やアクセント、地図やテレビ映像など、きわめて具体的で物質的な種類の象徴に言語使用者が関わり、操作することによって生み出されるものなのだ。「象徴的現実」、「象徴的自己」、「象徴的権力」といった実体に適用される「象徴的」という言葉は、世界における人や物の表象だけでなく、象徴的な形式を用いることによって、認識、態度、信念、願望、価値観を構築することを指す。
本書では、「象徴的」という言葉をこの2つの意味で扱う。言語使用が象徴的である[1]のは、それが慣習的で客観的な現実を表す象徴形式を通じて、私たちの存在を媒介するからであり、[2]のは、象徴形式が知覚、感情、態度、価値といった主観的な現実を構築するからである。

Multilingual Subject (by C. Kramsh), P26-27

うーん、まだ消化不良気味ですが、現時点での理解を
自分なりにまとめてみます。
↓↓
★外国語学習者にとっての目標言語は象徴的な形式を持つ記号であるが、その使用によって、目標言語を理解し、言語使用時のみずからの態度や信念、価値観を表現し、将来への願望までも表せる媒介である。

よって、これまでの外国語学習領域において一般的に「慣習的・客観的である」とみなされてきた(外国語学習にとっての)言語は、対話において

★★慣習的・客観的な象徴形式を媒介するものでありながらも、
★★その言語の使い手にとっての個々人の主観(感情、知覚、態度等)をも
構築することができる、

この後、

・オースティンの学説にもとづいた言語学的視点
・ブルデューの学説にもとづいた社会学的視点
・バルトーの学説にもとづいた記号論的視点

のそれぞれから象徴的な力としての言語がどのように理論化されてきたのかという解説が続くのですが、本項目のまとめはいったんここまでとします。