Large-area MRI-compatible epidermal electronic interfaces for prosthetic control and cognitive monitoring
本論文は2019年2月18日にNature biomedical engineeringにpublishされた。
Nature biomedical engineeringについて
発行されたまだ2年しか経っていない比較的新しいjournal。
掲載される論文は広く医学工学系。新しい医療用デバイスの開発など、革新的な技術についての論文が掲載されることが多い。
著者について
たくさんいる。何故かeqaully contribution 1st authorが3人もいる。3人とも筆頭著者らしい。面白い。
corresponding authorのJohn Rogersさんはどうやら物理化学で博士号を取得しナノテクノロジーの研究をずっと続けているようだ。Google Scholarによるとscience誌に掲載された論文が2500回も引用されているらしい。ナノテクノロジー分野のイケイケっぽい。現所属はNorthwestern UniversityだがUniversity Illinois urbana-champaignに所属していたらしい。
この論文を読むにあたっての前提知識
どうやらこの論文は新しい電極の開発らしい。
EEG
EEG(electroencephalogram)は電極のついた帽子的なものを被り微小な電位の差を電極によって検出する計測装置だ。その計測された信号の周波数の違いによってその信号が"何由来か"解析することにより脳機能を明らかにしようといったものだ。
EMG
EMG(Electromyography)は日本語で筋電計といい、電極を皮膚に貼り、筋肉の反応や筋肉の神経賦活に由来する電位の変化を計測するものだ。
ポイントはEEGにもEMGにもどちらにも電極が使われているという事だ。
大雑把な論文の構成
1.新しいデバイスについて
2.EMGで使ってみた
3.EEGで使ってみた
4.MRIの中で使えるか確認してみた
5.EMGとfMRIの組み合わせやってみた
1.新しいデバイスについて
この新しいデバイスの売りは電極シートが伸縮性、通気性、柔軟性に優れ、かつ、広範囲に電極シート貼ることが出来ることだ。おそらく、nanotechnology分野では伸縮性、通気性、柔軟性を備えた電極は既に存在するはず(論文未確認)だが、この広範囲というのがポイントだと思う。
図のように腕に張り付けることが出来るらしい。対になった四角の電極がペアで電位差を読み取る。
電極の1つはこんな感じ。
フレキシブルだよ。とアピールしている。フレキシブルかつ通気性が良いと何が良いのか。それは長時間貼ったままでいられることだろう。論文では2週間までならつけたままで大丈夫だと言っている。
しっかりと肌に密着した電極シートを長期間使用することができるのでモニタリング等に向いているだろう。
私の解釈では、例えばてんかん患者さんにつけたままにしてモニタリングを続けることによっててんかんが起きた際の記録を取ることが出来るだろう。病気の状態の変化を記録するものではなく、「病気が起きた時の変化」を記録するのに向いていると思う。
また、四角のメッシュの電極はあの形、密度であるからフレキシブルが実現されている。
2.EMGで使ってみた
義肢の人が義肢を動かす際の筋肉由来の信号をEMGで測定している。
従来のEMGは固く柔軟性がないため動きの最中に場所がずれていってしまい、正確な計測が出来なかったが、この新しい電極シートを使えばより正確な測定ができるといったストーリーだ。
黒い固そうなのが従来のものでシートが本論文で提案されているものだ。
実験としては初めに、被験者に8つの異なる義肢の動きをお願いし、その筋肉の動きをEMGで測定した(上図)。そしてその信号から「各筋肉運動特有の信号の型」を作成した。次に、同様に先程の8つの動きをしてもらう。その際に運動の順番はランダムで行い、運動中に同時にEMGで信号解析をすることにより「しようとしている運動」を予測するといったものだ。
同様の実験を従来のものEMG電極、新しい電極シートで比べ「予測の正解率」を比較し、新しい電極シートの方が良いことが分かったと言っている。
また、「その人に合うようフィットできる」ことからも電極シートが優れていると言っている。本実験をヒューマンマシンインターフェイスに応用できると言っている。
3.EEGで使ってみた
図のように電極シートを貼り、図の3ヵ所からの信号を比較している(従来のもの1ヵ所(青色)と電極シート2ヵ所(赤色))。脳の領野的に同じ場所に属するのでそれらの信号は同様の動態を示すだろうといったものだ。
そして本研究での推しポイントである「ずっと着けてられる」というのを示すための実験をしている。上図は5日間つけたままにして毎日測定しました。といったことを主張している。
はっきり言って、私はかなり思うことがあるがひとまず次の実験へ移る。
4.MRIの中で使えるか確認してみた
先ほどのEEGの実験のように頭に電極をつけたままMRIスキャナの中に入り温度を測ったというものだ。ただ、MRI装置の中に入るにあたり、電極シートに150kオームの抵抗を追加している。これは大きな電流が電極に流れるのを防ぐためだ。
スキャンする際にMRI撮像シーケンスのフリップ角を変えることによりその温度変化も確認したというもの。フリップ角10度~90度は後のfMRI測定で用いられる角度の範囲をカバーしている。大きなフリップ角を獲得するには大きな電圧をコイルに流さなくてはならず角度が大きくなるにつれて温度が上がっていくのは納得の結果だ。
また、シミュレーションにより、従来の電極と電極シートの周りの磁場不均一性を確認している。
電極と並行な平面がxz平面であり、それに垂直な方向がy方向である。磁場変化は距離と共に減少し、かつ、電極シートは大きな磁場変化を生まないといったものだ。後のfMRI実験ではBOLD信号というものをMRIで計測する。BOLD信号は、脳神経の賦活による局所な磁場変化により得られるMRI信号が変化する ことを利用して得られる信号である。故に少しの磁場変化でも後のfMRI実験に影響するというわけだ。
シートを装着した状態で撮ったMRIも綺麗でしょ。と言っている。
本実験についても言いたいことは多々あるが次へいく。
5.EMGとfMRIの組み合わせやってみた
これはMRI装置の中の被験者に腕を動かすタスクをお願いし、それを筋電図でモニターしつつfMRIを撮るといったものだ。
上図は実際にEMGが腕の筋肉に動きに由来する信号を得た時に本当に脳の運動やがfMRIで賦活していたことを示している。
読んで思ったこと
おもしろかった。新しい技術を開発し、それを様々な領域へと応用するのはいいなとおもった。でもよくよく考えた後の感想としてはクソだと思った。
EEGの実験部分はとにかくひどい。まず3ヵ所の電極からのデータ比較のプロットが意味が分からない過ぎる。まず、比較しているのに何故かプロットを重ねて表示しないし"target", "standard"とか意味が分からないラベルを使っている。この図のさらに悪いことはキャプションに十分な説明を加えていないことだ。この図を理解するのにかなり時間がかかった。しかも、3ヵ所の写真の悪いところは、電極シートは2つの電極で比較電位を検出しているのに1つの電極しか赤色で囲んでいないことだ。分かり難いすぎる。
EEGの実験で最悪なところは、電極にケーブルを装着した写真がないこと。実際の現場で使えますと言っているのに実際に使用している写真がないのは良くないと思う。
また、5日間ずっとシートをつけていました。と言っているがスキンヘッドの人だから可能であるだけで、髪の毛がある人は結局ぼうしを被ることになる。
MRI装置内での安全確認とfMRI実験もいかがなものだという感じがする。
やはりここでもEEG電極にケーブルをつけたものの写真はない。EEGとMRI装置内で使用する際の1番の危険要素は火傷だ。実験では3TのMRI装置を使用しているので使用されているRF波はだいたい60㎝くらいだろう(未計算)。MRI装置内で60cmくらいのものと言えばケーブルになるので、「EEGとMRIを組み合わせて使用できます!安全です!」というのであればケーブルを考慮するのがフェアだと思う。
また、電極シートに抵抗が足されているが私はそこで火傷が起こるのではないかと疑っている。抵抗の意図は"電極へ流れる電流の抑制"であるが抑制されるということは電流が抵抗で消費され熱エネルギーになるということだ。このあたりについて詳しく書いていなかったと思う。
また安全試験では3Tでの水素の共鳴周波数である128MHzが使用されていたが実験で使用されているMRIの磁場は3Tではなく、正確性に欠けると思う。
EEGとfMRIを組み合わせて脳活動を記録することの最大の利点はおそらくEEGのデメリットである"かなり低い空間分解能"をfMRIで補い、fNRIの比較的デメリットである"時間分解能"をEEGで補う事だろう。故に、実際に使えますを言うのであれば、もう少し実用的な実験が必要だったと思う。
電極周りの磁場不均一性のプロットを示しているが電極間での相互作用等には言及していないのも少し気になる。
論文全体的に
邪推だが、著者たちは初めにNature nanotechnologyや電子デバイスに関するJournalに投稿したのかなと思った。そして受理されずNature biomedical engineeringに投稿した的な。それにあたり、追加でEEG実験やfMRI実験をした、といったところではないのか。そのため論文が"義肢コントロール"と"MRIで使えます"といった大きな2つの内容を扱うことになったのかと。そして2つを扱っているためどちらも中途半端になっている。
私がかなり気に食わない点は論文の題名とIntroductionで"large area"に言及しているのにIntroduction以下では一切それに言及していない点だ。論文のテーマを"新たなデバイスの発明"から"新たなデバイスの発明と応用"へと変えたことにより論文の内容がぐっちゃぐちゃになった感さえある。
上で書いた少し批判的なことは些細なことかもしれないが雑誌が雑誌なだけにもっと素晴らしい洗練されたものを期待していた。
結局
おもしろい論文だがクソだ。
が私の結論でした。面白く読む価値はあると思うので興味のある方は是非。
参考
本論文のURLはコチラ
doiは以下
https://doi.org/10.1038/s41551-019-0347-x
少しでも支援して頂ければとても嬉しいです。ありがとうございます。