Nantucket にまつわるふたつの詩
休日のおやつは、たこ焼きに焼酎のお湯割りがよく合う。
『アメリカ名詩選』亀井俊介、川本皓嗣編(岩波文庫)を何気なくパラパラめくっていたら、William Carlos Williams(ウィリアム・カーロス・ウィリアムズ)のNantucket(ナンタケット)というタイトルの詩があった。
その詩が気になったのは、アメリカのロックバンド、マウンテン(Mountain)のアルバムに収められていた曲、ナンタケット・スレイライド "Nantucket Sleighride (For Owen Coffin)"を聴いたことがあったからである。
調べてみると、詩と曲のNantucketは同一の場所で、19世紀半ばまで捕鯨で栄えたナンタケット島を指している。
William Carlos Williamsの詩は次のようなものです。
Flowers through the window
lavender and yellow
changed by white curtain —
Smell of cleanliness —
Sunshine of late afternoon —
On the glass tray
a glass pitcher, the tumbler
turned down, by which
a key is lying — And the
immaculate white bed
窓ごしの花々
藤色と黄色。
白いカーテンに色薄れ — 。
清潔のかおり — 。
おそい午後の陽差し — 。
ガラス盆の上に
ガラスの水差し、伏せた
タンブラー、その横に
鍵がひとつ — 。そして
しみひとつない純白のベッド。
この詩はありふれた日常風景で、絵画詩と言う人もいる。色があって、それが微妙に変化して、匂いが漂う。光の反射があり、鍵と綺麗なベッドが人の存在を感じさせる。絵画詩と言うより写真詩に近い。レンズではなく、言葉で表現した写真のようだ。このように写真をイメージさせる詩はわかりやすい。ただ、cleanlinessやimmaculateは少しきれいすぎるという感じがしないでもない。
詩の中で、immaculate(清潔な、純潔な)にimmaculate conception(処女懐胎)の意味が込められているという説がある。そうであれば、詩の読み方も変わる。しかし、そこまで考えることは私の能力を超えているので深入りはしない。
ふたつめの詩は「ナンタケットのじいさん」というlimerick(五行滑稽詩)で、Nantucketが詩の中でキーワードになっている。
There was an old man of Nantucket
Who kept all his cash in a bucket;
But his daughter, named Nan,
Ran away with a man —
And as for the bucket, Nantucket.
ナンタケットのじいさん、
バケツに貯め込んだ全財産。
だが娘のナンが
男と駆け落ちして —
バケツの方も、ナンが持参。
5行目のNantucketに関して、『アメリカ名詩選』に次のような解説があります。
1行目の行末とまったく同一の綴りをあてているが、実は Nan took it (itはbucketを指す)という苦しい駄じゃれ。
解説のように少し苦しいですね。全財産を持ち逃げされ、おそらく絶望したじいさんについて、"He kicked the bucket."というブラックな結末になったのだろうか。滑稽詩ですからそうはならなかったでしょうね(笑)。
こういうタイプの異なるふたつの詩に気をとられて飲み過ぎにならないのは詩の効用でしょうか・・・。