aikoの沼
これは私が2024年の夏に、友人にaikoをおすすめするべく作ったプレイリストと、そのうち10曲について書いた文章です。
友人に送った内容をそのまま貼り付けます。
はじめに
この度は、私の大好きなaikoに興味を持っていただき、本当に、心から、感謝申し上げます。
この先書く文章は、今回布教Playlistに選曲した20曲の個人的な感想・解釈であり、オタクの乱文であるため、読まずに歌詞カードを見て曲を聴いていただいても何ら問題はございません。
もし、お時間ご興味がございましたら読んで頂ければ幸いです。
1.キラキラ
aikoの歌詞のえげつなさを紹介するなら、おそらくまずこの曲を紹介するべきだろう。
大きな窓から差し込む太陽の光を思わせるような明るいイントロから始まるこの曲。
『待ってるねいつまでも 今日は遅くなるんでしょう? 一人寂しくないようにヘッドフォンで音楽聴いてるね』
ここまでは、想い人の帰りを待つ健気な様子に感じる。ここから先の歌詞こそaikoの本質であり、重く重く、メンヘラよりもさらに重い、狂気の歌となる。
『遠い遠い見たことのない 知らない街に行ったとしても あたしはこうしてずっとここを離れずにいるよ』
このあたりで、さては普通に帰りを待っているのではないな?と思い始める。
『羽が生えたことも 深爪したことも シルバーリングが黒くなったこと 帰って来たら話すね』
ん、、、?羽?深爪???
aikoの歌詞の常套手段である"対比"がここに現れる。"羽が生える"という非日常的なほどの嬉しさと"深爪する"という日常的な些細な悲しみを並べて語っている。さらに"シルバーリングが黒くなる"ほどの時間を待ち続けるという非日常を続けることで、「どんなことがあってもここであなたを待ち続けますが???どんなに待ってもいつもと変わらず迎えるよ!!いなかった間のことも全部話すね!!」という地縛霊的な無邪気さが見える。
『その前にこの世がなくなっちゃってたら 風になってでもあなたを待ってる』
あなたが帰ってくる前にこの世がなくなってしまえば、風になってでも待ち続けるのがaiko。木や花や石やその他諸々の実体のあるものではなく、風。
普通風は吹いていくものだけれど、風になってもその場所から離れずに待ち続ける。姿が見えなくても、帰って来たときには必ず相手に触れられるのは風。狂気。
2.アンドロメダ
前述したaikoの対比表現が巧みに現れているのがこの曲。
『何億光年向こうの星も 肩に付いた小さなホコリも すぐに見つけてあげるよ この目は少し自慢なんだ』
歌い出しから始まる対比表現は、かなり遠くの"星"から、"小さなホコリ"までの瞬間的な距離の移動によって、聴き手の視点をぐっと近づける。そして、
『時には心の奥さえも見えてしまうもんだから』
と今度は物理的な距離では測ることのできない"心の奥"へと視線が移る。
ここからサビのの伏線回収がとても秀逸で、私がアンドロメダを愛する理由である。
『交差点で君が立っていても もう今は見つけられないかもしれない』
あんなに何度も何度も言い方を変えながら、目が自慢だと言っていたはずが、今はもう見えないと。はあああああ。これ。これこそaikoの歌詞の素晴らしい描写。
『君の横顔越しにあるもの もう今は見つけられないかもしれない』
『私の髪が揺れる距離の息づかいや きつく握り返してくれた手は さらに消えなくなるのにね』
これは2番のサビ。対比表現と並んでaikoの歌詞の突出して素晴らしい点は、驚くべきほどにマイナーな着眼点かつ具体的で想像しやすい情景描写だと思う。"私の髪が揺れる距離の息づかい"とか。
3.二時頃
小説を1冊読んだような、短編映画を1本見たような、そんな気持ちになる曲。aikoの数ある曲のなかでも、かなりえげつない曲。
『恋をすると声を聴くだけで幸せなのね』
『真夜中に始まる電話 足の指少し冷たい』
『右から秒針の音 左には低い声 あたしのこの心臓は鳴りやまぬ いいかげんにうるさいな』
好きな人と電話をする、かわいい恋する乙女的表現が続く。ちなみにここでも右と左、自分の心臓の音、という対比表現が登場している。
時計の音って、緊張してたり集中してたりすると急に気になりだしたりするよね〜っていう、言われなきゃ気付かないようなことを歌詞に盛り込んじゃうところが人の心を掴んで離さない魅力だと思う。
『いつ逢える 待ち遠しくて』
『私だけをその瞳に映してほしくて』
うんうんうん、楽しそう、順調そう。全恋する乙女の気持ちを代弁している。aikoが指揮する恋する乙女合唱団作ろうな???
『本当は受話器の隣 深い寝息を立てる バニラの匂いがする Tinyな女の子がいたなんて』
えっっっ??は????????んーー???
合唱団解散!!!
サビ前で衝撃の展開を迎えるこの曲。でもこれはあくまでもサビ前。サビではない。
『言ってくれなかったのは あたしの事少しだけでも 好きだって愛しいなって 思ってくれたから』
『ひとつだけ思ったのは あたしの事少しだけでも 好きだって愛しいなって 思ってくれたかな』
これ!!!!これがaikoのすごいところです!!!
それぞれサビとラスサビからの引用なのだけど、深夜の電話のドキドキでも他に女の子がいた悲しみや怒りでもなく、諦められない嫌いになれない少しの期待も捨てられない全女子の現実をサビに落とし込んでいる。
聴き手の私達は、「そんな奴だめ!気付いて!そんなわけないから!」と思ってしまうけれど、曲中の女の子には伝えてもきっと届かない。それって恋をしているときの盲目な私達そのものじゃないだろうか。
4.恋のスーパーボール
高校生の私が夏になると狂ったように聴いていた曲。文章を書くことは、誰もが知っている情景をその人の言葉に組み立て直すことの繰り返しだと思う。
aikoの言葉で歌われる日常は、魔法をかけたようだな、と感じることがある。見たことがある、若しくは容易に想像ができる場面であるにも関わらず、私が見たことのない美しいものに様変わりしていることに感情が昂る。
魔法の粉が降りかかる音みたいなウィンドチャイムからイントロが始まるこの曲を聴くとなぜか、ディズニー映画のシンデレラを思い出す。なんの変哲もないカボチャが馬車となり、茶色いドレスは水色のキラキラのドレスに変わる。aikoは魔法使いなのかもしれない。
『日焼け止めを綺麗に洗いきれずに 夜中に腕が夏の匂い』
"日焼け止めを洗いきれなかった"ことをこんなにワクワクする表現に組み換えられるものかと感動した記憶がある。正確には、聴くたびに何度でも感動している。
『少しこもった熱が更にあたしの気持ち ぐるぐるひっかき回してはかき乱す』
『瞼も爪も髪も舌も離れなくて困った 幸せは怖いものだ』
お察しの通り、こんなにポップな曲調でありながらもこれはちょっと大人な曲です。
"瞼も爪も髪も舌も"っていうのが私はとても好き。"あなたのすべてが"とかいくらでも言いようがある気がするけれど、そうじゃなくて、その人を眺めてる間に「瞼がいいな」とか「爪がいいな」とか思ったのかな、とかそういう解釈をしている。
"あなたのすべてが好きよ"と言われるよりも粘り気や重みのある愛を感じられる表現だと思う。
余談だが、私は本当にこういう、相手を見過ぎて気づいちゃった系の歌詞が好き。カネコアヤノのアーケードの『君って歯並び悪いね 今気づいたよ』とかね。
『あなたを一番近くで見つめた瞬間 唇はカメラのようにまばたきをした』
瞼がカメラのシャッターに例えられることはよくあるように思う。唇がカメラのようにまばたきをする、というのは斬新ではなかろうか。初めて聴いたとき、「ん、、?」と引っ掛かりを感じて状況を想像しようと試みたような気がする。
5.二人
タイトルを見ると、多くの人が"あたしとあなた"の二人だと思うだろう。しかし悲しくもこの曲は"あなたとあの子"の曲である。
『夢中になる前に解ってよかった もう一度だけ手が触れた後だったら』
『夢中になる前に解ってよかった あと5分そんな素振りをされたなら』
1番と2番それぞれの歌い出し。"夢中になる前に解ってよかった"という1行で、却ってもう夢中であることは明白である。
必死に自分を言い聞かせて諦めようとしている、それでもやっぱり諦めきれない。まだ夢中になってないから今からでも戻れる、間に合う、でも。そんな曲。
『隣に座って声を聞いた 何が好きなの?何が嫌いなの?
今こっちを向いて笑ったの?』
私に向かって笑ったの?』
『あたしの背中越しに見てた その目の行き先を 香るあの子の
甘い瞳をみていたの
甘い仕草を見ていたの?』
1番と2番のサビ前の対比。苦しい。あまりにも苦しい。
『一緒に撮った写真の中に 夢見る二人は写っていたのね』
『後ろに立ってる観覧車に 本当は乗りたかった』
最後の最後に1つだけ、強がりではなく本音が書かれてるのがミソ。
6.milk
歌詞考察とか、どんな恋なのかとか、そんなことはいったん端に置いて、ラストの歌詞のえげつなさをお届けしたい。
『もっと心躍る世界がすぐ隣にあったとしても 乱れたあなたの髪に触れられるこの世界がいい』
いや、すごくないかこの1行。
シンプル。シンプルだけど、こんなに重たい一撃ってある?
「"もしかしたらもっと心躍る世界があるのかもしれない"という薄い前提ではなく、"もっと心躍る世界がすぐ隣にある"前提でも、"あなたの髪に触れられるこの世界がいい"と。
7.かばん
ほんっとにかわいくて大好きな曲。
『そのまんまのあなたの立ってる姿とか声とか仕草に鼻の奥がツーンとなる』
『同じ所を何度も何度も回って歩いて落ち着かなくて』
恋をしたことがある全ての人間が共感して天を仰いだと思う。
『大きな鞄にもこの胸にも収まらないんじゃない?』
サビ。かわいい!!鞄に恋心を入れてみようとする発想がなんともかわいすぎる。
サビ前の歌い出しの、誰もが経験するあるある的歌詞の後に、考えたこともないような、でも「確かにそうね」と思えるような、絶妙なワードセンス。これぞ魔法。
『あたしあなたと知り合うまで何をして生きてきたんだろうか? 忘れてしまいそうなくらい』
"恋は盲目"ってほんとにこういうことなんだよな、という歌詞。冷静に見ると滑稽だけれど、乙女のIQは恋をすると著しく低下するので致し方ない。
『大好きな場所も 涼しい匂いも 揺らめく星空も 紐解くように少しずつ一緒に知りたい』
なんだ急にこの綺麗な歌詞は。
チープな言い方をするならば"あなたのことを全て知りたい"に帰結するが、aikoの言葉の魔法に掛かればこんなに素敵な歌詞になる。ここまでに紹介した曲でも何度かaikoのワードセンスについて書いたけれど、aikoは多分具体例の引き出しが常人より多い。私達常人には思いつかないようなところにひょいっと手を伸ばして言葉を掴んできてしまう。
遠くと近くを並列に並べたり、日常と非日常を並列に並べたり、そういうことをやってのけるaikoだから、掴みどころのない奥行きのある歌詞が生まれていると思う。
個人的に思ったのは、誰しもが経験するあるある的な歌詞と、aikoの独特の感性を盛り込んだ歌詞を交互に歌うことで、aikoの世界観の魅力が増幅されているのではないかということ。
8.透明ドロップ
「泡のような愛だった」というアルバムは個人的名盤で、その名盤の中でも私が1番感銘を受けた曲。
『世界はこんな色をしてたのか さよならとやっぱり言われたのか』
この歌詞に頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
"世界はこんな色をしてたのか"というワードだけ見ると、大きな扉を思い切り押し開けて明るい世界が開けたような、そんな印象を受けるだろう。ところがその次に続くのは"さよならとやっぱり言われたのか"だ。たった2行で大どんでん返しである。
もちろん、それまでの歌詞から"世界はこんな色をしてたのか"が、明るい方を向いた言葉でないことは予想できる。だが、この2文を組み合わせて歌詞にしたのはやはり大発明なのではないかと感じる。
圧倒的な威力を持つサビはもちろん、その前の部分も天才的だと思う。
『あなただけが頭の中に心の中に舌の後ろに』
ここにも現れるaikoの非凡なワードチョイスのセンス。"舌の後ろ"にあなたがいるとはどんな感覚なんだろうか。
ドロップはいずれ溶けてなくなる。あなたの感覚も、舌の後ろでコロコロ転がしているうちにいずれは溶けてなくなってしまう。
『仕事だって嘘ついたね あの時手を繋いだよね』
Apple Musicでは見られるけれど、本当は歌詞カードには載っていない歌詞。
本人曰く「本当に言いたくない、一番言葉にしちゃいけない言葉だったので、心の声として歌いたくて歌詞には載せなかった」だそうだ。
9.明日の歌
これも「泡のような愛だった」に収録される曲。
私の大好物、明日の歌のイントロ。
波のない水面に、降り始めた雨粒が落ちるようなピアノ。
イントロの始まり方とは裏腹に、歌い出しは豪快で、「こうでもしないとやってられねぇよ!」という諦念や気怠さを感じる。
『暑いっていうかこの部屋には思い出が多すぎる』
という歌い出しから始まるこの曲は、思い出になってしまった恋の話だとわかる。
写真が古くなったことやTシャツの襟が柔らかくなったことで時間の流れに思いを馳せて、昔話を思い出す。
何度も言うようだが"写真が古くなる"というありきたりな時間経過の表現と並べて"Tシャツの襟が柔らかくなる"というaikoならではの着眼点かつ誰しもが理解できる時間経過の表現が置かれているところ。「これぞaiko」と私は言いたい。
『その唇は今夜もあの子に触れる』
幸せな過去編から一転。絶望。
この暴力的とも言えるほどの切り替えが本当に魅力的である。
『明日が来ないなんて思ったことはなかった いつでも初めては痛くて苦しくなるんだね』
『これはあなたの歌 嫌なあなたの歌』
暴力的な切り替えから、このように続く。
"明日が来ないなんて思ったことはなかった"と言う。そして"これはあなたの歌"だと。
"明日の歌"は"あなたの歌"なのだとすれば、「あなたが私の前からいなくなるなんて思ったことはなかった」と解釈できる。
明日は当たり前にやってくると思っていた。それほど"あなた"という人間は自分の中で普遍化されていたのだ。
ちなみにこの他にも私が好きな歌詞があって、ここまで散々書いてきたaikoの素晴らしい情景描写の1つ。
『濡れた髪の毛を握った もうあなたに触ってもらえないんだな』
思い出が蘇る瞬間はたくさんある中で、この場面を選んでくるところが素晴らしいところ。
濡れた髪は基本的に親しい人にしか見せることがない。それを触るとなると尚更。
シャワーの後、1人部屋で思い出して苦しくなる場面をピンポイントで歌詞にできるaiko、恐るべし。
10.ゆあそん
歌詞にガツンと殴られた曲。
歌い出しのインパクトが強すぎて、その先になかなか進めない。
『誰もいない世界で二人だけよりも 人ごみの中からあたしを見つけてほしい』
衝撃的すぎない、、?言われてみれば本当にその通りなんだけど、自分からは絶対に絞り出せない言葉。言語化能力の鬼。
『これ以上ない浮ついた言葉であなたが溺れて仕舞えばいい』
『あなたに想いが届いても食べて飲み込んだかはあたしにはわからない ずっと』
『音の漏れたヘッドフォンの隙間にさえ嫉妬してしまうほどに恋しい』
『内緒は二人で作ったら宝物なのに 一人だと悲しくて怖い』
『喜怒哀楽にあなたが染み込み出来上がるあたしの肌』
ゆったりした曲調に乗せられる詩的な歌詞が心地よい。あまり有名ではない気がするけれど、aikoの曲のなかでもかなり好きな曲。
おわりに
本当は全ての曲について書こうと思っていたのだけど、10曲分で6,500字を超えていたので、「流石に15,000字超えの課題のレポートみたいな文量のオタクの狂気をお届けするのは気が引けてしまうわ…」と思い、ここでおしまいにすることにしました。とは言え、かなり長いことだらだら書いてしまって、本当に申し訳がないです。
最後まで読んでここに辿り着いてくれていること、本当に感謝しています。ありがとう。
ここに書ききれなかったおすすめの曲もPlaylistに沢山追加しています。Playlistにない曲も素敵な曲ばかりなのでよければ聴いてくださいませ。