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 出会いは確か16年前。僕が大学生のころ君はやってきた。君は我が家の三代目の車だったが、当時免許を持っていなかった僕にとっては、そこまで感動的な出会いではなかったことを覚えている。

 その後僕は就職し一人暮らしを始めたこともあって、君とはほとんど接点がなかった。うちの両親は基本的に車を移動手段として使わない人たちだったから、君が活躍するのは年に数回の家族旅行ぐらいだったと思う。

 二人の関係性が変化したのは、諸所の事情で僕が実家に戻った約10年ほど前のこと。僕の職場は都会を離れた田舎で、また仕事柄しばしばもっと田舎に行くことが多かったから、僕は君を頼らざるを得なかった。

 通勤往復60キロ。君と僕は毎日一緒だった。当て逃げされたり、釘を踏んでパンクしたり、路肩で擦ったり、、、。大切にできたかはわからないけれど、10年間君は何の文句も言わず、僕や僕の友人たちを一生懸命運んでくれた。退職した今でも君は常にそばにいて、僕が望めば、どこだって連れて行ってくれる。

 走行距離が10万キロを越え、新しい相棒を迎えようとなったのはほんの数ヶ月前のこと。そしてその日がいよいよやってくる。

 君は決して高級車じゃないし、内装も別に大したことないし、そんなに格好いいわけでもない。

 でも、君との10年の思い出を振り返れば、そこにはたくさんの歴史があって、なんとも言えない感情が湧き上がる。

 それは他のどんな車にも代えることができない、大切な記憶があるからで、もう二度と君と会えないと思うと、とても寂しく思う。

 だから、この気持ちを残したくて、柄にもなくこんな文章を書いている。

 君には感謝しかない。またいつか会おう。

 So long, partner. 

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