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#576 「もっともっと」を求めた先に

 先日、地元の県立美術館で開催されていたキース・ヘリング展に行ってきました。

 キース・ヘリングは1958年、アメリカ・ペンシルベニア州に生まれた画家で、ストリートアートの先駆者として知られ、UNIQLOとのコラボTなどで日本でも馴染みのあるアーティストです。同性愛者で、AIDS感染者だった彼は、HIV感染を防ぐメッセージを出すなど社会貢献運動を数多く行ったことでも知られています。1990年にエイズによる合併症のため31歳でこの世を去りました。

 「社会をよりよくしよう」という思いの根源には何かしらの不満、葛藤、嫉妬、怒りなどの負のエネルギーが存在していると私個人的には考えています。そのような負のエネルギーはその人の生命力と同義であり、そのエネルギー自体が自分の存在の肯定に繋がるから。

 一方、そのエネルギー「だけ」を頼りにすると、いつかは破滅の道に進んでいく。マイナスなエネルギーはどこか痛々しく、刃物のように鋭い。大衆に影響を与える膨大なエネルギーであればあるほど、その裏では他者を傷つけ、自分を傷つけることは決して稀ではないのです。

 彼の描く作品には、大きなエネルギーを感じる。進歩的な考えを持つ彼は、様々な思いをこめて自分の作品を創造していたことがわかります。

 しかしながら、どこか悲しげで、どこか痛々しい。

 彼の作品から、本質的な意味での「幸せ」を感じることができない。

 もっとこんな世界に
 もっとこんな世の中に
 もっとみんなにこんな風に

 「もっともっと」を求めて作品を生み出し続ける彼の中に、人生における本当の安らぎはあったのか。

 


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