BL短歌「おまえ」
正面におまえが座り この足は誰のだなんて聞けないでいる
まだ長い煙草を消した指先が少し迷ってこちらに伸びる
ハイボール飲み干し辺りを見渡したおまえが小さく口をすぼめる
無遠慮におまえは触れる真っ白なシャツを捲った正しい腕で
首傾げながら喉仏を押して子どもみたいに笑ったおまえ
手加減が下手でごめんな探る手がおまえと同じ硬さでごめん
もう少し太れよなんて軽口をこんな時まで叩いたりする
無意識につけた引っ掻き傷すらもきっちり返してこなくていいよ
短めの睫毛を撫でる 鬱陶しそうに震える瞼まで愛しい
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性欲で誤魔化す夜だ 今日だってキスをしたのは俺からだった
もう歳を気にしてるのか 逆算をしたりしたのか 怖いか親が
ハイボール買い占め歩く 近頃は真夜中にしか繋がれない手
馬鹿だなと呟くならばこんなこと始めたおまえも馬鹿だっただろ
泣きそうに笑ったおまえ 有無も言わさずにキスされ最後だと知る
あぁそうだ馬鹿だよ俺は 何もかも捨ててもいいと思っているよ
缶ビール投げたのは俺 ゆっくりと拾ったおまえが何故か謝る
嫌われて終わるならいいなんでそれ以外の理由でだめになるんだ
紙切れに縋る幸せ 確実なものが欲しいとおまえが言って
玄関を静かに閉めた 珍しい 最後の最後に気弱な、おまえ
簡単に他人になれる何もかも二人っきりで始めて 終えた
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取り乱すことも許されない街で今日もスーツを着たりしている
こんなありふれた煙草を吸ってたか 街中おまえが立ち込めている
傷だけが証しになった 瘡蓋を剥がし続けて 消えないでくれ
フィルターが湿ってだめだ 灰皿はおまえが置いていったまま まだ
こんなとこまでしか読めてなかったか 知ったページを何度もめくる
灰皿も、減らないハイボールの缶も、漫画に挟んだチラシも全部
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飯食って生きているならそれでいい 一人でなけりゃそれだけでいい
台風で揺れる程度のアパートで俺は確かに幸福だった
思い切り噛まれたりしてみたかった おまえの犬歯をくれよ、死んだら