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[3135]番外編・決算短信はここを見て!(IR系Advent Calendar寄稿)


1.「定性情報」からにじみ出る各社IRの色

パワーポイントによる決算説明資料の開示が主流になった昨今、テキストデータを書き連ねた決算短信ついては、その記載内容ついてご質問いただくことが随分と少なくなってきました。事実、投資家の皆さんとお話ししていても「決算説明資料の冒頭2ページ分くらいしか読まない」というお声もよく聞きます。
しかしながら、決算短信の特に定性情報と呼ばれる部分については、当該箇所を作文するIR担当者の経験や思い入れによって随分と「作家性」(=特徴)の出る部分だと思っています。

2.定性情報は「変化点」に注目

決算短信の定性情報は多くの場合、直近前四半期末の記載内容をたたき台に、陳腐化した情報を削除し・新たに伝えるべき情報を追加する形で、継ぎ足し継ぎ足しで紡がれていきます。この点において、基本的に定性情報とは、たたき台となる直前四半期末の原稿からの変化点のみに注目すれば、開示時点において押さえるべき最新の状況がわかるようになっています。
例えば、当社のメディア事業の取組みに関し、前期末にはこのような表現がありました。

「検索エンジンアルゴリズムのアップデートに対応した掲載記事のメンテナンスおよびモバイル通信に関する既存メディアの再強化

それが、3か月後の当第1四半期末ではこのような表現に変わりました。

 「検索エンジンアルゴリズムに対応した掲載記事のメンテナンス並びにモバイル通信および自動車買取に関する新規メディアの育成

前期を通じて取り組んできた「既存メディアの再強化」という対応策から、新年度に入って「新規メディアの育成」という新たな方針を打ち出していることを読み取っていただけると思います。(※その後当社は、車の売却に関するニューメディア「カーウルトラ」の正式リリースを発表しています。)

また、当第1四半期末においてセグメント損失を計上した結果大きく記載内容の変わった農機具分野(ネット型リユース事業)については、テキストデータの「少ないスペースでも多くの情報量を載せられる」とう強みを活かし、その損失計上理由についてより丁寧に細かく記載しています。

● 決算説明資料:
〔主たる外的要因〕 ・海上運賃の急騰
※在庫増の理由として「リードタイムの長期化」に関する言及あり

2025年6月期 第1四半期決算説明資料

● 決算短信  :
〔主たる外的要因〕 ・海上運賃の急騰
(従たる内的要因①)・与信管理強化に伴う出荷リードタイムの長期化
(従たる外的要因②)・抜港の影響

2025年6月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)

3.変更はなくとも業績予想の解像度は上がっていく

また、当社は前第3四半期末より、通期予想に関する修正有無について記載する「連結業績予想などの将来予測情報に関する説明」欄において、通期予想の修正の有無に関わらず、通期予想に照らした各四半期末業績の進捗および以降の見通しについて情報提供するよう改善を図っています。

過去短信における記載例(2024年6月期第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)
直近短信における追加情報(2025年6月期第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)

4.まとめ

文字だけで構成されたの決算短信は、図表を駆使した決算説明資料に比べ直観的なとっつきが悪い一方で、図表では抽象化しきれないような濃い情報を正確に伝えることができます。
特に来春からはじまる英文開示の義務化にあたっては、曖昧な日本語は誤訳を生む原因となるため、先んじて取り組みを進めるほど原典となる日本語版の練度も上がっていくという副次的効果があることも感じています。
昨今ではChatGPTなど生成AIの登場により、決算短信をごく簡単に要約するプロンプトも公開されていますが、要約するということは意図せず取り除かれた情報もあるということであり、AIが出力した当四半期と直前四半期との二期間分の決算短信の差分をもとに、是非、決算短信記載の本文(原典)にも当たっていただき、投資判断の手がかりとしていただければ幸いです。

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