甘えたくないのに、甘える女。

私は他の女性と違って甘えがない側の女だと自己認識していた。
その自己認識はいつからか間違っていた。

仕事したくないから籍だけ残して産休を連続で取っていた前職の先輩、令和でも専業主婦になりたいと言っていた友人、仕事を放って保育園に向かうワーママ。
私は以前そういう発言や行動に対して、軽蔑をしていた。

でも最近、彼が言った言葉を機に、私も程度がどうであれ、そちら側の人間なんだなと思った。今はその気持ちが私にもわかるようになったから、だ。

ぶっちゃけ男性に甘えることができるなら、楽だ。
男性だって、女性に甘えたいくらいだろう。
少なくとも、今の私には、甘えたいと思う気持ちはうっすら心底にある。体力的にも、金銭的にも護られたいという欲が。

けど、私はそんな女になりたくなかったはずなんだ、20代前半までは特に。
そして、そんな女になるという発想も持ち合わせることができる環境にもいなかった、母の存在によって。
母は甘えのない人かと聞かれたら、甘えはある人だ。
わからないことを解決するのに、簡単なことでも調べることを面倒くさがるような人。面倒くさがった挙句に、私に頼ってくる、そんな人。

だけれど、その甘えは前述のものとは違う。
今よりも離婚する夫婦が少なかった時代に、子ども2人を1人で養うために精神的に強くいざるを得なく、生きていくために文字通り自分の足だけで立ってきた人である。
私に似て不器用で、心配性が少しいきすぎて過干渉で、料理は苦手な人だったけど、相談できる人も少なく、きっと何度もぐっと堪えながら、もちろん奨学金ありきだったけど、2人の子どもを大学まで進学させてくれた母。
そんな母の背中を見ていたからこそ、いつか一緒になる相手とどんな理由であれ離れることになる可能性があることを現実的に捉え、女性だからこそ自立せねばと学生時代に思っていた。

私は特段スーパーウーマンではない。
器用でも、要領がいいわけでもない。
それでも社会人になった時に自立したいと思って、職場までの距離を考えると、実家を出なくても良い環境の中、一人暮らしをすぐに始めた。
奨学金を返して、自分でうまく生計を立てられるようになった。
仕事も大変な期間もあったけど、人間関係もスムーズにこなせていて、将来1人でも子どもを養って生きていくことはできるかもしれないくらいだった。

そんなある程度守られた安定した環境で何度も悩みながら、もっと挑戦をしたくて、転職をした。
自分の力で歩んでいける人になりたいと思い、総合職でそこそこに良いお給料をもらえる環境から、ベンチャーでクライアントワークの仕事を始めた。

ここでは諸々割愛するが、新しい仕事はうまくいかなかった。
最初は当たり前なのかもだが、今もうまくいっている自信はない。
一時期精神的に参ってしまい、定期的に今もなおグズグスと弱音を吐きまくる私に、どうしたいの?って彼は何度も何度も聞いた。
彼は私の生い立ちや、出会った時にこんな女性になりたいんだって話したことを全て覚えていて、知っているからこそ、私に向けて女だから甘えるのはダメだといいながら応援してくれていた。
そんな私の考えが好きだとも言っていた。

でも、今の弱い自分はいつからかずっと彼に頼りっぱなしで、見かねた彼は、あなたが甘える側の女性でいいなら、その方が楽なら、そうしなよと面倒くさそうに言い放った。

ステレオタイプの昔ながらの女性像を、少し軽蔑していたくせに、成り下がろうとしている自分がいる。
都合の良い時だけ、女であることや護られるべき存在だと振りかざす、嫌いだったはずの女性像の自分がいる。ただ今やそれも、嫌いだったはずのその像が本当の自分なのではないかとすらも思う。

女性進出が進まないのは、決して社会のせいだけじゃない。
もちろん生まれてから女性性をフルに使って、男性に寄りかかる女性もたくさんまだいると思う。
今話しているのはそんな女性のことではない。

強くなりたいはずなのに、男性と対等に認められたいのに、弱っている時、自信を持てない時、途方にくれた時、踏ん張ることをやめ、ひっそりと諦めていき、いざとなったら甘えれば良いと開き直り、我が物のように私は女だからとその立場を振りかざす私のような女性はひそかにいるんじゃないかなと。

仮にこの文章を見た女性に、そんなのは違うと言われようが、これは私の経験や思考で生まれたものだから気にしないでいただきたい。
自分の人生なんだから、女性の社会進出なんてどうでも良いですって方もいると思うし、別にそれはそれでいい。

これから、私はここ数年で見失った、どんな女性になりたいのかを自分の中で再定義をしようと思う。
女性としてだけでなく、人間としても、だけど。

もしも、私の嫌いな女性像が本当の自分だったとしても、それが自分なのであれば、その生き方を自分で肯定していかなければならない。
それか、今がいちばんの谷として、何糞!と、幼い頃に描いた志を諦めずにいられるよう、どんな道があるかと模索するしかない。

いいなと思ったら応援しよう!