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水に流していいもの《iquotlog:天才的一般人の些細な日常》

「トイレットペーパー以外のものは流さないでください」
 こういう貼り紙にずっと違和感を抱いてきた。だって文字通りに意味を取れば、トイレットペーパーしか流せないことになるじゃないか。
 いや、ポケットティッシュはだめなのかとか、そういう点でわだかまりを感じているのではない。トイレットペーパーと材質等ほとんど同じであればトイレットペーパーとみなそう。
 しかしトイレットペーパー以外のものには、文字通りに考えると、「いまここで排泄したそのもの」も含まれてしまうのである。もちろん、文面がそう言っていようと、おかまいなしに自分が用を済ませたものは流す。あとの人のために残したりしないし、トイレットペーパーだけが流れるように濾したりもしない。一社会人として、トイレットペーパー、と、排泄物、は、流してもいい。これは書かれていなくても暗黙のルールとして理解している。
 しかしどうしたら「暗黙の了解」なしにこの貼り紙のコードを書き換えられるだろう。それが長年引っかかってきた問題だった。「ご排泄物とトイレットペーパー以外は流さないでください」では、いくら丁寧語を使っても直截的すぎるし、イメージを喚起しすぎる。では「排泄物」をなんと表現すればいいのだろう。「消化物」か。これだとガムも唾液中のアミラーゼでいくぶん消化されたことになる?から、流してもいいことになる(ガムにでん粉が含まれているかどうかはさておき)。「不要物」か。これだとさっききた飛び込み営業の名刺とか、別れた恋人の電話番号の書かれたチラシとか、単純にゴミのカテゴリーに含まれるすべてのものが当てはまってしまう。無限にありそうな言い換えには無数のバグがありそうだ。だからこの方向性は捨てよう。そして排泄物を「それと言わずに」水に流していいものに含めるには、どう表現すればいいか考えよう。
 とこう思い巡らしているうちに(実はそんなに考えていなかったが)、何件かのコンビニエンスストアに入り、トイレを借りた。そしてついにきょう、とあるファミリーマートで解答を得た。これである。
「トイレットペーパー以外異物を流さないでください。」
 なるほど!
 トイレは機能的に排泄物を水に流す装置である。だから、排泄物というオブジェクトはトイレにとって異物ではないし、また、トイットペーパーを流すことも機能のうちで許容されている。こう理解しよう。ゆえに、
「トイレットペーパー以外異物を流さないでください。」
で、ポケットの中のレシートも、口紅も、足に貼るタイプのカイロも、過去の失言も、トイレットペーパー以外のすべての異物はトイレに流せなくなる。「もの」を「異物」に修正することで、より貼り紙のメッセージを明瞭にすることができる。あやふやな部分がなくなる。
 しかしぼくはなんというか、この解答に出会えたことが嬉しいのもあるけれど、同じくこの問題に拘泥していたに違いない同志の存在に気づけたことのほうを喜んでいるかもしれない。
 

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