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夜明けの一本杉 Vol.11~松本呉服店~

第11回は、松本呉服店より松本晃一さんのお話をお届けします。店内には、選び抜かれた色とりどりの着物や和小物がいっぱいに広がっています。「着物を好きでないとこの仕事はやっていけない」と語る松本さん。そんな松本さんの着物やお仕事への愛と熱意が伝わってくる記事になっています。どうぞお楽しみください!(森)


記憶に残る一枚を

ーご商売をされてきた中で、一番印象に残っている出来事があれば教えてください。
いろんな方の衝撃があったからなあ。 例えば一人のお客さんで三枚振袖買っていった方もおるし。日本舞踊をされとったっていうこともあって、前撮り用で最初に作った振袖を成人式に着るのは嫌やと。ほんならまあタイプの違う感じで着てみるー?いうて二枚目を作って、ほんで終わりやと思っとった。そしたら5年後かな、結婚式にもう一枚欲しいーって。
僕もいろんなお嬢さん方はじめ、もう少し年齢が上の方だったりとかたくさんお相手させてもらいましたけど、振袖3枚っていうんは初めてやったなあ。振袖2枚は何人かおったんやけど。でも残念なことにお子さんは男の子ばっかりでね(笑)

ーそれは残念(笑) でも確かにそれは記憶に残りますね!
ええ。というか、大概の方は覚えてますわ。ぱっと見て、「ああ、この子こういう性格かなあ」って思って「じゃあこれとかどう?」って合わせていく。全体をぱっと見ればだいたい何となく分かるんです。それを言葉にせえって言われたら難しいんやけど、修業時代よく言われたのは、「その人が好きそうなものを出すんじゃなくて、その人が”着て良かった”って思えるような一枚を勧められるようにならないとダメやよ」っていうことやね。自分は勤め人じゃないんやから、4年5年後に初めてお客さんのお相手をした時に、記憶に残る一枚を見つけてあげないとだめな立場にいるからって。最初は何を言われているのか分かりませんでした。

ーそれはやっていくうちに分かっていったのでしょうか?
そうですね。いろんな失敗もさせてもらいましたし、怒られたこともあるし、そういう枠の中で段々と分かるようになっていったっていうことですかね。

ーなるほど。
ただ自分洋服のことは絶対無理で、何人ものお客さんに言われたんよ、「着物は全部まかせるけど、こうちゃん洋服は喋らん方がいいわ」って。(笑)
着物やったら大丈夫です。それはどんな人にも自信もって言えます。


松本晃一さん、治子さん
素敵な振袖をバックに一枚!

気軽に来てもらえるお店に

ーご自身のお店についての夢や今後のビジョンがあれば教えてください。
一番理想的なのが、小さい子どもから成人して結婚してお子さんも授かって、その子と遊びに来れるような場所であることですね。

ー日常的に人が集まる場所、ということでしょうか。
そうそう。「呉服屋さんって敷居が高い」、「入ったら何か買わされるんじゃないかな」って感じられている方もいらっしゃるのでね。節目節目で来るんも良いけど、いつでも気軽に来て、僕らとおしゃべりして、「楽しかったね〜」って言って帰っていけるようなお店になりたいです。僕らの売り上げにはつながらないかもしれないけど、それはそれで良いことだと思うんです。

ーなるほど!敷居を下げるために何かされていらっしゃることはありますか?
これが難しくてね。でも色々とお客さんとの遊びやイベントの企画をしたり、インスタでお店のことを発信したりしています。七夕には鮎を食べに九頭竜川へ行ったり、恐竜博物館とか鯖江の眼鏡館行ってきたりしてね。こういうのはうちらだけの枠の中でやるからできることだと思っているので、これからもうちらしく楽しいことをやっていけたらいいなと思います。

一本杉の財産

ー七尾や一本杉通りの良さはどんなところにあるとお考えですか。
七尾市には大きな産業があるわけではないけれど、自然の面で言うたら本当に贅沢な土地だと思います。野菜でも魚でも、普通に売っとるものが普通に美味しいことは当たり前ではないですよね。県外での暮らしも経験させてもらったのでよく分かりますが、こんなに恵まれた土地は少ないと思います。都会に行けばそりゃ成城石井とかあるけど(笑)、そういうスーパーの3つ入って800円のトマトとこの辺でおすそわけしてもらったトマト、味は変わらないですもん。

ー一度外に出ることで分かる地元の良さってあるんですね!
自分自身、神戸、大阪、京都と修業させてもらって店を任される形で七尾に戻りましたが、やっぱりそれはあります。あと、一本杉の良さは古い街並みもありますけど、気さくな田舎の女将さんがいることですね。元気いっぱいな女将さんたちが和気あいあいとおる空間っていうのは本当に財産やと思いますよ。

ー私もここで活動していてそれをひしひしと感じます。では、最後に復興後の一本杉はどのような姿であってほしいか教えてください。
理想にはなるんですが、小さいお子さんから年配の方まで気軽に各店舗に遊びに来られるような通りになっていてほしいですよね。今みたいな、夕方になったらうちが勝手に名前つけてるモンジロウとグレと4匹の猫が闊歩するような商店街はさみしいですよ。(笑)

ー人間がいない!(笑)

マルシェとかイベントごとがある時は良くても、無い時の一本杉は本当に静かでさみしくなってしまう。日常からみなさんに気軽に通りを歩いていただくために、やっぱりうちも含め、それぞれの店舗さんができるところから元気に頑張ってやっていくことが復興の第一歩だと思っています。

ーありがとうございました!

取材日:2024/9/2

店舗情報
松本呉服店
店舗住所:石川県七尾市一本杉町112
https://maps.app.goo.gl/NDu77pKDNGCMuZAS9
営業時間:10:00~17:00
定休日:火曜日
電話番号:0767-53-0086


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