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夜明けの一本杉 Vol.5~ミズカミ洋服店~

第5回は、ミズカミ洋服店店主の道下正樹さん、隣接するアトリエつばさを主催する真奈美さんご夫妻のお話をお届けします。にこやかにインタビューに応じ、素敵なお話をたくさん聞かせてくださったお二人。この人柄の良さと店内に流れる穏やかな空気が、お客さんに長く愛されるお店である秘訣なのかもしれません。(森)


希望の光

ーお店の方は被害が大きかったようですが、震災から2週間ほどでアトリエは再開されたとお聞きしました。
(真奈美さん) 奇跡的にアトリエはなんともなかったので、飛び散ったものだけ片づけてね。水は出ないけど、生徒が水入れたペットボトルとか絵の具やらを持ち寄ってくれた。開けてみるまでみんな来てくれるか分からなかったけど、遠くに避難した子以外はみんな来てくれたの。
「そこまでしても来たかったんだ」って私思って。子どもたちは学校にも行けてなかったし、やっぱり絵を描きたかったんだって。
(正樹さん) みんな避難していたから人もいないし、冬だったから日も短くて周りはまっくらで、その中でここだけ電気がついていたから、通りの人に「希望の光」って言われてた。
(真奈美さん) 高澤さん(高澤ろうそく)とこの行江さんにも「真奈美ちゃん、希望の光よ」って言われたりね、奈美ちゃん(株式会社御祓川)にも「よくここ開けてくれたね」って言われたの。

ーいろいろな人の心の拠りどころになっていたんですね。
(真奈美さん)うんうん。そしてここ(お店)を初めて開けたのは復興マルシェ(2/11)の時。うちらはもう半信半疑で。「こんな中で人来るのかな」ってね。でもメーカーさんとかみんなに協力してもらって、全品半額やったの。

ーえーっ!半額ですか⁉
(真奈美さん) 私らも復興支援の気持ちだったよね。儲けとか思わなかった。そしたらばーっと人が来て、売れて。半分くらいはもう服がない状態の人で、”着る服が欲しい”って言って来てくれた。
(正樹さん) みんなやっぱり家が損傷してるから、その後そんなすぐには日常には戻らない。ぽつぽつ売れるかな、と思ってまたお店を始めて、3月、4月くらいになると割と人も普通に入ってくるようになってね。女の人は春物を買いに。男の人はダメだけど(笑)
(真奈美さん) 女性はおしゃれすると気持ちも上がるからね!

ーはい!
(真奈美さん) 最初の半額セールの時は、顔見たことない人も来たよね。
(正樹さん) うんうん。
(真奈美さん) どこかから来て、やっぱり服が欲しかったんでしょうね。みなさん支援物資の服とか着ていたから、涙出てくるんですよみなさん。ここで泣いてらして。生活必需品じゃないから売れないだろうなと思っていたけど、「ああ、違うことで役に立つんや」って思ったの。なんか少しでも店を助けてあげようと買ってくださった方とか、いつもよりちょっと多めに買ってくれたりね。支援のためにお手伝いしてくださった方もいっぱいいた。
スタートはそんな感じやったね。みんなヘコんだり上がったりを繰り返しながらね。
(正樹さん) それで毎日毎日お店のことを考えるわけですよ。それも毎日違うことを。
(真奈美さん) 気持ちが揺れてたね。

東京暮らしあれこれ

ー正樹さんはご出身は七尾で、大学進学を機に上京されたんですよね。
(正樹さん) やっぱり東京に行きたかった。洋服が好きだったけど、ネットとかもない時代だから田舎にいると実物が見れないじゃないですか。雑誌でも渋谷のパルコがどうとか、こんな服があるとかっていうちょっとした記事しかないから、行くしか方法はなかった。だから東京への憧れは強すぎるくらいあったね。まあ(大学の)レベルもあるんだけど。(笑)

ーあはは(笑)

頭も良ければ色々あったかもしれないけどね。(笑) まあ良かったよ、キャンパスも綺麗で。原宿から青山から新宿、渋谷、代官山ってあちこち行ってね。うちら金沢くらいしか知らないから、やっぱりどこ行っても全く違ったよ。
金沢だって今ほど発展してなくて、駅前なんて何もない。七尾駅みたいな感じだった。(笑)それまでは片道一時間半かけてそれからバスに乗って竪町に行ってたもんだから、やっぱり本当に感動したね。洋服買ってディスコ行って、バイトしてお金貯めて、洋服買ってた。

ー無限ループだ!(笑) 当時どんなものが流行っていたんですか。
昔はね、DCファッション。ISSEI MIYAKEとか、ギャルソン、Y's、あとニコルね。今はもう普通のブランドになっちゃったけど、昔はもう高くて高くて。青山通りにブティックがあって、「あ〜ここが本店か〜」って。あとやっぱりあの時代はインポート。イタリアのブランドとかが入ってきて、青山にポンポンとお店ができた。すごく面白かったよ。
中でもY’sとコムデギャルソンが好きで、あとモデルの山口小夜子。切れ長で美しかった。それこそ大学生の時青山の骨董通りかどっか歩いてたら、とんかつ屋からパーッとあの人が出てきたんよ。真っ黒なコート着て。そんでちらっとこっち見てふわっとあっちの方に消えていったの。もう間違いない!目があった!って身体震えちゃった。(笑) 憧れてた人がね、それもとんかつ屋からっていうのがもう忘れらんないよね。

ー楽しい大学生活ですねー!
そっからうちのと付き合って、大阪へ連れていくときは緊張した。向こうの親に挨拶しなきゃいけないから。でも一年待ってねって言われて一年間は遠距離やった。新幹線だったから最終の時間とかもあって。遠距離の秘訣?うちらの時代はスマホがなかったから、手紙ね。そんで月に一回か二回は東京に行ったりしてたね。そりゃやっぱり会うことが一番だね。まあうちはそれでなんとか続いて。神戸に行って、そこから七尾に来た。いきなり七尾って言うのもね、だから「金沢の近くだから」って言って。(笑)

ー嘘ではないけすけどね(笑)
ははは(笑) そうそう。

もっと元気に

ーでは最後に、これからの一本杉やお店について一言お願いします!
(正樹さん) この店は今まで来てくださったなじみのお客様に提供していくスタンスでやっていくつもりです。一本杉に関しても、もっともっと元気になっていって欲しいという思いはあるし、今あるものを残して大切にしながら、隣(の土地)に甘味処でもできてくれたらいいなと思っています(笑)

ーあはは(笑) ありがとうございました!

取材日:2024/8/29

店舗情報
ミズカミ洋服店
店舗住所:石川県七尾市一本杉町2
https://maps.app.goo.gl/9YMkbBr3YcxDviZV7
営業時間:9:00-18:00
定休日:火
電話番号: 0767-53-1794
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