笑う門には福来る

1が3つつく月初。
何となく幸先が良さそうな感じがしたので、本日からエッセイを始めることにした。

私は“幽霊社員”として過ごす事になって早や1か月半が経とうとしている。
どのような経緯があったかは追々語ろう。

療養の甲斐あってかなり体調が快方へ向かってはいるが、この情勢と社会的立場を弁え大人しくなりを潜めている状況である。故に、安定はしている反面些か刺激の少ない暮らしになってしまっている点が新たな課題だ。

先日、セカンドカーの保管に使用している駐車場代を支払いに不動産屋を訪れた。
道中、横に乗る家族は◯◯党の議員がどうのこうのと自分の関心事についてお構いなしで捲し立て、私は、また始まった、と真顔で生返事をしながら受け流していた。
支払い期日も時刻もギリギリになってしまい、怒られやしないかと半ば身構えて店舗に入る。

「すいませーん」

地声で呼び掛けるも、返事がない。
もう一度呼び掛けても同じだった。
よくよく見てみると、店舗の奥で店主が居眠りしている。
車に戻り、家族に
「また明日出直そうかな、寝てた」
と話すと
「起こし、起こし。そんな無用心な」
と切り返され、店舗に戻ってみた。
再び
「すいませーん」
と、大きめの声で呼び掛ける。
すると、ピクリと動き開眼する店主。やっと起きた。

店主は立ち上がるとゆっくりヨロヨロ歩き出す。
すいませんね、といった言葉が出るかと思いきや開口一番

「あぁ眠い、あぁ眠い。嫌んなってくるわ、もう」

私はマスクの下で思わず破顔した。
目前で繰り広げられた光景が、まさに客に呼ばれて起き上がった縁側の老人のそれだったのと、訪れていきなり愚痴をぶつけられたことが何故か愉快で仕方なかったのだ。
何故これで笑ってしまうのか自分でもわからなかったが、終始震えながら支払いを済ませた。

それから、ついでの買い物のためスーパーに車を走らせる。
何気なくすれ違う車のナンバープレートに目をやると、1…11…12ー34…25ー25…777……
淡白な態度の時は一切お目にかからなかった、縁起の良さそうなナンバーが数台おきにやって来る。
縁起の良いナンバーが実際に開運に繋がるか否かは科学的根拠も乏しく未だに是非両論あるが、こうも頻繁に目に出来るとなると何か良いことがありそうな予感や期待は少なくとも抱かされるものだろう。
笑いのワンクッションを挟んだだけで、運気を大幅に変えられた気がした黄昏時だった。そういう意味では店主に感謝せねばなるまい。

まさに、笑う門には福来る。

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