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赤まむしゲット

⭐️⭐️⭐️⭐️
(星の数でこの記事のオススメ度を
5段階で評価しています)


「この部屋には赤マムシが無い」


引っ越しをして約半年が経ち、
何の不自由もない快適な生活に
満足していた僕なのだが


ある1つの不満があった。


そう、僕の部屋には
赤まむしが無いのだ。


ここで言う「赤まむし」
とは切り傷やニキビ、あかぎれなど
様々な場所に塗る事によって活躍する
軟膏薬のことで


僕は小さい頃からこれを使っていた。



小学校の頃、
家に帰って膝を擦り剥いていれば
母がよく赤まむしを塗ってくれた。

これは祖母の影響なのかもしれない。

祖父母の家、つまり母の実家にも
この赤まむしがあり、

僕の親族は


「赤まむしさえ塗っときゃ何でも治る」



とまるで魔法の薬のように
昔から言っていたのを
今でも思い出す。


その影響からなのか
僕自身も赤まむしのない生活に
少し不安を感じていたのだ。


思えば、5年前
僕が一人暮らしを始めた頃の
京都の家には
赤まむしがあった。


母が僕の一人暮らしに際して

あらかじめ買っておいてくれたのだろう。

それを使い切ったのか
いつの間にか無くなってしまったのだ。


買わないといけない。


2、3ヶ月前から僕は思っていた。


それやったらはよ買わんかいと言う
話なのであるが
これがなかなか売っていないのである。


僕も様々なドラッグストアに行ったが

「赤まむしありますか?」

と聞いても

「置いてないですね」

どころか

「それは何ですか?」

とさえ言われる始末



都会はドラッグストアが多いが
ただ単に多いだけだ。
からっぽ


さらに外国人の店員に
赤まむしと言っても
一発で伝わる訳もなく

変な日本人が変な何かを
探しに来たと思われただろうなと
思いながら
諦めて帰るという生活を繰り返してきた。


赤まむし自体の入手を半ば諦めかけた
ある日、

僕はふとネットで赤まむし
調べてみた。

すると
全く違う用途の薬の他に
検索候補で
研ナオコさんが出てきたりもしたが
根気よく探していると
僕が探している
赤まむし自体の商品紹介ページを見つけた。


どうやら赤まむしは
阪本漢方製薬という会社で
製造、販売されており
その歴史は大正初期と古く、
当時は戦争に行く軍人たちの
持参薬として使われたらしい。


戦争に持っていかれたくらいの薬だ。


効き目が薄いはずがない。


欲しい。


やっぱり僕にはこれが必要だ。

なんとしてでも手に入れようと
その時に決意した僕。


そしてある日、

街を歩いていると
ある看板を見つけてしまった。


「阪本薬局」


そしてその店の壁に
小さく書かれた

「赤まむし」

という文字


見つけた。


やっと見つけた。

僕は迷わずその店に入ろうとした。

扉の前に立つ。


そこで少したじろいでしまった。


店内には
椅子に腰掛けてお茶を飲んでいる
おばあさんが1人


明らかに異質なその空間に
他の薬局とは違うという
違和感を覚えずにはいられなかった。


しかし、僕には赤まむしを
手に入れないといけないという
使命がある。


思い切って中に入り
おばあさんの前に立った。


「赤まむしありますか?」


聞くとおばあさんは
少し驚いた表情で
こう言った。


「塗り薬やね。あるよ。」


あった。


遂に見つけた。


「小さいのでいい?」


「はい」


思わず頬が緩んでしまうのを感じた。

「誰かに頼まれて来てくれたんやね」

僕はこのおばあさんの発言に
疑問を持った。


どういう意味だ?


誰かに頼まれて?
お遣いと言うことか?

この言葉の意味を考えて
少し悲しい気持ちになってしまった。


僕は自分の意思で
この赤まむしという薬を買いにきた。

しかし、このおばあさんは
こんな若い兄ちゃんが
1人で赤まむしを
買いに来るわけがないと思ったのだろう。


今の時代はあまり普及していない
ということなのだろうか。


おばあさんのその物憂げな顔が
どうしようもなく

たまらなくなってしまい
こう返した。


「いや違います!
僕は自分が欲しくて買いに来たんです!
他の誰かが欲しいわけではなく
僕自身が欲しいんです。」


店内で2人きりとは
思えない声量を出してしまった。

「そうか、珍しいね」

やっぱり珍しいのか

商品を受け取り店を出た。


大声を出してしまった事が
恥ずかしくて
少し小走りで帰路に着く。



部屋に入ると
ずっと未完成だった
ジグソーパズルの

最後の1ピースをはめるかのように
僕は赤まむしを机の上に置いた。


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