「映画を早送りで観る人たち」
昨年話題となった新書。動画配信の世界にて、ようやく手にした。
動画配信会社に在籍し、おもにUI・UXを担当している。当然のように倍速(可変速)機能は搭載されている。
ただ、この機能訴求を積極的には行ってこなかった。ユーザー調査を行ったこともあるが、それほどまで使われている機能という手応えがなかった。動画配信のアプリとして、普通に実装されている機能というかんじだ。他社では実装済みだから劣後しないように、うちでも実装している。
本書を読み進めると、Z世代に限らず、倍速視聴するユーザーがかなり多いとのこと。
それにより、コンテンツの視聴方法が変わってきている。すなわち、セリフのあるところだけを追うようになっており、無音やセリフのないシーンは読み飛ばされている。
そういった視聴形態に危惧感があるとされている。本書では、いつの時代もニューメディアに対して辛辣になりがちで、倍速視聴が必ずしも悪いわけではなく、肯定していかないといけない、としている。ただ、それでも、そこまでタイパを気にしないといけないのか、と嘆いてもいる。
コンテンツプロバイダーとしての放送・配信側からの感想は、こうなるべくして倍速視聴や話飛ばし視聴が浸透した、と思っている。
本書で指摘の通り、動画配信サービスの普及により見たい作品の選択肢が増えすぎた。
たとえば、2時間の映画をじっと見て過ごすことができなくなっている。倍速視聴はしないが、2時間の視聴中でも、話が進まないシーンではついついスマホで世間のニュースなどをチェックしてしまう。YouTubeで音楽をさっと聞いたり、新聞だって読んだりする。つまり、誘惑が多いのだ。
さて、テレビの連続ドラマの見られ方については、昔から考えていることがある。
テレビの連ドラは、約3ヶ月間にわたり放送することが前提であり、地上波なのでリアルタイム視聴が推奨されることもあり、どこからでも話についていけるようになっていないといけない、ということだ。
世間で盛り上がってきたから気になって第5話から見たとしても、冒頭でこれまでの流れがなんとなくわかり、第5話のなかでの起承転結でそれなりに楽しめる。これがテレビドラマのあるべき姿だと思っている。1シーズンで完結するサスペンスであっても、これまで見ていなかったところは想像しながらでも最後まで見てしまえるというのが理想である。
現にこれまでのテレビドラマはそのように作られていた。倍速視聴で、最終回にキャッチアップするユーザーがいるとすると、ずいぶん几帳面だなとも思う。無理なく見られるところから始めればいいのに、と感じてしまう。
倍速視聴の柱になるのがセリフだが、最近のドラマやアニメは説明セリフが増えているという。これは事実だと思う。silentの心理説明はセリフで行われることが多かった。
ただ、フォローしておくと、silentの場合、説明セリフがないと、なぜその人物が泣いているのか理由がわからない、などもあった。想定を上回る説明セリフになっていたと思っている。
鬼滅の刃も説明セリフが多い作品の例として挙げられていた。確かにめちゃくちゃ多いが、これはこれで作品のリズムになっている。倍速視聴世代への対応というより、原作の世界観を忠実にアニメ化するここ10年の流れの要素のほうが大きい。
エルピスというドラマでも、主要人物が多くモノローグしている印象があった。これに関しては、心理描写や状況の推察が深くスリリングにする効果だった。
シナリオのセオリーでいうと説明セリフは極力避けるべきで、シナリオ学校在籍時はよく指摘された。説明セリフや回想、モノローグはできるだけ使わずにト書きで表現するのがよしとされている。
ただ、当時から思っていたことだが、このセオリーに固執すると、伝えられる情報量に限界がある。エルピスのように、策略を巡らせる展開が続く作品では情報を伝えきれないし、視聴者を引き込むことはできない。
説明セリフを多用するということは、それだけ展開を回す必要があるということでもある。説明セリフが多くなったいまの制作陣がラクをしているかというとそんなことはなく、詰め込まないといけないので、特に脚本家は、昔より大変になったはずだ。
テレビや動画配信用のコンテンツは、セリフ過多の傾向が続くだろうし、映画館で上映される作品はそれほど影響を受けないのではないか。製作委員会システムなので、二次利用=配信を意識して、やはり影響されるのか。
いずれにせよ、テクノロジー、というか資本サービスが先行してリリースされ、人間の生活がそこに押し込まれているので、この傾向は変わらないと思っている。
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