読書レビュー:良心の囚人(マ・ティーダ 著/熊木信太郎訳)
ごきげんよう、哀れな人類諸君
世界は大事ではあるが、日常は送ったほうが良いように思うので今日も読書レビューでも残しておこう
さて、今回はミャンマーの作家であり人権活動家であり医者であるマ・ティーダ氏が著者である
2010年に執筆発行し、2016年に英訳版が出版され、そうして2022年1月1日に日本語訳版の発行となった
主に1988年の「8888運動」の頃からの回想記であり
1993年から1999年にかけての獄中記でもある
ミャンマーの人権活動家としての彼女はいわゆるアウンサンスーチー率いる国民民主連盟(NLD)の同胞であり、本書はその結成初期のエピソードであるとか、遊説の記録的側面もあるわけだ(ミャンマーは当時からゴリゴリの軍事政権であり検閲も厳しく記録はほぼ残っておらず、海外で執筆発行された本書はそういった意味でも「貴重」であるらしい)
さて、先にもう少しだけミャンマーの歴史に触れておこう
ミャンマーは複合多民族国家であり、数多くの少数民族が住んでいて
宗教的にも非常に込み入っている
このへんはかつての大英帝国お約束の手法が尾を引いていて
あえてマイノリティにキリスト教を布教し優遇する事で内部対立を煽り、共倒れの後堂々と支配するアレなのだが
そういう対立の中で麻薬という利益は共有されている面もあり、軍事政権でなければ麻薬組織を抑えられないのだという意見もある
2010年代より民主化した時期もあるが(2021年に再び軍事クーデターが起きている)
基本的にミャンマー政府とは、軍事政権と麻薬組織が融合したゴリゴリの独裁政権だ
憲法にあるから選挙はするけど結果は無視します、というような事も何度もやっている
なにせ政府が麻薬王から本拠地を譲り受けているくらいだしな
で、本書はそういうミャンマーの激動の中で、著者が政治活動の中で逮捕された後の生々しく凄惨な、なのにどこかほのぼのとした獄中記がメインになる訳だが
むしろ特筆すべきはこの本が仏教書・啓発書の側面を持っている事だと思う
後半になってくると、著者がいかにして瞑想していたかという詳細な記述が本文の大半を占めるのだ
獄中序盤は彼女含む囚人がいかにして虐げられ、不当な扱いを受けているかについて克明に語られるパートなので
「もうダメかと思ったけどガチで仏教と向き合ったらなんとかなったぜ」
というなんともドラマチックな展開を見せる
ノンフィクションなのだが
この一連の瞑想の記述は大変詩的であり、また妙に端的でもある
わざわざ太字の別フォントになっているところからも著者が重要視している事が想像できる
なんというか、日本に生まれ住む自分との宗教観の違いというか、宗教そのものの価値の大きさが全く異なる事を思い知らされたなあ
万人受けする本ではないのかもしれないが、あまり知ることのないミャンマーという国の一面を覗くには良い一冊と言えるのではないだろうか