愛すべき場末雀荘~三人麻雀~
”場末感のある雀荘”
場末とは、繁華街の中心から離れた場所の意味だが、繁華街の中にも、”場末感のある雀荘”は存在する。独特の雰囲気。僕はこの"場末感"がたまらなく好きだ。
昨日行った雀荘が、”場末感”に満ち溢れていたので、振り返りながらそれについて説明しようと思う。
週末、華の金曜日。
二十時頃に仕事を終え、会社の隣のコーヒー屋で社長とエスプレッソを飲みながら、華金をどう過ごすか考えていた。というより、どこで麻雀をしようか考えていた。友人に連絡してみると、会社から三十〜四十分程の場所で麻雀を打っているらしい。そこに行こう。
電車を乗り継ぎ、目的の駅に到着。行き先は、まだ僕が学生時代のオープン当初から知っているお店。店に入ってみると、金曜日の夜だけあり、満卓。同卓は出来そうもなく、バタバタした雰囲気。
「打てなくてもいいか」
そんな事を考えていたが、ふと気になっている事があった。
何年か前に、同じビルの一階下に雀荘が出来た。エレベーターに乗った時に、フロア案内のそのお店の欄に、”3マフリー出来ます”という文字が書いてあった事だ。ピンの東南の噂だったけど、変わったのかな。
3マフリーは経験が無い。セットがあまり好きではない僕は、3マそのものにあまり経験が無かった。
「ちょっと偵察に行ってくる」
店長にそう言い残し、僕は階段を降りた。
フリー麻雀歴は八年。
年間数千回麻雀を打つが、初めての店というのは、独特の緊張感がある。厚いドアを開けると、麻雀卓が四卓。セットが二組。酔っ払いと3マ。そして待ち席らしきソファーで、寝ている人が一人。ソファーで誰かが寝ている。これは”場末感のある雀荘”では必須条件である。
カウンターの中に、お腹がポッコリした店長、空いてる卓に黄ばんだ白いシャツを着たメンバーが座っている。メンバーの髪の毛はテカテカのオールバック。二人とも六十歳を超えているだろうか。
どんな修羅場をくぐってきたのか。そう思わせる鋭い眼光。しかしとてもいい人そう。年季の入ったメンバー、これも”場末感のある雀荘”の必須条件だ。
来店、3マフリーが初めてな事を伝えると、飲み物を聞かれ、アイスブラックと答える。
「お預かりは一万円です」
言われるがままに一万円札を財布から出し、テカテカの人に渡す。カード清算らしく、一万円分のカードをもらう。
「ではお席の方へどうぞ」
初めての雀荘、初めての3マフリーだというのに、ルール説明は無しである。
郷に入っては郷に従え
"場末感のある雀荘"においては大事な事だが、ルールも分からず打つ訳にはいかない。
「すいません、ルール説明お願いします」
そう、こちらから言わなければいけない。なぜならここは”場末感のある雀荘"だから。
ルール表を渡され、パーっと確認する。
萬子の2〜8を抜くスタンダートなルール。
30000点持ち、40000点返しで1000点50円。
チップは1発裏に200Pつく。
5ソウと5pは四枚とも赤になっていて、北は抜きドラ。
一本場は1000点、流局時は場に2000点。
メンバーがソファーで寝ていた人を起こす。
起きたものの、打たないらしい。なにしてんだこの人。
ソファーの人が打たないとなると、お店の人に囲まれる事になる。初めて入るお店で経験の無い三人麻雀となると、多少警戒心も出てくる。コンビ打ちをされたら、通しを使われたらどうしよう。
しかしコンビ打ちは、一人で打つよりも考える事は増えるし、コンビネーションや記憶力は大事になってくるので、とても技術が必要だし、簡単な事ではない。
出されたコーラを飲みながら、そのレベルではないと勝手に判断し、純粋に初めての3マフリーを楽しむ事にした。
「よろしくお願いします」
卓に座ってみると、三人麻雀なので、空いてる席がある。そこにはガムテープでぐるぐる巻きにされたサランラップが置いてあった。
何なのか気になっていたが、始まってみると、どうやら空いてる席の前の山を、前に出すための物らしい。
関係は無いが、先日会社の近く、社員御用達の"場末感のある病院"に行った時にベットの上に置いてあった、缶の中に鈴が入っている、「ナースコール」と書かれていた物を思い出した。
そのサランラップの置き場所がずれると、牌が上がってくるエレベーターに重なって山が崩れたり、機械のトラブルになったりする。テカテカの人が、危うくトラブルを起こしそうになったのが二回目を数えた時、空いている席の山を前に出すのは僕の仕事になった。
普段とは違い、配牌を開け、親は山から二枚取る。ドラの取り出しも、北の抜きドラの分四枚多く残す。慣れないながらも、置いて行かれないように頑張ってみると、なんと置いて行ってしまったので、ゆっくりやろう。
起家スタート。
打ち方がよくわからないので、真っ直ぐ打つ。五巡目にテンパイ。萬子が入っていないと手牌の進行が早い。平和の6-9sで、高め一盃口。赤が三枚使い、北を二枚抜いていたので、デカそう。アガりたい。
数巡後に高めツモ。
メンピンツモ一盃口赤3北2裏1。
「倍満です」
そういえば聞き忘れていた。
ツモった場合の点数はどうなるのか。
親がツモった時は、点数を二で割るらしい。
その説明の後、二人から9000点渡される。
もう一度役を唱え、「倍満です。。」悲しい申告をする。
勘違いは誰にでもある。これは”場末感”は関係無く、しょうがない事。
12000オールをツモり、幸先のいいスタートを切った。
続く東発一本番にも手が入った。先制リーチをかけ、ツモる。次は跳満だった。
9000オールなのは分かるが、本場の計算が不安だった。
跳満の申告をし、二人が黙って点棒を渡してくるが、合っているのか不安だ。
「すいません、一本場はどうなりますか」
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥。恥ずかしながら聞いてみる。
「ああ、一本場か。じゃあこれ渡すから2000点返して」
任せておけば大丈夫だとは思いつつ、少し不安になりながら点棒をまたやりとりする。
不安は的中。今までリーチしたのは自分だけ。
なのに自分以外の点棒が合っていない。
「21000点ツモったので、二人は9000点になっていればいいのではないでしょうか」
点棒を合わせるのも一苦労。だがそれがいい。
続く三本場、またもリーチを入れる。
すると、下家の店長が追っかけリーチを入れてくる。
何順かツモ切りを繰り返した後、対面のテカテカが追っかけリーチ。
「オープン!!」
ルール表には書いてなかったけど、オープンリーチがあるらしい。
しかも手牌全部をオープン。ツモり四暗刻。突っ込みどころは色々とあるが、割愛する。
店長が一発で掴み、数え役満でトビ終了。
3マフリー、初めての半荘はトップを飾った。
続く二回戦目。
親のテカテカからリーチが入り、幸いにも現物が余る程あり、ベタ降りをしていた。下家の店長は捨て牌の様子がおかしい。恐らく国士だろう。リーチはしていないが、ずっとツモ切りでゼンツしている。
ちなみに二人は常に強打である。
終盤に差し掛かり、テカテカがリーチをツモった時。
「1ピン暗刻か?」
点棒を支払う前に店長が僕に聞いてくる。
対子でしたと答えると、店長は手牌を開け、五巡目からテンパっていたと見せてくる。
自分はそそくさと点棒を払ってから、残りの山を開けて、
「うわー次ツモってましたよ!!」
と相手をする。すると満足気な表情で点棒を払ったので、それに僕も満足した。
その後リーチ合戦に負け、二半荘目はラスになった。
最初に長くない事を伝えてあったので、ラス半をかける。
三半荘目、テカテカが持ち点2000点になり、トップ目は店長。
ツモった時の計算が分からないけど、跳満ツモならまくれそうなので、3ー6ー9pでオープンリーチをかける。
そういえばこの時、待ちの形、45678しか開けなかったけど、何も言われなかった。なんだったんだあの全手牌オープンは。
オープンリーチをツモり、跳ね満で店長を2000点まくり、テカテカを飛ばしてトップで終了した。
収支は+2500P
「短くてすいません、また来ます」
と言うと、店長がにっこり。
「全然大丈夫ですよ、また来てね」
ミイラ取りがミイラ。
恐らく僕はまたこの雀荘に来る。
この温かさ、これだから"場末感のある雀荘"はたまらない。
最後に"場末感のある雀荘"にありがちな事をまとめようと思う。
・メンバーが修羅場をくぐってそう
・コーヒーが美味しい
(今回は飲む事が出来なかった)
・ソファーで誰かが寝ている
・みんな強打する
・メンバーが優しい
・なんかみんな優しい
・待ち席の灰皿が、頭をカチ割れそうな程大きい
・熱茶がごっつい湯のみで出てくる
これが三つ以上当てはまったら、"場末感のある雀荘"です。
というか、ソファーで誰か寝てたらそうです。
他にもいっぱいありそう。
なんとかプラスで偵察を終える事が出来た。
この記事は、潜入レポートをブログとして書き起こしたもの。
人の温かさに触れ、日々の喧騒を忘れて麻雀を楽しむ事が出来た。また行こうと思う。
以上。