入院という名のガマン !
精神疾患を持つ患者の最大の恐怖と言えば、精神科医が行使出来る伝家の宝刀、「措置入院勧告(通告)」です。
これは精神科医が患者の生命が危険と判断したとき、本人の同意が無くとも入院をさせることが出来るという、事実上の「強制入院措置」のことです。
患者とみなされた本人は拒否することが出来ませんから、有無を言わさず閉鎖病棟に引っ張られることになります。
かつては措置入院の診断基準が曖昧(あいまい)だったため、街で仕事にあぶれた浮浪者まで病院側が閉鎖病棟にぶち込む悪質な事例も観られましたが、現在では二人以上の指定ドクターが「治療の必要あり」と判断した場合のみ行使できるという一定の法律の整備がなされています。
閉鎖病棟にぶち込まれた患者はプライバシーの一切無い大部屋住み(4人から6人収容)を経験しなくてはなりませんし、食事も管理されますからシャバ(院外)にいたときのように好きなモノしか食べない、などというワガママは許されません。
起きる時間も寝る時間もすべて朝6時から夜9時までの「健康的で規則正しい」ものに代わります。
どんなに偏食の激しい患者でも病院を出て行くときには何でも食べられるようになっているほど味覚が変化しています。
それでもかつてはタバコが赦されていましたが、現在の病院は精神科ですら敷地内全面禁煙。
唯一の愉しみは たまに食べる甘ジャリ(お菓子)のみです。
刑務所務めと閉鎖病棟の生活は 別名「我慢」と呼び習されるほど苦痛に満ちたもの。
とくに引きこもり患者のような他人と距離を起きたがる精神状態が長く続いたクライアントが閉鎖病棟にぶち込まれると、ある種のパニックを起こす者すら現れます。
プライバシーは全く無く、他人との相部屋で寝起きを強制され、パソコンやタブレット、スマートフォンは原則使用禁止ですから、大甘な両親に甘やかされて やりたい放題だった引きこもりの諸君がどうなるかは想像に余りある(笑)。
昭和生まれの閉鎖叩き上げ患者など、悪戦苦闘する彼ら引きこもり青年を観て「ざまあみろ、ガキが!」と言い放つ者もやはりいました。
閉鎖病棟に長く拘禁された患者にとって、シャバで自由を謳歌している者たちは ある意味「憎しみの対象」でもあるからです。
ですが、法整備と精神障害者の人権保護が問題になる御時世だけあって、30年、40年の病院暮らし患者は殆どいなくなりました。
ここ20年間の精神薬の飛躍的な進歩もまた、患者の退院を後押ししています。
かつてとは違い、日本各地にデイケアセンターが建設された結果、退院後のデイケア通所を条件に退院が許可される事例も多くなりましたし、公営住宅の優先入居や心療内科クリニックに完備された下宿や障害者グループホームに終の棲家を見出す退院者も増えました。
良い時代だと思います。