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弁理士美容師説

弁理士の仕事の大半は特許出願書類の作成である。依頼人から「発明」をヒアリングし、2~3日、ときには一週間くらいかけて、かなりの分量の「特許出願書類」を作成するのだ。書類内容は実に緻密。パソコンに向かってパチパチやる毎日、なぜこんな苦行を続けられるのか。

想像してみて欲しい。

美容師A
美容師である貴方の前にはベルトコンベヤにのったマネキンが大量に送られてくる。貴方は美容師として、事前に指示されたとおりにマネキンの髪を黙々とカットする。来る日も来る日もひたすらにカットする。

美容師B
貴方のところには毎日色々なお客さんがやってくる。ある常連さんは、彼女が中学生のころからのお付き合いだ。別の常連さんは、アイドルのオーディションを受けるというので、以前、最新流行のカットを彼女に合うように少しアレンジして差し上げたところ、とても喜んで頂けた。貴方の評判を聞きつけて、今日は新しいお客さんの予約も入っている。
それぞれ髪質も様々、顔だちも様々、くせ毛もある。お好きなファッションも色々だ。それぞれのお客さんと相談しながら、ベストな髪型を提案する。貴方も最新流行のカットを常に勉強していなければならない。
カット中の雑談も楽しい。中学生のころからの常連さん、今は大学に入り、心理学を勉強しているそうだ。新しいお客さん、最近登山にハマっているとのこと。初心者にお勧めの山を教えてくれた。
そうそう、以前アイドルのオーディションを受けるといっていた常連さん、デビューが決まったそうだ。実は来週、彼女のデビューイベントに招待されている。

美容師Aと美容師B、「カットする」という行為自体はまったく同じなのに、明らかに美容師Bの方が楽しそうである。やり甲斐がありそうである。

「特許出願書類の作成」を仕事とする弁理士も同じなのである。ベルトコンベヤにのった発明を事務的機械的にヒアリングし、事前に指示されたとおり黙々と特許出願書類を作成したって、そんなの楽しい訳ないのだ。やり甲斐を感じる訳ないのだ。

色々なクライアントの色々な発明を伺い、個別具体的な事情を伺い、コミュニケーションを存分に楽しみ、大いにクライアントの期待を感じながら、日々「特許出願書類」の作成に取り組むのだ。時には、社外秘の試作品を極秘裏に見せてもらって発明の説明を受けることもある。特許技術を投入した新製品の発表展示会に招待されることもある。具体的な発明がまだ何も存在しない、新事業の企画の段階から相談に乗って欲しいと言われることもある。そういう風に働けたら、「特許出願書類の作成」という苦行が、一気に楽しく、やり甲斐のあるものになっていくのだ。「特許出願書類の作成」の前、後、ときにはその最中におけるクライアントとの充実したコミュニケーションこそ、「特許出願書類の作成」自体を楽しく、やり甲斐のあるものにする鍵である。

これから弁理士になろうという方は、是非美容師Bを目指して頂きたい。また、現在、美容師Aのように働いてしまっている弁理士の方がいらっしゃれば、今からでも美容師Bに転身することをお勧めしたい。弁理士という仕事が、楽しく、やり甲斐のあるものになること請け合いである。

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