スタートアップの各種プロモーション②-ステマ規制
スタートアップとして、自社のプロダクト/サービスを宣伝するにあたり、例えばインフルエンサーに各種SNSにて自社のプロダクト/サービスの紹介を依頼することもあるだろう。その際、意図せずともいわゆるステルスマーケティングを行ってしまう場合もありうるだろう。
もっとも、ステルスマーケティングは、法的な規制に抵触するおそれがあるのみならず、レピュテーション低下のリスクを伴うものである。少なくとも日本においてステルスマーケティングは、法的な定義がなされているものではないが、いわゆるステルスマーケティングに関する諸問題について若干の検討を行うこととする(拙著「スタートアップの知財戦略」も参照されたい)。
(1)法規制
日本国内においては、ステルスマーケティングを行った場合に問題となるのは、不正競争防止法上の「不正競争行為」の該当性又は景品表示法違反が問題となりうるだろう。
①不正競争防止法
不正競争防止法については、いわゆるインフルエンサーマーケティングに関する事案ではないが、外壁塗装リフォーム業者である原告が、同業者である被告が、自ら管理・運営するいわゆる口コミサイト(以下「本件サイト」という。)において、被告をランキングの1位と表示したことが不正競争防止法上の品質等誤認惹起行為に該当するか否かが争われた裁判例(大阪地判平成31年4月11日(平成29年(ワ)7764号))が参考になるであろう 。この裁判例においては、以下のとおり判示している。
(前略)被告は、架空の投稿を相当数行うことによって、ランキング1位の表示を作出していたと推認するのが相当である。
(…中略…)以上からすると、本件サイトにおける被告がランキング1位であるという本件ランキング表示は、実際の口コミ件数及び内容に基づくものとの間にかい離があると認められる。
そして、本件サイトが表示するようないわゆる口コミランキングは、投稿者の主観に基づくものではあるが、実際にサービスの提供を受けた不特定多数の施主等の意見が集積されるものである点で、需要者の業者選択に一定の影響を及ぼすものである。したがって、本件サイトにおけるランキングで1位と表示することは、需要者に対し、そのような不特定多数の施主等の意見を集約した結果として、その提供するサービスの質、内容が掲載業者の中で最も優良であると評価されたことを表示する点で、役務の質、内容の表示に当たる。そして、その表示が投稿の実態とかい離があるのであるから、本件ランキング表示は、被告の提供する「役務の質、内容…について誤認させるような表示」に当たると認めるのが相当である。
②景品表示法
景品表示法については、消費者庁が「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」 の中で、「『口コミ』情報が、当該事業者の商品・サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるものである場合には、景品表示法の不当表示として問題となる」と言及していることに留意する必要があろう。
③欧米の規制
もっとも、不正競争防止法も景品表示法も、ステルスマーケティングの問題の本質である、「広告主がインフルエンサー等に報酬を払って、自社のプロダクト/サービスをSNS等での掲載を依頼しているにもかかわらず、それらの者が報酬を受けた事実を掲載していない」という点を問題とした法規制ではない。この問題については、本稿執筆時点では日本国内で直接規制する法律等はないものと思われるが、欧米では一定の規制が施されている。
米国では、連邦取引委員会法第5条において、「不公正な競争手法」と「欺瞞的な行為」は違法であると規定され、「金銭を受け取っていながら、公平な消費者や専門家の独立した意見であるかのように装って推奨表現をすること」は「欺瞞的な行為」にあたるとされている。また、連邦取引委員会法の執行に関する「広告における推奨及び証言の利用に関する指針」は、商品又はサービスの推奨者とマーケターや広告主との間の重大な関係の有無及び金銭授受の有無などを開示する義務を関係者に課し、また、「欺瞞的な広告形式に関する法執行指針」は、「金銭を受け取っていながら、公平な消費者や専門家の独立した意見であるかのように装って推奨表現をすること」が違法であるとしている。
EUの不公正取引行為指令は、「不公正な取引行為は禁止されるものとする」とし、「誤認惹起的行為」や「誤認惹起的不作為」は不公正な取引方法に該当するとしている。そして、「商品の販売を促進するためにメディアの論説記事を利用し、かつ、このことを消費者が明確に認識できるように記事内容において又は画像若しくは音声により示さないこと」は「誤認惹起的不作為」にあたると定めている。
そのため、グローバルにプロモーション活動を行う場合に留意すべきはもちろんとして、今後日本においても同様の規制が設けられる可能性も否定できないため、意図せずステルスマーケティングを行わないよう、留意しておく必要があるだろう。
(2)その他の規制等
日本国内においても、業界団体により、加盟企業間で遵守すべきものとして、一般社団法人日本インタラクティブ広告協会が「インターネット広告倫理綱領及び掲載基準ガイドライン」 を、また、WOMマーケティング協議会が「WOMJガイドライン」 を設けており、口コミマーケティング等についての注意事項が明確化されている。
※本稿の内容は、一般的な情報を提供するものであり、法律上の助言を含みません。
弁護士 山本飛翔
Twitter:@TsubasaYamamot3