外科医から文化人類学へ:医療の新しい地平を探る旅
先日、大学で医学部の学生に講義をする機会がありました。
テーマは、医療の現場における文化人類学的なアプローチについてです。
予定していた60分の授業は少し早めに終わり、質疑応答の時間に自分のこれまでの歩みについて少し話をしました。
自分はもともと外科医でしたが、医学部を目指していた頃から地域医療や在宅医療に関心がありました、というところから話を始めました。
その後、自分のフィールドワークの経験も共有しました。
でも今思えば、なぜ自分が文化人類学に興味を持つようになったのか、そこから話を展開すれば良かったな、と少し後悔しています。
そうすれば、他の人にはできない自分ならではの話ができて、もっと深い内容にできたかもしれません。
文化人類学との出会いは、外科医として病院で働く中で、病院の外でも医療を実践したい、地域で役立つ医療を探したいという気持ちが芽生えたことがきっかけでした。
ただし、やりたいと思っていたことは、予防医療のように医療の知識を広めるというよりも、住んでいる人々が安心して暮らせるよう、その人たちの視点で役立つ医療を提供することでした。
当時は、やりたいことのイメージはあったものの、それはとてもぼんやりとしてたものでした。大学院時代、先生や仲間との対話を通じて、文献を読んだり、自分の考えを言語化したりして、ようやく形にしていったことを思い出します。
入学が決まった時から、論文は地域医療に関する内容で書くと決めていたし、地域で頑張っている人たちへのエールになるものを書こうとも思っていました。
それは、これまで出会ってきた地域の人たちが、いろいろな困難を抱えながらも、自分にできることを誠実に頑張り続けている姿を見てきたからです。
もちろん、やりたくてもできないこともあったでしょうし、現場では理屈だけでは片付かないこともたくさんあります。
だからこそ、そういう人たちの努力や思いを尊重せず、ただ課題を並べて「スマートな解決策」を提示するような論文だけは書きたくない、そう強く思っていました。
そんな時、知人の勧めで文化人類学の授業を受けることになり、その先生が医療人類学という分野も教えてくださいました。
中には、患者さんと向き合う現場での苦悩が、新しい知見や解決策の源泉となる、という研究もありました。
その視点に「これだ!」と感じたことを覚えています。
それ以来、自分は文化人類学や医療人類学の視点に魅了され、そのアプローチを取り入れて医療と地域社会の関係性を探求しています。
もし次にまた学生に話す機会があれば、今度はそんな自分のストーリーを共有したいと思っています。
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