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ポルノ・ムービーに駄作はあっても失敗はない『ポルノ・ムービーの映像美学』(長澤均)

長澤均『ポルノ・ムービーの映像美学 エディソンからアンドリュー・ブレイクまで 視線と扇情の文化史』、彩流社、2016年



まず作品の数に驚いて、女優の数に驚いて、それから、まだ映画を観るという喜びが残されている。
この本は、エロティック映画からハードコア・ポルノまで、エポックとなった作品を年代順に追いながらポルノ・ムービー100年の歴史を辿れるように構成されている。内容的にもページ数的にも隅々まで「ポルノ的」エロが沁みわたり、読みごたえは充分すぎるくらい充分だ。

それにしても不思議なのはポルノ・ムービーに失敗作がない理由である。
凡庸な駄作と傑作が混在しているストレート映画のように、映画界の末席に位置するポルノ・ムービーにも駄作と良作があるはずなのに、ポルノ・ムービーにはいつもなにかしらの「見ごたえ」がある。
これはあくまで個人的な経験なのだけど、たとえくだらないと揶揄されるような作品でも、観たあとに後悔する、とか、ハズレだったな、と思うことはあまりない。
もどかしくて、せつなくて、てれくさくい。プライベートな自分に出会ってしまったような感じ。この妙ないたたまれなさが、ポルノ・ムービーを個人的な映像経験にしているのだと思う。
だから、ポルノ・ムービーには駄作はあっても失敗はない。ほんとうは評論すらいらないのだ。意外に思う人がいたら、歴代の恋人たちを思い出してみるといい。退屈な男はいても、悪い男だったわけじゃない。

世界初のハードコア・ポルノ映画は1908年にフランスで製作された『A L'Ecu d'Or ou la Bonne Auberge』という作品で、今となってはそれらしきスチール写真が残るのみだ。あるいは1907年の(こちらもやはりフランス)『Le Voyeur』が最初との説もある。どちらもフィルムは残されていない。
作者によると、最初期のエロティック・フィルムというのは闇市場で流通していたから、一般的な映画のように記録は残らないのだという。そのうえ、おなじ作品をタイトルロールだけを変えて何度も上映していたから『A L'Ecu d'Or ou la Bonne Auberge』は、『A Les Culs d'Or』とか『Mousquetaire』としても公開された。
作り直される度に、より扇情的になっていくタイトルにチケットを買った観客が「騙された!」と思うのか「ラッキー!」と思ったかはわからないけれど、ビジネスとしての手腕はあざやかである。




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