New Year's Eve

 唇の形がずっとコンプレックスだった。
 母親に似て口角がきゅっと上がっているのだが、弟はゆるやかな角度で形のいい唇なのに、自分は角度が急な気がする、と真奈はずっと不服に思っていた。
 小学生の高学年の頃から、友達と話していると、相手の目線が唇におりているのがわかって、そんな時はすぐに口をかたく結んだ。
 大学に入って初めてのコンパでも、向かいに座っていた男の子が真奈の唇の形について「口角あがってるの運勢いいんだってよ」と言い出し、他の女の子が「いいなー」「かわいー」と抑揚なく口にするのを、真奈は作り笑いを浮かべながら聞いていた。
「おれ聞いたことある。口角があがってるのって、天からのラッキーを受け止められるんだって」
 そう言って両手でUの字を作ったのが柊(しゅう)だった。
 柊のラッキーが出た、と男の子たちが笑って話題が真奈からそれたことにほっとした。
 居酒屋で座っている場所は柊と少し離れていたのに、帰る時には「同じ駅だから」と言われ、並んで歩いて帰った。
 柊に同じテニスサークルに誘われて一緒に過ごす時間が増え、ある日「つきあって」と告白されたのだった。
 年越しを一緒に過ごそうと、大晦日の夜遅くに神社で列に並んでいる時、
「今年は真奈に出会えてラッキーだった」
 と唐突に言われ、真奈は照れて笑った。
 ふっと目を閉じた時、唇に何かがふれた感覚があって、真奈は目を丸くして柊を見つめた。その時、年が明けた。そこかしこで明けましておめでとうの声が聞こえる。
 ユーミンの曲だっけ。ハッピーニューイヤーの歌。新しいキス。
 真奈が頭の中で歌詞をなぞっていた時、唇に柊の視線を感じた。もうきつく結んだりしない。
 今年もたくさんいいことがあなたにあるように。
 真奈はそう願って目を閉じた。

おわり

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