15. ジョン・グリシャム Camino Island/「グレート・ギャツビーを追え」、そしてインディペンデント系書店
① Camino Island「グレート・ギャツビーを追え」
前回noteで村上春樹さんや「本当の翻訳の話をしよう」の名前がでたので、昨年2020年「グレート・ギャツビーを追え」という邦題で村上春樹訳が出たジョン・グリシャムのCamino Islandの話を。グリシャムと村上春樹・・・ちょっと意外に思った組み合わせだけれど邦題を見ると納得。村上春樹は、新作が出ると必ず読む作家だけど、彼の翻訳は必ずしも全て好きというわけではないし、続編Camino Windsはそのとき、原作も出たばかりで翻訳で読めないので、イメージをそろえようと、昨年末、両方原作で読了。私にとってフィッツジェラルド、そして1920年代のパリやその時代のパリのアメリカ人たちはツボの一つ、普段あんまり読まないグリシャムを読んだのは、間違いなく村上春樹の翻訳とその題名のおかげ。原題では内容は想像できなかったし。
キャラや役割は違うけど、作家たちをサポートする書店の存在、その書店を中心とする”the literary Mafia”たちの大柄なQueen Beeとそのパートナーの小柄な女性・・パリのシェイクスピア書店やガートルード・スタインとアリス・トクラスなどを勝手に思い出したりする設定もあったりして、読み始めた時に思ったのと全く違う世界に、しばし没頭。
ヘミングウェイの話もCamino Islandにちょっと出てきたのだけど、そう、このさらに1年前の2019年の12月には、キューバにいて、ヘミングウェイのハバナでの定宿や通ったバー、公開されている旧邸宅などにも行ったのだった。キューバの旅を思い出しながら、できるときにできること、行けるときに行けるところ、そして自由に移動・旅できるということがどんなに幸せなことかを改めて思いつつ、読書三昧でそれはそれで幸せな静かな年の瀬だった2020年の年末。
Camino Islandは、インディペンデント書店 Bay Booksが舞台となっているのも泣かせる。本好きにはたまらない。アマゾンや電子書籍で本屋には厳しい時代になっているけど、アメリカは、けっこうインディペンデント(独立系)書店が頑張っていて、西海岸にも面白い本屋がたくさんあって嬉しかった。今この状況でみんな生き延びられるだろうか涙。
以前のnote(3.西海岸のリトリートOjai オーハイ)で、OjaiのBart's Booksのことをちょっと書いたけど、今度は、大好きだったロサンゼルスのちょっとユニークな本屋さん、今どうしてるかなあ、ということやコロナ禍前のアメリカの本屋事情も含めて。
② アメリカ本屋事情(コロナ禍前)
ネット通販や電子書籍の普及で本屋さんが大変なのは想像に難くない。
2017年11月に全米第四位のチェーン Book World(7州に45店)が閉業を発表、全米第二位の規模を誇った Bordersは2011年に倒産、全米第一位のBarns & Nobel (全米600店あまり)も業績は思わしくなく、全米で5か所、Barns & Noble Kitchenという本格的なレストラン併設店舗を試験的に作ってみたり、ブッククラブを始めたり(2017年5月に第一回目)、活路を模索していた。一方、書店の苦境の大きな要因のひとつでもあるアマゾンは、2015年11月、シアトルに「実店舗」の一号店をオープン、意外にミレニアム世代は本は紙で読む派が多いともいわれる。
でも、そのころ、実は、独立系(インディペンデント)書店、個性的な、いわゆる「街の本屋さん」は増加傾向にあり、善戦していた。具体的には、1990年代から2000年代にかけて三分の一に激減した後、2009年に反転、店舗数は2009年の約1650から2017年には2300と約40% 増加したという(ABA全米書籍販売業協会)。
③ 独立系書店の3つのC
独立系書店の復活の要因は、3つのCだという。
まず、「Community」いってみれば「地産地消」。アメリカでは、時々、「チェーン店の進出は一切認めない」という小さな町もあったりするけど、地元で買い物をすること・ローカルの店を大切にすることでコミュニティーをサポートするという「ローカリズム」の考えを広め出した中には、独立系書店のオーナーたちがいるという。
2つ目は「Curation」独自の品揃えでユニークな店舗を作り、本の世界の案内役となり、顧客によりパーソナルな一人一人の個別の体験を提供することを志向し、キュレーターの役割を果たして顧客との関係を築いた。
3つ目は、「Convening」(開催、呼び集め)、つまり、レクチャーやサイン会、読書グループ、ブッククラブ、子供のためのイベントなど、様々な機会を提供して、地域の intellectual center としての存在をプロモートしてきた。
「書店が生き残ってきたのは、ただ本を売るだけではなく、一貫して”キュレーション”と"ディスカバリー"を提供する"コミュニティー”をつくってきたからだ」by ABA CEO Oren Teiche
パンデミックは、この3つのCにも大きな打撃だったにちがいないけれど、街の本屋さん、大丈夫だっただろうか。本屋さんって時々、無性に行きたくなる。本って眺めているだけでも楽しい。街の本屋さんの灯を消さないように、本屋さんに行かなくては(自戒もこめて)。ということで、ちゃんと存続を確認したロサンゼルスの大好きだった本屋さんたち。
④ LAのユニークな独立系書店―The LAST BOOKSTORE
The LAST BOOKSTORE - California’s largest used and new book and record store
まずは、これ、ロサンゼルスのダウンタウンにある、本のワンダーランド。
2005年創業、古い銀行だったビルの総面積22,000sp.ft(2,044sq.m)の店舗は3つ目のロケーションで、古本・新品あわせて25万冊の本や雑誌(95%は古本らしい)、レコードが詰まっている。1階は、あちこちにソファなどが置かれていてゆったり本を選んだり読んだりきできるスペースなのだけど、面白いのが2階の「迷宮」―”the Labyrinth Above the Last Bookstore”- 本のトンネルとか本の窓・・・たくさんの古本のアーティスティックなディスプレイや仕掛けがたくさんあって、毛糸アートが明るい彩りを添える毛糸のお店や, アートギャラリーもある。
オーナーのJosh Spencerは、1996年21歳のときの交通事故で、下半身麻痺により車椅子生活を余儀なくされる。
事故前は大学生活をエンジョイし、将来についてはまだはっきりとした考えをもっていなかったJosh(漠然と、とりあえず日本に行って、英語教師でもしようかな、と思ったりもしていたらしい)の人生は一変。そして、長い復活までの道のりの最後に、ロサンゼルスにたどり着き、車椅子の制約から自分のロフトでオンラインで本を売り始めた後、LAのコミュニティでの出会い、支援により、まさに、Joshが“the big, group art project と呼ぶ実店舗を構えることになる。
こんな楽しい「ワンダーランド」、クローズしてしまったらどうしよう、と心配していたけれど、COVID-19 で80%減となった売り上げを補おうと、ソーシャルディスタンスを保った結婚式や読書会を開催したり、自分の好みの本のリストを送るとスタッフがそれに基づいてセレクトした本を送ってくれるサービスが大好評だったり、頑張っているらしいのが、うれしい。
WHAT ARE YOU WAITING FOR? WE WON'T BE HERE FOREVER・・・“The Last Book Store”という店名は、通販や電子書籍によって実店舗の本屋さんが置かれている状況に皮肉をこめてつけられた・・・ここはずっと続いてほしい。
➄ LAのユニークな独立系書店―Skylight Book
ロスフェリスは、ハリウッドの東、ダウンタウンにもほど近く、特に映画「ラ・ラ・ランド」にも出てきたグリフィス天文台のあるグリフィスパークのすぐ南はLAでも屈指の高級住宅街の一つで、ブラピ(とかつては一緒にアンジーや子供たち)が住んでいて、子供を連れてマリブに出て行ってしまったアンジーが、また同じエリアの豪邸に引っ越した、いうのも以前、話題になっていたエリア。
お隣のシルバーレイクとともに、地元のアーティストやミュージシャン、ライターといったクリエーターたちが多く住む、ポップカルチャー・サブカルチャーが生まれるところでもあり、ちょっとこじゃれた本屋や雑貨屋、古着屋、ビンテージな映画館、いい感じのカフェやバー・・・個性的で素敵なお店がたくさんある。。
そのロスフェリスの、知る人ぞ知る、1996年から続くインディペンデント書店。店に入るとまず、で~んと大きな木(イチジクらしい)、スタッフもみな、アーティストだったり、作家だったり、ミュージシャンだったりするという。読書会も頻繁に開かれていて、コミュニティーの文化の中心の一つとして機能していた。LOS FELIZへ行ったら必ず行く好きな場所だった。
⑥ 本屋さんに行こうーアマゾン実店舗を体験して
もう4~5年前になるけれど、シアトルで、2015年11月オープンのAmazon 初の実店舗を体験した。場所はダウンタウンシアトルから6キロほど北、ワシントン大学のすぐ近く(このモールはかなり気に入った)。
こげ茶のウッドフロアや本棚、窓いっぱいにグリーンが広がる店内はいい感じ。本がすべて背表紙ではなく表紙を表に向けて並べられていて見やすい。価格はAmazon.comと同じ(変動制)で店内に表示はなし、オンラインか、スマホや店内の機械でスキャンして確認。KindleやFire TV、Fire タブレットなども体験できる。支払いはカードのみ、ちゃんとAmazonのオンラインのアカウントとも連動して自動的にプライム会員価格になったり購入履歴にのったりする。
Books with More Than 10,000 Reviews on Amazon.comとかHighly Rated 4.8 Stars & Aboveなんていう、Amazonならではの様々なカテゴリー分けになっているのだけど、"100 Books to Read in a Lifetime"の一番上の段の真ん中にHaruki Murakamiの本。英語版で読んで見るのも面白いかも。
Amazonでしかも電子書籍を買うことが多くなっていたので、ゆっくり「本屋」を堪能、本も買ってみた。両方ともオンラインで、そして多分電子書籍でも買えるのにわざわざ旅先で(笑。
その後、アマゾンは実店舗をロサンゼルスにもオープンしたし、次々展開、これまで書店が次々潰れる原因の1つになってきたとも言えるAmazonが、実店舗を次々展開するとは。でも、選書がオンラインでの販売データに基づいているらしいから、結局は、売れている本、メジャーな本中心のはず、やっぱり、街の書店までAmazon一色では寂しすぎる。個性的な品揃えの独立系書店、頑張って欲しい。応援もしなくては。
⑦ アマゾン・ゴー/非接触型のショッピング
アマゾンは、本だけではなく、2018年1月、会計が完全に自動化された未来型コンビニ、アマゾン・ゴーをオープン、すでに全米で20店舗以上展開している。人工知能やコンピューターヴィジョンを駆使して、レジなしで精算「ジャスト・ウォークアウト(Just Walk Out)」・・・手にした品物をそのまま持って帰るだけ。2020年には、これを応用して、レジなし食品スーパー「アマゾンゴー・グローサリー(Amazon Go Grocery)」もシアトル市内、郊外と2店オープンしている。
アマゾンは、非接触で買い物ができるこの「ジャスト・ウォークアウト」技術を他の企業にもライセンス提供しており、アマゾン以外にもレジなし技術を開発しているスタートアップが複数がある。
非接触型の買い物は、コロナ禍を経験した社会で、今後広がっていくのかもしれない。
オフラインでもアマゾンは、アグレッシブに新たな波をリードしていく。
社会に貢献するアマゾンのアイデア・技術をすばらしいと思うとともに、「街の本屋さん」だけではなく、それだけではない、効率だけではない、残ってほしいもの、残したいものは絶対ある。